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二次的考慮事項を考慮した自明性に関する最近の2件のCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(以下「CAFC」)は、「非自明性のいくつかの客観的基準、および、クレームされた発明とそれを具体化する商業製品との結びつきに基づいて、特定の申し立てられたクレームを自明ではなく、特許性がある」とした特許商標庁特許審判部(以下「PTAB」)の判断に誤りはないとして、PTABの決定を支持しました。(第1の判決)

              Medtronic, Inc. v. Teleflex社 Innovations S.A.R.L., Case Nos. 21-2357, 21-2359 (Fed. Cir. June 5, 2023) (Moore, C.J.; Lourie, Dyk, JJ.)

 また、上記第1の判決の言い渡し日の翌日に言い渡された、別の判事の合議体パネルによるCAFC判決では、自明性を評価する際に二次的考慮事項とクレームされた発明との関連性の分析に際して、PTABが誤りを犯したため、PTABの非自明性の認定を覆しました。(第2の判決)

              Yita LLC v. MacNeil IP LLC, Case Nos. 22-1373; -1374 (Fed. Cir. June 6, 2023) (Taranto, Chen, Stoll, JJ.)

 上記2件の判決はいずれも、クレームされた発明について、引用された先行技術文献に基づいて自明かどうか、および、商業的成功等の二次的考慮事項に基づいて非自明性を主張することが可能かどうかの両者について判断していますが、本稿では、後者の二次的考慮事項に基づく判断について、重点的に説明します。

 

I.第1の判決について

1.背景

              Teleflex Innovation S.à.r.l’s (以下「Teleflex社」)は、既存のカテーテルベースの狭窄症インターベンションシステムに内在する長年のリスク、特にガイドカテーテルの外れまたはカテーテルの遠位先端(すなわち、挿入部位から最も遠いカテーテルの端)による冠状動脈の損傷を軽減することに成功した新しいカテーテルベースの狭窄インターベンションシステムを開発し、特許(米国特許第8,048,032号、以下「本件特許」)を取得しました。Teleflex社の非常に成功したGuideLinerⓇに組み込まれた好ましい実施形態は、以下に図示(本件特許の図3および図4)するように、近位の実質的剛性部分(図4の20)、強化部分(図4の18)および遠位の可撓性先端部(図3,4の16)を含んでいます。実質的剛性部分20は、下の図4に示すような2段階傾斜構造を含む半円筒状の近位側面開口42を備えています。

 ここで、「インターベンション」とは、心臓、血管、肝臓、脳、消化器、泌尿器などの病気に対して、カテーテル(直径2~3mm程度のチューブ)を皮膚に開けた穴から血管に挿入して行う治療法の総称です。

[本件特許(US8,048,032)の図3,4]

 同軸ガイドカテーテル(図3,4の12)は、標準的なガイドカテーテルを介して挿入できる大きさに形成されているため、ガイド延長カテーテルと呼ばれています。このようなネスティング(入れ子)機能を有し、ガイド延長カテーテルの遠位端を柔らかい材料で構成することにより、患者に深く挿入されたときに人体組織の損傷を引き起こす可能性を低くすることができます。Teleflex社の実際の製品であるガイド延長カテーテル(GuideLinerⓇ)も、インターベンション用の心臓病デバイスを受け入れるために最適化されました。この最適化された機能は、本件特許のクレームされた発明と同様、次の3つの特徴を備えています。

 (a)ガイドカテーテルの内腔とガイド延長カテーテルが同軸であること、

 (b)ガイド延長カテーテルの外径がガイドカテーテルの内腔の直径より1フレンチ(すなわち、1/3mm)だけ小さいこと、および

 (c)ガイド延長カテーテルが2段階傾斜構造の近位側面開口を有すること

を組合せたこと。

 Teleflex社のGuideLinerⓇは2009年に導入され、「誰もが認める商業的成功と業界の賞賛」を享受しました。2019年、Medtronic社は競合するガイド延長カテーテル(TelescopeⓇ)を導入し、Teleflex社の延長ガイドカテーテルに関する特許ファミリーに対して6つの当事者系レビュー(IPR)の請願書を提出しました。請願書のうちの3件においてMedtronic社は、Teleflex社の3件の特許で異議を唱えられたクレームは、先行技術文献(Ressemann引例)に開示されたシーリングバルーンを使用して血流を遮断しながら塞栓性材料を吸引するために使用される遠位側開口部を有する避難シースアセンブリにより自明であると主張しました。他の3つの請願書では、先行技術文献(Kontos引例)に開示された血管形成術バルーンを送り込むためのサポートカテーテルにより自明であるとして、他の特許クレームに異議を唱えました。

