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CAFC判決紹介 Alice最高裁2段階テスト

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、地裁がAlice事件最高裁判決の2段階テストに基づいてクレームの特許適格性を分析する際に誤りを犯したことを理由に、地裁による訴えの却下の決定を覆しました。CAFCは、クレームされた発明がAlice事件の2段階テストのステップ1の下で抽象的であったかどうかに関係なく、発明は、ステップ2の下で特許適格となる特定の改良をクレームしている、と判断しました。
Cooperative Entertainment, Inc. v. Kollective Technology, Inc., Case No. 21-2167 (Fed. Cir. Sept. 28, 2022) (Moore, C.J.; Lourie, Stark, JJ.)

1.事件の経緯
 Cooperative Entertainment, Inc.(以下、Cooperative社)は、大きなファイルを配信するためのピアツーピア(P2P)動的ネットワークの構築に関する自社の米国特許第9,432,452号(以下、452号特許)の少なくともクレーム1-3および5をKollective Technology, Inc.(以下、Kollective社)が侵害したとして、Kollective社をカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に訴えました。
 Kollective社は、452号特許のすべてのクレームが米国特許法101条の下で特許不適格であると主張して、連邦民事訴訟規則12(b)(6)に基づいて訴えの却下を求める申立を地裁に提出しました。
 その後、Cooperative社は修正された訴状を提出しました。これに対してKollective社は、訴えの却下の申立を再度提出し、地裁はこの申立を認め、争われたクレームは101条に基づいて特許不適格であると判断しました。Cooperative社はCAFCに上訴しました。

2.本件特許の内容
 452号特許は、大きなファイル、特にビデオやビデオゲームを配信するためのP2P動的ネットワークを構築するシステムと方法に関するものです。452号特許の明細書によりますと、従来のシステムでは、ビデオストリーミングはコンテンツ配信ネットワーク(CDN)によって制御され、コンテンツは「コンテンツの発信元であるCDNサーバーから直接配信されていた」と説明されています。
 これに対して、本件で争われたクレーム(452号特許のたとえばクレーム1)は、コンテンツ配信が、「制御されたネットワークおよび/またはCDNの外側で」、したがって、「制御されたシステムの静的ネットワークの外側で」行われる、ネットワークのための方法とシステムを規定しています。同じコンテンツを同時に消費する「ピアノード」を備える動的P2Pネットワークは、CDNからコンテンツを受信する代わりに、コンテンツを相互に直接送信します。クレームされているP2Pネットワークは、「コンテンツセグメンテーション」を使用してビデオファイルを小さなクリップに分割し、断片的に配信します。視聴者は、必要に応じて、好ましくは他の視聴者から個々のセグメントを取得できます。
 開示されたセグメンテーション技術には、CDNアドレスソリューション、CDNおよびP2Pサーバーマネージャーへのトレースルート、個々のピアとその近隣との間のトラフィックレートを報告するピアからの動的フィードバック、ラウンドロビン、他のサーバー側スケジューリング/リソース割り当て技術、およびそれらの組み合わせ、が含まれます。

