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アートと商標の境界線~合衆国憲法修正第1条はランハム法に勝る~

 米国第11巡回区控訴裁判所は、商標権と言論の自由への配慮を比較検討し、芸術作品における、意図的に誤認を招くものではない商標の使用は合衆国憲法修正第1条により保護されると判断しました[MGFB Properties Inc. et al. v. 495 Productions Holdings LLC et al., Case No. 21-13458 (11th Cir. Nov. 29, 2022) (Luck, Brasher, Hull, JJ.) (Brasher, J., concurring)]。

1.事案の背景
 本訴訟は、MGFB Properties、Flora-Bama Management、及び、Flora-Bama Old S.A.L.T.S.(以下、「原告ら」とする)によって提起されたものです。原告らは、フロリダとアラバマの州境にあるFlora-Bama Lounge, Package and Oyster Barを所有・経営しています。同ラウンジは1964年から営業しており、当該地域ではよく知られています。原告らは2013年に「FLORA-BAMA」を商標登録しました(下記参照)。

商標登録された「FLORA-BAMA」の画像

 Viacom及び495 Productions(以下、「被告ら」とする)は、2009年のヒット作品「Jersey Shore」などのリアリティ番組を制作しています。「Jersey Shore」の成功を受け、被告らはいくつかのスピンオフ作品を制作しました。2016年、被告らは「南部のビーチ文化」に基づいた新しいスピンオフ作品を制作することを決め、「アラバマの素朴な南部の雰囲気を持つ、リラックスしたフロリダのビーチ」を表現するために「Floribama」という言葉を採用しました。被告らは、この名称が「Florabama Lounge」と関連することを認識していましたが、ガルフ湾岸の特定の地域(フロリダとアラバマの海岸)を特定するためにこの言葉を使用し、これを説明する台詞を番組内に組み込んでいました。番組ロゴは、「Jersey Shore」との関連性を強調するものでした(下記参照)。

登録された「Jersey Shore」、「Floribama Shore」の画像

2.事案の経緯
 原告らは、被告らによる「Floribama」の使用はランハム法違反であり、不当な混同とブランドの棄損をもたらしたと主張しました。連邦地裁は被告らを支持する略式判決を下したため、原告らは控訴しました。

3.第11巡回区控訴裁判所の判断
 裁判所は、芸術作品の創作者としての被告らの合衆国憲法修正第一条の権利が、原告らの商標に対する利益とブランドに関する混同を回避するための利益を上回るとした連邦地裁の判決を支持し、「芸術的表現の創作は、憲法修正第1条の保護範囲内に確実に含まれる」と示しました。この判断に至るまで、裁判所は1989年のRogers v. Grimaldiテスト(以下、「Rogersテスト」とする)を適用しました。
 Rogersテストの第一プロングでは、「ある商標の芸術的表現は、その商標の使用が、基礎となる作品と芸術的関連性が全くない場合を除き、ランハム法に違反しない」とされています。この点、裁判所は「Floribama Shore」に登場する地域とその地域のサブカルチャーを表現するために「Floribama」という言葉を使用したことは、Rogersテストの第一プロングを満たすと判断しました。同裁判所は、「Floribama」という用語が番組の制作に「必要」でなかったとしても、被告らによる「Floribama」の使用は番組に関連していれば十分であるとしています。
 Rogersテストの第二プロングにおいて裁判所は、被告らによる「Floribama」の使用は、当該作品が原告らのブランドによって支持、後援、またはその他の提携をされていると考えるような、「作品の出所または内容に関する」明確な誤解を需要者に与えるものではないと判断しました。裁判所は、たとえ一部の者が「Floribama Shore」と「Florabama Lounge」を結びつけるとしても、被告らによる明示的な不実表示の証拠はなく、修正第一条の保護を上回るには不十分であると説明しました。
 最後に、裁判所は2部構成のテストに対する例外を明示したRogers事件の補足説明を取り上げました。Rogersの事件において、第2巡回控訴裁判所は、被告の題号が「他の題号と紛らわしいほど類似している」場合には、Rogersテストが適用されないと述べました。この点に関し、第11巡回控訴裁判所は、本件の当事者が商標を題号として使用していなかったため、題号のテストは適用されないと説明しました。Rogers事件の補足説明の例外は、最初に標章を題号として使用した者にその語の独占権を与えることになるため、修正第一条に矛盾するものとしており、第11巡回控訴裁判所はこれを完全に否定すべきであるとBrasher判事は主張しました。
 裁判所は、Rogersテストの要件を満たすと判断し、被告らによるFloribama Shoreの使用はランハム法に違反しないとした連邦地裁の判決を支持しました。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | December 8, 2022
[担当]深見特許事務所 原 智典