クアルコムに対する公取委の課徴金処分に対する大法院の判決
1. 概要
クアルコムに対し、公正取引委員会(以下、公取委)の課徴金処分に関連する大法院の判決が示されました。大法院は、2023年4月13日、公取委とクアルコムがそれぞれ提起した上告審(2020ドゥ31897)において、いずれも棄却し、高等法院の判決が確定しました。
この結果、公取委が問題にしたクアルコムの市場支配的地位の濫用行為3つのうち2つが違法とされ、課徴金約1兆311億ウォン(約10311億円)が確定しました。
2. 事件の経緯
(1)公取委の課徴金処分(2017年1月20日)
クアルコムの以下の行為1-3は、市場支配的地位の濫用として是正を命令し、課徴金1兆311億ウォンを課す。
・行為1:競争モデムチップセットメーカーに対して移動通信に関する標準必須特許(SEP : Standard-Essential Patent)のライセンス提供を拒絶又は制限したこと
・行為2:クアルコムのライセンシーのみにチップセットを供給したこと(No License No Chip)
・行為3:無償Grant Backを要求、包括的ライセンスなど不当な契約条件を強制したこと
(2)クアルコムによる公取委処分の取消訴訟提起(2017年2月21日)
クアルコムが公取委の処分を不服とし、ソウル高等法院に取消訴訟を提起しました。
ソウル高等法院は、行為3は適法であるため是正命令は違法であるとしました。一方、課徴金賦課は行為1、2に関連し、行為1、2が違法である以上、課徴金賦課の処分は適法であると判断しました。(2019年12月4日)
(3)クアルコムと公取委のいずれも上告(2019年12月19日、2019年12月23日)
大法院は、双方の上告をいずれも棄却し、ソウル高等法院の判決が確定(2023年4月13日)しました。
3. コメント
・オープン&クローズ戦略(知的財産のうち、秘匿または特許などによる独占的排他権を実施(クローズ化)する部分と、他社に公開またはライセンスする(オープン化)部分とを、自社利益拡大のために検討・選択する戦略)で成功してきた企業の代表格にクアルコムは挙げられています。クアルコムはCDMAモデムチップ等に関する多くの標準必須特許(SEP)を有するとされ、SEPライセンス契約を締結している携帯端末メーカーのみに、モデムチップを供給しているとされています。チップの供給と特許ライセンスの組み合わせは、「ノーライセンス・ノーチップ」と呼ばれております。この契約では、チップの販売価格に対してではなく、最終製品である携帯電話本体の販売価格100%に対してロイヤリティを設定し、高額なロイヤリティ得ているとされています。
・一方、中国においては、2015年2月10日に中国の独占禁止法に違反したと判断され、制裁金60億8800万元(約1150億円)が課されました。さらに、携帯電話本体の販売価格100%に対するロイヤリティの設定を、携帯電話本体の販売価格65%へと変更されています。
韓国においては、上記行為3に関して適法とされたため、中国と同様のロイヤリティの変更は判決上においては、ないと解されるものの、上記行為1,2に対し、モデムチップメーカや携帯端末メーカーとの間で、今後何らかの対応が取られていくものと予想されます。
・しかしながら、主要なライセンシーであるサムスンは、公取委処分の取消訴訟提起において補助参加をしていたものの、クアルコムとの合意後に補助参加を取り下げています。また、過去にクアルコムのモデムチップの生産受託をしていたとされ、さらに、独自のモデムチップを製造するモデムチップメーカーでもあります。このように、クアルコムにとって、サムスンは、オープン&クローズ戦略における仲間であり、競争者でもあります。よって、韓国において、今回の大法院の判断がどのような影響を及ぼすか、わからないところがあります。
・なお、日本および米国においても、クアルコムに対し独占禁止法等で争われましたが、最終的に違反すると判断されていません。各国ごとに制度や論点が異なるため、一概に言えませんが、オープン&クローズ戦略を推進する場合において、SEPを有し、シュアーが高い場合、独占禁止法の課題が生じる可能性があることを改めて示した事例と言えるかも知れません。
[情報元]
① KIM & CHANG Legal Updates 2023年4月 「クアルコムに対する公取委の課徴金処分に対する大法院の判決」(主に「1.概要」および「2.事件の経緯」部分)
② 公正取引 No.780-2015.10 p.6-18, “特集 新興国等の競争政策の動向 中国国家発展改革委員会によるクアルコムに対する独禁法違反の認定と制裁金支払等の命令”
③ パテント 2019 Vol. 72, No.14, p.97-107, ”Qualcommの「ノーライセンス・ノーチップ」ビジネスモデルの全貌”
④ 「FTC 対 Qualcomm 訴訟で FTC が最高裁への上訴を断念」https://www.jetro.go.jp/ext_library/1/_Ipnews/us/2021/20210331.pdf
⑤(平成31年3月15日)クアルコム・インコーポレイテッドに対する審決について(CDMA携帯電話端末等に係るライセンス契約に伴う拘束条件付取引) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/mar/190315.html
[担当]深見特許事務所 栗山 祐忠