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GATTバブル出願を特許発行を遅らせる不当なスキームであるとして権利行使不能と判断したCAFC判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、異常に長い期間にわたる特許の保護を維持するための戦略の一環として、特許権者が数百件の特許出願を行った事件に対処し、特許権者が特許発行を遅らせるための計算された不合理なスキームに従事したという地方裁判所の判断を支持しました。
Personalized Media Comms., LLC v. Apple Inc., Case No. 21-2275 (Fed. Cir. Jan. 7, 2023) (Reyna, Chen, JJ.) (Stark, J., dissenting)

1.事件の背景
 「ウルグアイラウンド協定法」と「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」により、米国の特許期間は、従来の特許発行日から17年ではなく、有効出願日から20年に修正されました。GATTは1995年6月8日に発効しましたが、GATTの施行に至るまでの数か月間、特許権者を目指す一部の者たちは、将来の特許出願の根拠を与えかつGATT以前のより長い期間を得るために、膨大な開示を伴う特許出願の種を蒔きました。実務家はこの期間をGATTバブルと呼び、これらの出願から成立する特許は、優先日から20年ではなく、発行日から17年の存続期間を有することになります。

2.事件の経緯
 Personalized Media Communications(以下、PMC社)は328件のGATTバブル出願を提出しました。そして、その各々は先行する2つの出願のコピーでした。これらの出願は、本文500頁以上、図面22頁以上、というように異常な長さと複雑さであり、しかも当初は1個のクレームで出願して後で補正を行い、ときには別々の出願に跨がって同じ文言のクレームを提出するなどして、クレームの総数を6,000〜20,000の範囲にまで増やしました。しかもPMC社は、先の出願から8~14年も経ってから新たな出願をしたり、16年も経ってから現在訴訟の争点となっている新たなクレームを提示するようなことを行いました。また、PMC社は、ほとんど関連性のない文献を含む膨大な先行技術の開示を行ないました。このようなPMC社の行為によって、米国特許商標庁(USPTO)は、ダブルパテントの優先順位や記載要件の分析が不可能になり、審査手続を一時停止したりしました。
 PMC社は、このようにして権利化した特許の中の米国特許第8,191,091号について、Apple社のFairPlayデジタル著作権管理ソフトウェアが、復号化方法をカバーするPMC社の特許権を侵害していると主張して、2015年にApple社をテキサス州東部地区連邦地方裁判所に訴えました。そして、3億3000万ドルの陪審評決を勝ち取りました。
 評決後、地裁はベンチトライアル(陪審員によらない裁判官のみの審理)を行い、最終的に、特許権者が特許の取得を不当に遅らせて被告侵害人に損害を与えるような場合に特許の主張を禁止する法理である、「権利化手続における懈怠(prosecution laches)」のために、特許が権利行使不能であると判断しました。PMC社はCAFCに上訴しました。

3.地裁の判断
 地裁は、CAFCが最近取り扱ったHyatt事件(Hyatt v. Hirschfeld, 998 F.3d 1347, 1359–62 (Fed. Cir. 2021))の判決に依拠し、「権利化手続における懈怠」による権利行使不能を主張するものは、①審査手続における出願人の遅延が、全体的な状況の下で不当で言い訳の出来ないものであること、および②その遅延に帰することができる不利益を被ったこと、の双方を立証しなければならないと判断しました。そしてこのような法的な枠組みの下で、PMC社は、上記の行為により、法で定められた特許制度を著しく悪用する不当で説明不能な遅延に従事した、と認定しました。

4.CAFCの判断
 CAFCは地裁の判断を支持しました。CAFCはまず、PMC社が不当に審査を遅延させたということを地裁が適切に結論付けたかどうかを検討しました。幅広い記録証拠に基づいて、Reyna判事、Chen判事、およびStark判事の3人の合議体メンバー全員が、Hyatt事件の特許権者(381件のGATTバブル出願を行った)と同様に、PMC社が特許発行を遅らせ、かつその独占期間を延長するための意図的な計画に従事していたことに同意しました。
 PMC社は、USPTOとの間で、いくつかの出願の審査を優先するための併合手続(出願を56の主題のカテゴリーに分類)を行う合意を形成したと主張して、本件をHyatt事件から区別しようと試みました(Hyatt社はそのような出願の区分の計画を有していませんでした)。しかしながらCAFCは、そのような合意の構造が依然としてPMC社の出願の決着を不当に長引かせていると結論付けました。CAFCはまた、提出された出願の数、および優先日から16年経ってからクレームに(範囲を狭めるものではあるが)新しい要素を導入したことなどに基づいて、地裁の理由付けを承認しました。
 Apple社の不利益に目を向けると、CAFCは、PMC社の遅延と不適切な行為が2015年の本件訴訟の提起を通じて今に至るまでApple社に害を及ぼし続けたと地裁が判断したことについて、地裁は適切であったと結論付けました。CAFCは、本件特許は、PMC社とApple社とのライセンス交渉中にはPMC社が開示しなかった係属中のクレームに基づいて発行されたものであり、PMC社がこの係属中のクレームについて迅速に特許付与を得てApple社に対して主張したものであると認定しました。

5.Stark判事の反対意見
 Stark判事は、特許の権利化におけるPMC社の遅延行為は不当であり許されないと地裁が判断したことについて裁量権の濫用はなかったという多数意見には、全体の状況から見て同意しました。
 しかしながら、Stark判事は、Apple社が審査手続における懈怠の主張でPMC社に打ち勝つためには、①審査手続におけるPMC社の遅延が不当で言い訳の出来ないものであること、および②PCM社が不当に権利化を遅らせた期間中にApple社がその遅延に帰することができる不利益を被ったこと、の双方を立証しなければならないのに、Apple社は②について立証しなかったと指摘し、Apple社が直面した不利益は、PMC社が特許発行を不当に遅らせた期間中には起こったものではなかったと主張しました。具体的に、Stark判事は、PMC社の不当な行動はすべて2000年以前、したがってApple社がFairPlayの開発を開始する以前に発生したものであると判断し、その結果、PMC社の不当な遅延がApple社に不利益を引き起こさなかったと結論付け、多数意見に反対しました。Stark判事はまた、Hyatt事件およびCAFCの既存の審査手続における懈怠の判例法で要求されている、不当な遅延を取り除こうとした可能性(本件では併合手続の合意)を多数意見が認めていないとして、多数意見を批判しました。

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | January 26, 2023 “Bursting the Bubble on Prosecution Delays”
② Personalized Media Comms., LLC v. Apple Inc., Case No. 21-2275 (Fed. Cir. Jan. 7, 2023) (Reyna, Chen, JJ.) (Stark, J., dissenting) 判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