 Medtronic社は、Teleflex社が主張するクレームされた発明の上記3つの特徴(a)~(c)のそれぞれが、先行技術文献により自明であると主張しました。

2.PTABの決定と、CAFCへの上訴

 PTABは6つの請願すべてについてIPRを開始し、一部の特許クレームについては特許性がなく、他の特許クレームについては特許性があるとの最終的な書面による決定を下しました。PTABはまた、異議が申立てられた特定のクレームを修正するTeleflex社の申し立てを認め、さらに、Teleflex社の専門家の証言を信用することにより、Medtronic社の自明性の主張を却下し、これらの修正されたクレームは特許性がないとは言えないと判断しました。またPTABは、Teleflex社がGuideLinerⓇに関して示した客観的指標(たとえば、商業的成功、業界の賞賛、競合他社のコピー、長年感じられたニーズの満足)に基づく非自明性の主張に同意しました。

 Medtronic社は、6つの最終的な書面による決定のすべてについてCAFCに上訴し、特に、特許クレームのいくつかは自明ではないというPTABの見解に異議を唱えました。

3.CAFCの判断

 (1)有力な(substantial)証拠について

 Medtronic社は、一部の特許クレームについては、Teleflex社の非自明性に関する二次的考慮事項の客観的指標に対するPTABの扱いに対してのみ上訴しました。それに対してCAFCは、Medtronic社が提起した問題のほとんどは、法的誤りではなく、PTABの事実認定(fact finding)との不一致に該当するとの見解を示しました。

 これらの問題について、CAFCは、二次的考慮事項に関する有力な証拠が、Medtronic社の専門家よりもTeleflex社の専門家を信用するというPTABの決定を裏付けると判断し、PTABの事実認定を支持しました。CAFCはまた、「PTABの最終的な書面による決定には、Medtronic社の『先行技術文献の開示を組合せる動機』の主張を『説得力がない』として却下するPTABの理論的根拠が含まれていなかったため、PTABが誤りを犯した」というMedtronic社の主張を却下しました。CAFCは、PTABが書面による決定においてより詳細に述べるべきであったことを認めた上で、PTABが少なくとも、CAFCの過去の決定に定められた基準を少なくとも満たしており、また基準を上回っている場合もあり、PTABの決定に至る道筋は合理的であると認められると判断しました。

 (2)二次的考慮事項についての客観的指標とクレームされた発明との結び付き(nexus)

 CAFCは、提示された証拠とクレームされた主題との間に関連性があったため、Teleflex社が主張した客観的な指標(indicia)に基づく非自明性をPTABが正しく認定したと結論付けました。CAFCはさらに、客観的証拠が特定の製品(Teleflex社のGuideLinerⓇ)に結びついていたため、Teleflex社の客観的証拠と問題となっているクレームとの間の関連性をPTABが正しく認定したと判断しました。またCAFCは、PTABの「関連性」の認定に対するMedtronic社の異議申し立ては、潜在的な法的誤りを特定しない、単に「PTABの事実認定への不同意」に該当するとの見解を示しました。

 CAFCはさらに、Medtronic社が、GuideLinerⓇの商業的成功をもたらしたとする機能に関連する特徴(すなわち、迅速な交換機能、バックアップサポートの増加、および近位側面開口)の組合せを、Ressemann引例にも開示している特徴であると主張したことに言及しました。その点についてCAFCは、GuideLinerⓇの成功は、近位側面開口と組合せて心臓病用インターベンションデバイスの受け入れを容易にした管状同軸内腔にも起因しているというTeleflex社の特徴付けを信用する実質的な証拠があり、先行技術文献がそのような同軸内腔を教示していないと結論付ける実質的な証拠もあると認定しました。CAFCの説明によれば、Medtronic社は、Teleflex社の客観的証拠が、クレームされた発明全体ではなく、従来技術の組み合わせとして知られている特徴部分に関連することを示すことによって、この認定に反論することができたにもかかわらず、Medtronic社がここでそのようにしなかったことを、PTABが正しく認定しました。

 次に、CAFCは、競合他社による模倣(copying)、高いレベルの商業的成功、業界の重要な賞賛、医学界内の長年のニーズの解決など、Teleflex社の客観的な証拠を検討しました。CAFCは、これらの指標に関する証拠は、問題となっているすべてのクレームに記載の発明の非自明性を実証するのに十分強力であるとの見解を示しました。

 CAFCは、PTABが特許性がないとは言えないと認定したクレーム、すなわち1フレンチまたは2段階傾斜の限定を含むクレームに関して、Teleflex社の客観的証拠が果たした重要な役割を強調しました。これらの主張に関して、PTABは、先行文献の開示に基づくMedtronic社の自明性に関する一応の主張は「妥当かどうかはっきりとは決めがたい」と判断しましたが、Teleflex社が主張した二次的考慮事項の客観的証拠によって非自明性を認めました。CAFCは、PTABの客観的証拠の認定は尊重されるべきであり、いずれにせよ、「そのような強力な客観的証拠は、自明かどうかをはっきりとは決めがたいケースを克服するのに十分である」というPTABの立場に疑問を呈する理由は見つからなかったと指摘しました。以上の理由によってCAFCは、PTABの決定を支持する判決を下しました。

 

