Aliceの2ステップテストに関するCAFC判決
米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、抽象的なアイデアに向けられかつ抽象的なアイデアを特許適格な発明に変換する発明概念を欠いている特許クレームは、Alice事件の2段階テスト(Alice two-step test)に不合格であり、米国特許法101条の特許適格性を満たさないと認定し、侵害訴訟の被告による訴えの棄却の申立を認めた地方裁判所の判決を支持しました。
Hawk Tech. Sys., LLC v. Castle Retail, LLC, Case No. 22-1222 (Fed. Cir. Feb. 17, 2023) (Reyna, Hughes, Cunningham, JJ.)
1.事件の経緯
Hawk Technology Inc.(以下、Hawk社)は、米国特許10,499,091号(以下、本件特許)の特許権者です。この本件特許は、ビデオ監視システムの遠隔の視聴装置において、複数の同時に表示されかつ保存されたビデオ画像を視聴する方法に関するものであり、結果に基づいた機能的文言を使用したものです。Hawk社は、Castle Retail, LLC.(以下、Castle社)が、その食料品店でセキュリティ監視ビデオを動作させたことは本件特許の侵害であると主張して、Castle社をテネシー州西部地区連邦地方裁判所(以下、地裁)に訴えました。
Castle社は、主張されたクレームは特許適格性を有さず無効であるとして、訴えを棄却するよう連邦民事訴訟規則12(b)(6)の申立を行い、地裁はこれを認めました。Hawks社はこの判決を不服としてCAFCに控訴しました。
2.事件の争点
本件の争点は、本件特許のクレームが米国特許法101条の特許適格性を満たしているかどうかという点にあります。
米国特許法101条は、自然法則、自然現象、および抽象的なアイデアは特許を受けることができないと規定しています。Alice v. CLS Bank Int’l事件(2014)において、米国連邦最高裁判所は、特許適格性を調べるための2段階テストを表明し、(1)特許レクームが、抽象的なアイデアのような特許不適格な概念に向けられており、かつ(2)当該特許クレームを特許適格出願に変換するのに十分な要素を欠いているときには、当該特許クレームは101条の特許適格性の範囲外にあるとしました。
今回、CAFCは、本件特許の特許適格性についてこの2段階テストで対処しました。
3.本件特許の概要
以下に示す本件特許の図3は、本発明によるビデオ監視システムを示しています。このビデオ監視システムは、マルチカメラ302、ブロードバンド接続310、サーバ312、およびモニタ制御システム314を備えています。この特許は、この構成において、カメラからの信号が、ブロードバンド接続を介して比較的低いデータレートおよび可変のフレームレートで、ストリーミングソースとして送信される、と説明しています。これにより、ユーザーのコストが削減され、必要なメモリ容量が低くなり、より大きなモニタリングのアプリケーションを処理することが可能になります(帯域幅の効率のため)。本件特許が注目しているように、この構成は、「既存のブロードバンドインフラストラクチャ」および「一般的なPCベースのサーバ」を使用します。
4.本件特許のクレーム1
本件特許の代表的なクレームとして、以下のクレーム1を挙げます。
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- A method of viewing, on a remote viewing device of a video surveillance system, multiple simultaneously displayed and stored video images, comprising the steps of:
receiving video images at a personal computer based system from a plurality of video sources, wherein each of the plurality of video sources comprises a camera of the video surveillance system;
digitizing any of the images not already in digital form using an analog-to-digital converter;
displaying one or more of the digitized images in separate windows on a personal computer based display device, using a first set of temporal and spatial parameters associated with each image in each window;
converting one or more of the video source images into a selected video format in a particular resolution, using a second set of temporal and spatial parameters associated with each image;
contemporaneously storing at least a subset of the converted images in a storage device in a network environment;
providing a communication link to allow an external viewing device to access the storage device;
receiving, from a remote viewing device remoted located remotely from the video
surveillance system, a request to receive one or more specific streams of the video images;
transmitting, either directly from one or more of the plurality of video sources or from the storage device over the communication link to the remote viewing device, and in the selected video format in the particular resolution, the selected video format being a progressive video format which has a frame rate of less than substantially 24 frames per second using a third set of temporal and spatial parameters associated with each image, a version or versions of one or more of the video images to the remote viewing device, wherein the communication link traverses an external broadband connection between the remote computing device and the network environment; and
displaying only the one or more requested specific streams of the video images on the remote computing device.
