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IPRの勝者側当事者による上訴の禁止

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は先例を再確認し、当事者系レビュー(IPR)の勝者側当事者は特許審判部の審決に対して上訴できないという原則を繰り返しました。
Termax Co. v. Illinois Tool Works, Inc., Case Nos. 23-1252; -1254 (Fed. Cir. Mar. 8, 2023) (Dyk, Reyna, Chen, JJ.)

1.事件の経緯
 Illinois Tool Works, Inc.(以下、ITW社)は、Termax Co.(以下、Termax社)が、自動車用ファスナーに関するITW社の米国特許第10,683,882号(以下、本件特許)を侵害していると主張しました。これに対してTermax社は、IPRの申立書を提出して、ITW社の主張された特許に異議を唱えました。このIPRの申立は認められ、最終的に特許審判部は、ITW社の特許の異議申立されたすべてのクレームが特許を受けることができないという点でTermax社に同意しました。

2.CAFCへの上訴
 ITW社はこの審決を不服としてCAFCに上訴し(事件番号2023-1252)、Termax社もまたCAFCに交差上訴しました(事件番号2023-1254)。IPRの勝者側当事者であるTermax社の交差上訴の理由は、IPRにおいて特許審判部が本件特許の特定のクレーム限定の解釈を誤っており、そのクレーム限定が、新しく発行したITW社の他の特許にも組み入れられていることによるものです。Termax社としては、控訴審でクレーム解釈の議論に関して望ましい判断を得ておくことで、ITW社が新たに発行された特許を主張することを間接的に禁止することを希望したものでした。
 その後、ITW社は、自身の上訴(2023-1252)について自発的に却下の申立を行うとともに、Termax社の交差上訴(2023-1254)についても却下の申立を行いました。Termax社は、上述の交差上訴を行った理由に依拠して、この却下の申立に反対しました。

3.CAFCの判断
 CAFCは、ITW社の申立を認め、ITW社の上訴およびTermax社の交差上訴の双方を却下しました。CAFCはこれまでも、「下級裁判所で勝訴した当事者は、通常、上級裁判所で救済を求めることができない」という周知の原則を特許審判部からの上訴に対して適用してきたことを指摘し(SkyHawke Techs., LLC v. Deca Int’l Corp., 828 F.3d 1373, 1375(Fed. Cir. 2016))、本件においてもこの原則から逸脱する根拠は何ら存在しない、と述べました。
 CAFCは、Termax社が、自社に有利なCAFCの判決が「ITW社がその新たに特許されたクレームについて権利を主張することを間接的に禁止するであろうこと」を期待して、そのようなクレーム限定の解釈について上訴しようとしたものであることに注目し、審判部が特定のクレーム限定の解釈において誤りを犯したというTermax社の主張によっては説得されませんでした。CAFCは、Termax社は将来発生するかどうかもわからない不利益に先手を打とうとしているものに過ぎず、ITW社が将来、Termax社に対して新しい特許のクレームについて権利を主張する場合には、Termax社は、その時点で問題に対処することができる(万が一Termax社にとって不利な結果になってもそのときに控訴することができる)と述べ、Termax社による交差上訴での主張を審理することは時期尚早であるとして拒否しました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | March 23, 2023 “No One Likes a Sore Winner: IPR Prevailing Party Can’t Appeal”
② Termax Co. v. Illinois Tool Works, Inc., Case Nos. 23-1252; -1254 (Fed. Cir. Mar. 8, 2023) (Dyk, Reyna, Chen, JJ.)(CAFC判決原文)

[担当]深見特許事務所 堀井 豊