3.CAFCの判断
(1)Alice事件の2段階テスト
 CAFCは、以下のようなAlice事件の最高裁判決の2段階テストの枠組みを適用しました。
 ステップ1:クレームが抽象的なアイデアなどの特許不適格な概念に向けられているかどうかを判断する。
 ステップ2:そうである場合は、クレームされた抽象的アイデアを特許適格な出願に変換するのに十分な発明的概念が含まれているかどうかを判断するためにクレームの要素を調べる。
 特にステップ2では、クレーム要素が、「よく理解され、日常的で、慣例的で、業界で以前から知られている活動」を用いて抽象的なアイデアを単に実施することを超える発明概念を、個々におよび順序付けられた組み合わせとして、含んでいるかどうかを調べます。
(2)地裁判決に対するCAFCの考え方
 Alice事件のステップ1の下で、地方裁判所は、452号特許の焦点は、「コンテンツの準備とコンピュータネットワークを介したピアへの送信」の抽象的な概念であると判断しました。
 CAFCはこれに同意せず、発明が抽象的な概念に帰着できるかどうかにかかわらず、Alice事件のステップ2の下で、クレームには、先行技術と比較してデータの配信における特定の改善であると明細書が主張しているいくつかの発明概念が含まれていた、と結論付けました。修正された訴状においてCooperative社は、これらの発明概念の優位性を主張しており、CAFCは、その主張の妥当性を認めて、地裁による特許不適格との判断は誤りであると認定しました。特に、CAFCは、明細書によってサポートされ、かつ修正された訴状において有益であると議論された、以下に示すような少なくとも2つの発明概念を特定しました。
 ① 複数のピアノードが同じコンテンツを消費し、かつCDNの外部で通信するように構成されている、必要な動的P2Pネットワーク
 ② コンテンツセグメンテーションでトレースルートを使用するという要件
 Kollective社は、P2PネットワークおよびCDNは従来のものであるため、この特許は発明性がないと主張しようとしました。しかし、CAFCは、この主張を論点がずれているとして拒絶し、過去の先例(たとえば、Thales Visionix Inc. v. United States, 850 F.3d 1343, 1349 (Fed. Cir. 2017)、およびそこで引用されたEnfish, LLC v. Microsoft Corp., 822 F.3d 1327, 1337–38 (Fed. Cir. 2016))を引用して、「ネットワークが標準的なコンピューティング機器で構成されているかどうかに関係なく、コンピュータネットワークの有用な改善は特許可能である」と繰り返し述べました。
 CAFCはまた、Kollective社が、クレームされた動的P2Pネットワーク構造のコンテンツをセグメント化するためにトレースルートを使用することは発明的ではないとは主張しなかったこと、そして、セグメント化の限定が、十分に理解されず、慣用的でもなく、従来のものでもなかった、という訴状および特許明細書の記録の陳述に依拠したことも、重要である、と判断しました。
 過去の裁判例(BASCOM, 827 F.3d at 1350)においてCAFCは、規則12の申請の段階で特許権者側に立って、地裁は訴状および特許明細書中の記載における主張を重要視しなかったとして、地裁の判断を覆しましたが、本件においてもBASCOMの場合と同様に、CAFCは、Cooperative社に有利に重要視されるべきであった先行技術に対する技術的改善に関する、クレームの文言、特許明細書、および修正された訴状に十分な証拠を見出しました。地裁とは対照的に、CAFCは、裏付けとなる証拠(例えば、専門家の宣言書または研究論文)は有用ではあるが、そのような証拠は規則12の申立を克服するために常に必要であるとは限らないと述べました。
 CAFCはさらに、クレームおよび明細書の記載に関する訴状におけるCooperative社の主張が、動的P2P構成の発明性に関する妥当と思われる事実上の問題を生み出したため、地裁は訴訟の却下申立を却下すべきであった、とコメントしました。過去の裁判例によれば、特許適格性は最終的には控訴審が最初から見直す法律問題ではありますが、その根底をなしている事実問題に依拠することもあり得ます(Berkheimer v. HP, Inc., 881 F.3d 1360, 1365 (Fed. Cir. 2018))。そのような先例の下では、主張された改善、効率、機能性、またはコストによって作り出された発明性に関するそのような重要な事実の争点も、略式判決を排除します。CAFCは、さらなる手続のために地裁に差し戻しました。

4.本件判決後に出された他のCAFC判決
 特許適格性に関するAliceの2段階テストの適用に関するCAFCの裁判例が、本件判決の直後にも次々出されております。たとえば、以下の通りです:
 ① クレームの特徴が異なるにも関わらず明細書が共用されているためクレームの分析を誤ったとして、いくつかの特許を不適格とした地裁の判断をCAFCが一部覆した事件
Weisner v. Google LLC, Case No. 021-2228 (Fed. Cir. Oct. 13, 2022) (Reyna, Hughes, Stoll, JJ.) (Hughes, J., dissenting in part)
 ② グラフィカルディスプレイおよびユーザインターフェイスに向けられたクレームを抽象的アイデアに向けられた特許不適格なものであるとCAFCが判断した事件
IIBM v. Zillow Group, Inc., Case No. 21-2350 (Fed. Cir. Oct. 17, 2022) (Reyna, Hughes, Stoll, JJ.) (Stoll, J., dissenting in part).

[情報元]
① McDermott Will & Emery IP Update | October 6, 2022 “Standard Computer Equipment Can Support Inventive Concept under Alice Step 2”
② Cooperative Entertainment, Inc. v. Kollective Technology, Inc., Case No. 21-2167 (Fed. Cir. Sept. 28, 2022) (Moore, C.J.; Lourie, Stark, JJ.) 判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