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5.第一審での判断
Castle社は、本件特許のクレームが米国特許法101条に基づく特許適格性を持たないという理由で、訴えの棄却を申し立てました。地裁は、技術に関するブリーフィングを行った後に、本件特許のクレームは、Alice事件の2段階テストに不合格であるとして、この申立を認めました。地裁は2段階テストの各ステップについて以下のように判示しました。
2段階テストのステップ1については、監視のためのモニタリングは一般的なビジネス慣行であり、本件クレームは、ビデオ監視画像を取得し、それを従来のコンピュータシステムで表示および保存するためにデジタル化すること以上のことはほとんど述べていないため、本件クレームは抽象的であると判示しました。
2段階テストのステップ2については、本件クレームは抽象的なアイデアを、そのような抽象的なアイデアを特許適格性のある発明に変換することができるビデオ記憶/表示の新しい技術的改善に限定するものでもない、と判示しました。
6.CAFCの判断
CAFCは、地裁の判決を最初から見直し、そして地裁判決を支持しました。CAFCは2段階テストの各ステップについて以下のように判示しました。
(1)Aliceのステップ1について
CAFCは、クレームが抽象的アイデアに向けられているかどうかを判断するために、「先行技術を超えるクレームされた進歩の焦点として本件特許が何を主張しているのか」について調べました。その際に、明細書に照らして、主張されたクレームの文言に焦点を当てました。地裁はこの点に関して、本件特許はビデオ画像を記憶し表示する抽象的なアイデアに向けられていると結論付けましたが、CAFCはこの結論に同意しました。
本件特許を代表する上記のクレーム1は、「結果に基づいた機能的文言を使用した」、デジタルビデオ画像を、受信し、表示し、変換し、記憶し、そして送信する方法に向けられています。より詳細に説明しますと、クレーム1は、以下の機能的な結果を必要としています:
・「ビデオ画像を受信すること(receiving video images)」;
・「デジタル形式にまだ変換されていない画像のいずれかをデジタル化すること(digitizing any of the images not already in digital form)」;
・「デジタル化された画像の1つ以上を表示すること(displaying one or more of the digitized images)」;
・「ビデオソースの画像の1つ以上を選択されたビデオフォーマットに変換すること(converting one or more of the video source images into a selected video format)」;
・「変換された画像の少なくともサブセットを記憶すること(storing at least a subset of the converted images)」;
・「通信リンクを提供すること(providing a communication link)」;
・「ビデオ画像の1つ以上の特定のストリームを受信する要求を・・・受信すること(receiving … a request to receive one or more specific streams of the video images)」;
・「1つ以上のビデオ画像のバージョンを・・・送信すること(transmitting … a version or versions of one or more of the video images)」;および
・「ビデオ画像の1つ以上の要求された特定のストリームのみを表示すること(displaying only the one or more requested specific streams of the video images)」
CAFCは、本件特許のクレームは、CAFCがこれまでに抽象的アイデアに向けられたものであると認定したクレームと同様のものであると判断しました。たとえば、CAFCはかつて、「画像データを符号化および復号化し、・・・いつデータが1つの媒体から受信され、他方の媒体を介して送信されたかを含めて、フォーマットを変換することはそれ自体抽象的なアイデアである」と判示しました(Adaptive Streaming Inc. v. Netflix, Inc., 836 F. App’x 900, 903 (Fed. Cir. 2020))。本件特許も同様に、画像を表示し、画像のフォーマットを変換し、画像を送信する、等々の一般的な抽象的アイデアに向けられたものであるとCAFCは判断しました。