II.第2の判決について

1.背景

 Yita LLC(以下「Yita社」)は、2つの特許のすべてのクレームについて当事者系レビュー(IPR)を請願しました。それらの2つの特許は共通の明細書を共有し、実質的に均一な厚さのポリマーシートから成形された車両フロアトレイを開示しています。これらのトレイ(下に示す米国特許8,382,186および8,833,834(以下「本件特許」)の図1参照)は、車両の床面にしっかりとフィットするように設計されているため、トレイは取り付け後に所定の位置に留まります。

[米国特許8,382,186および8,833,834の図1]

2.PTABの決定と、CAFCへの上訴

 PTABは、当業者が、たとえ車両の床面とトレイとの「密接な適合性」の限定を開示した先行技術を組合せるように当業者が動機付けられたとしても、二次的考慮事項の証拠が圧倒的に強力であり、成功の証拠と特許発明との間の結び付き(nexus)が認められたため、1つの特許クレームについて自明ではないと判断しました。その決定に対してYita社は、CAFCに上訴しました。

3.CAFCにおける審理

 Yita社は、PTABが最初の特許の二次的考慮事項の証拠の分析において法的誤りを犯し、またYita社が他の特許に関する答弁書(reply brief)で提起した議論を考慮しなかったことは、裁量の乱用であると主張しました。

 二次的考慮事項の問題に関してCAFCは、PTABがもっぱら先行技術でよく知られている特徴(すなわち、トレイと車両フロアとの間の密接な適合性)にのみ関連付けていたため、成功の二次的考慮事項の証拠とクレームされた発明との間の関連性を見つけることに誤りがあったと説明しました。CAFCは、先行技術がよく知られている特徴を教示しており、当業者がそのような先行技術と成功の期待を組み合わせるように動機付けられていた場合、よく知られている特徴にのみ関連する二次的な考慮事項は、クレームされた発明の自明性を解消する要因にはならないと説明しました。CAFCは、二次的考慮事項は、クレームされた発明の個々の要素または要素の発明的組み合わせに結び付けることができるものの、PTABは、トレイと車両床のすでによく知られている密接な適合性の特徴のみに関連する二次的考慮事項の証拠に依存していると指摘しました。

 次に、CAFCは、PTABは車両の床面とトレイとの密接な適合性についての限定に関するYitaの答弁書で提起された議論を検討すべきだったというYitaの主張に対処しました。Yitaは、答弁書でその議論を提起する前に、密接な適合性についての限定に到達するために先行技術文献の開示を変更することは自明であったであろうという議論を提起しませんでした。CAFCは、特許性がないことの新たな理由を検討するかどうかを決定する際にPTABが裁量権を持っていることに同意し、PTABはその裁量を乱用しなかったと判断しました。

 以上の判断に基づきCAFCは、二次的考慮事項の客観的証拠が、特許クレームの発明の複数の特徴の組合せに結び付いており、そのような特徴の組合せについて先行文献の開示に基づく非自明性を主張されていないことを理由として、PTABの自明ではないとの決定を覆す判決を下しました。

 

III.実務上の留意点

 上記2件のCAFC判決から、非自明性の客観的指標としての商業的成功等の二次的考慮事項について、次の点に留意すべきことが読み取れます。

 1.クレームされた発明の特徴が先行技術文献の開示によって自明であるかどうか明確ではない場合、当該クレームされた発明の特徴と関連性のある二次的考慮事項の客観的な証拠を提示することによって、非自明性が認められる可能性があります。

 2.非自明性を支持する二次的考慮事項を論じる場合、クレームされた発明の単一の特徴を前提とする非自明性の主張は、その特徴が先行技術において見出され得る場合、反論が容易であり得るので、クレームされた発明の複数の特徴の組合せに結び付く、非自明性の1つ以上の二次的指標(secondary indicia)の証拠を提示することが有効であり得ます。

 3.そのような場合を考慮して、特許無効を主張する当事者は、発明の複数の特徴の組合せについても、先行文献の開示の組合せ等に基づく自明性の主張を、PTABによる採否の裁量を考慮して、できるだけ早い時期に行なっておくことが望まれます。

[情報元]

1.IP UPDATE (McDermott Will & Emery) “Obviously Prima Facie Case Overcome by Secondary Considerations” June 15, 2023

              https://www.ipupdate.com/2023/06/obviously-prima-facie-case-overcome-by-secondary-considerations/

2.Medtronic, Inc. v. Teleflex Innovations S.A.R.L., Case Nos. 21-2357, 21-2359 (Fed. Cir. June 05, 2023) 判決原文

              https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-2357.OPINION.6-5-2023_2137084.pdf

3.IP UPDATE (McDermott Will & Emery) “Absent Nexus Secondary Considerations Come in Second” June 15, 2023

              https://www.jdsupra.com/legalnews/absent-nexus-secondary-considerations-6634455/

4.Yita LLC v. MacNeil IP LLC, Case Nos. 22-1373; -1374 (Fed. Cir. June 6 2023)判決原文

              https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/22-1373.OPINION.6-6-2023_2137962.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登