Hawk社は、本件特許は抽象的なアイデアに向けられたものではなく、「技術的課題に対する解決策、特に、画像のプロ品質の編集および操作を提供しつつ全帯域幅の解像度を維持することができるマルチフォーマットのデジタルビデオ製品システム」に向けられたものであると主張しました。Hawk社は、技術的課題は、「データを保存しながら帯域幅を維持すること」であり、このための解決策は、「ビデオストリームの特別なデータ変換を実行し」、「データの性質を変化させるために」データをデジタル化し変換することによって実現されるものであり、抽象的なアイデアではなく、特許適格性を有すると主張しました。
しかしながら、CAFCはこの主張を認めませんでした。ステップ1の分析は、明細書に発明の技術的詳細がいくら書かれていようと、クレームの文言に焦点を当てたものでなければなりません。本件特許では、クレーム自体は、何らかの「特別なデータ変換」を行うことについて開示しておらず、または「データを保存しながら帯域幅を維持すること」という主張された目的をどのようにして達成するのかを説明していません。ビデオデータのフォーマットを変更したりまたは圧縮するようなことを含む、あるフォーマットから別のフォーマットへの変換は抽象的なアイデアであることは、上述の先例においても判示されているところです(Adaptive Streaming Inc. v. Netflix, Inc.事件)。
このように、結果指向のクレーム文言は、クレームされた発明がビデオ監視システムの機能をどのように改善したかを具体的に述べることができず、したがって抽象的であると判断されました。
(2)Aliceのステップ2について
変換するための要素については、CAFCは、「クレームの要素がクレームの性質を、抽象的アイデアの特許適格性を有する応用へ変換するかどうかを評価するために」、クレームの要素を、個別におよび明細書に照らして順序付けられた組み合わせとしての双方で分析しました。
地裁の判決では、本件特許のクレームは明細書に照らして読んでもビデオの記憶および表示について技術的改良を示していないと認定しました。なぜなら、クレームの限定事項は、汎用コンピュータの要素を用いて実現し得るものであったからです。また地裁は、明細書およびクレームは、既存のコンピュータおよびカメラの技術を用いることを除くと、監視および記憶がどのように改良されるかについて説明も開示もしておりません。その結果、地裁は、クレームはAliceのステップ2を満たしていないと判断したものであり、CAFCもこれに同意しました。
Hawk社は、クレームが発明的解決策、すなわち、同じ帯域幅を使用しながら同じデジタル画像を異なる目的のために異なるデバイスに送信するメリットを達成し、かつ、特定のツール(必要に応じてADコンバータなど)、特定のパラメータ(3つの異なるセットの時間的および空間的パラメータなど)、さらには特定のフレームレート(毎秒24フレームなど)を参照する解決策を記載していると主張しました。しかし、たとえクレームがこのような目的にかなった解決策を達成するとしても、クレームは、そのための一般的な機能的文言を用いているだけであり、通常の機能に従って動作している従来のコンピュータおよびネットワーク構成要素以上の物は要求しておりません。
CAFCは、クレームが「パラメーター」を含むことは認めますが、クレームは、パラメータが何であるかを正確に特定できておらず、パラメーターはせいぜい抽象的なデータ操作、画像のフォーマットおよび圧縮に関するものに過ぎません。Hawk社は、クレームがその方法を実施するために、従来の構成要素、「パーソナルコンピューター」、「ビデオソース」、「ADコンバーター」、「記憶装置」、「外部視聴装置」、「通信リンク」、および「遠隔コンピューティングデバイス」といった従来の構成要素を記載している、ということについては論争していません。本件発明が「既存のブロードバンドの媒体およびその他の従来の媒体を利用する」ことを意味していることを、本件特許そのものが確認しています。要するに、明細書に照らして理解されるように、クレームにおけるどの事項も、所望の情報を収集し、送信し、提示するために、既製の従来のコンピューター、ネットワーク、表示の技術、以外の何ものも必要とはしておりませんでした。
[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | March 2, 2023 “The Alice Eligibility Two-Step Dance Continues”
② Hawk Tech. Sys., LLC v. Castle Retail, LLC, Case No. 22-1222 (Fed. Cir. Feb. 17, 2023) (Reyna, Hughes, Cunningham, JJ.)(CAFC判決原文)
[担当]深見特許事務所 堀井 豊