国・地域別IP情報

出願中に放棄された主題の特許再取得(recapture)を禁止する規則は、特許適格性欠如の拒絶を克服するために放棄された主題の再取得にも適用されると判断した、米国連邦巡回控訴裁判所の判決紹介

 米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、35U.S.C.§101(以下「特許法101条」)に基づく拒絶に対処して親出願で行われた補正による限定事項を、継続出願の再発行特許出願(reissue)において削除する補正が、許容されない再取得(recapture)を引き起こすと判断し、特許審判部(PTAB)の決定を支持する判決を下しました(In re McDonald, Case No. 21-1697, 2022年8月10日言渡し)。

 なお本件CAFC判決は、弊所ホームページの「外国情報配信レポート 2022-10月号」(URL: https://www.fukamipat.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2022/10/f_202210.pdf)の「3.(米国)特許法101条(特許適格性)に関連する米国特許商標庁の取組み紹介」と題した記事において、「4.101条の主題適格性に関する最近のCAFC判決」の項目(2)で簡単に言及した判決と同じですが、「再発行特許出願(reissue)における再取得(recapture)の禁止」という実務上興味ある問題に関連した判決であることから、その後届いた海外代理人からの情報も参照しながら、本稿において改めてより詳細に紹介します。

1.事件の背景
(1)親出願
 2008年に出願された、「検索結果の表示方法」に関連する親特許出願の審査中に、発明者のジョン・マクドナルド氏は、特許法101条(主題の特許適格性)の拒絶を克服するために、特定のクレームに、検索アルゴリズムが「プロセッサにより実行される」との限定を追加し、最終的に米国特許第8,280,901号(以下「’901特許」)として発行されました。
(2)継続出願
 当該’901特許が発行される前にマクドナルド氏は、継続出願を行ないました。この継続出願の最初のクレームは親出願のクレームとは異なりますが、「プロセッサ」の限定を含んでいました。継続出願のクレームは、親出願のクレームに対する二重特許、および先行技術により自明であることを理由に拒絶されましたが、二重特許の拒絶はターミナルディスクレーマにより回避され、自明性の拒絶についてはクレームの補正なしで解消しました。その結果継続出願は許可され、米国特許第8,572,111号(以下「’111特許」)として発行されました。
(3)再発行特許出願
 2015年にマクドナルド氏は、’111特許のクレームを拡大するために、再発行特許出願を行ないました。具体的には、継続出願において限定されていた「プロセッサ」をすべて削除することにより、クレームを拡大しようとする補正を行ないました。この補正においては、たとえば、「一次検索照会(primary search query)を実行するプロセッサを用いて一次検索結果を決定するステップ」との記載が、「一次検索照会を実行することによって、第1の複数の検索結果を含む一次検索結果を決定するステップ」に置き換えられました。
 また、再発行特許出願において、「プロセッサ」の限定は関連するクレームの特許性と実施可能性のためには不要であり、したがってクレームを不必要に狭めているという宣言書を含めました。審査官はクレームを自明であるとして拒絶したため、マクドナルド氏は審判を請求しましたが、PTABが審査官の自明性の拒絶を支持し、さらに、宣言書は再発行特許出願によって訂正可能な誤りの記載を欠くとともに、放棄された主題の認められていない再取得を試みたとの決定を下したため、CAFCに上訴しました。

2.CAFCの判断
(1)判断の要旨
 結論としてCAFCは、マクドナルド氏の主張を退けてPTABの決定を支持する判決を下しました。その主な理由は、以下の通りです。
 CAFCは、まず、再発行特許の法律(特許法251条等)と再取得規則(MPEP1402等)に関連する1世紀以上前の判例に基づいて、発明者が元の特許において誤って、クレームする権利を有する範囲よりも狭い範囲をクレームに記載していた場合、特許は再発行される可能性があるが、再取得規則は特許権者が権利取得手続中に放棄されたものを取り戻すことを禁じていると説明しました。その後CAFCは、再取得に関し以下のような3段階の分析を行ないました。
 (i)再発行クレームが元の特許クレームよりも広いかどうか。広いとすれば、どのような側面で広いか。
 (ii)より広い場合、再発行特許のクレームのより広い側面が放棄された主題に関連しているかどうか
 (iii)もし放棄された主題に関連しているなら、放棄された主題が再発行特許のクレームの範囲に包含されるかどうか。
 このテストを適用してCAFCは、マクドナルド氏が特許クレームを拡大しようとし、拡大されたクレームの範囲に放棄された主題が包含されたと結論付けました。CAFCはまた、マクドナルド氏の元の特許出願におけるクレームの補正は、不注意または誤りによるものではなく意図的であると判断し、再発行特許に関する特許法251条の冒頭に規定された「錯誤」の要件を満たしていないと認定しました。

(2)マクドナルド氏の主張と、CAFCの見解
 (i)101条拒絶への対処のために放棄された主題の再取得規則の適用について
 特許法101条に基づく特許適格性欠如の拒絶を克服するために放棄された主題には再取得規則は適用されないというマクドナルド氏の主張に対してCAFCは、以前の判決では、再取得規則の適用は、先行技術に基づく拒絶理由(特許法102条および103条)に集中していたことを認めましたが、特許の公的記録に対する公衆の信頼利益(reliance interest)は、特許法101条に基づく拒絶に応答して放棄された主題にも適用されなければならないと判断しました。「信頼利益」とは、ここでは、公にされた特許の内容を信じたことにより生じた損失を填補される利益を意味するものと考えられます。
 マクドナルド氏はまた、特許審査便覧(MPEP)が先行技術の拒絶を克服するために補正が行なわれたときに放棄が発生すると規定している(MPEP1412.02)ことを根拠として、再発行特許出願におけるクレームの補正による放棄はなかったと主張しました。それに対してCAFCは、MPEPは単なる参考情報に過ぎず、法としての重要性を有しないとして、この主張を却下しました。
 (ii)パテントファミリーの審査履歴との関係について
 CAFCはまた、「再取得規則を適用する際にも、審査履歴禁反言(prosecution history estoppel)を適用する場合と同様に、衡平法上の観点から、再発行特許により訂正される特許権の審査経過にとどまらず、パテントファミリー(本件の場合は継続出願とその親出願)の審査履歴全体を検討する」ことを強調しました。この点については、MPEP1412.02にも規定されています。
 (iii)特許法112条に基づく拒絶に対処する補正と再取得規則との関係について
 マクドナルド氏はまた、「再取得規則は、特許権者が先行技術の拒絶を回避するために、元の特許出願において主題を放棄した場合にのみ適用される」との主張の根拠として、2015年のCubist Pharms., Inc. V. Hospira. Inc.判決においてCAFCが、特許法112条に基づく明確性欠如の拒絶への対処のためのクレームのキャンセルが、後の再発行特許出願において再取得をもたらさないと判断したことを挙げました。
 それに対してCAFCは、「不明確性の拒絶に応答してクレームをキャンセルすることは、クレームの範囲の意図的な放棄を構成しないという判断に基づく」と述べて、特許法101条に基づく拒絶への対処とは区別されるとの判断を示しました。
 (iv)再発行の理由を記載した宣誓書について
 宣誓書に関してPTABは、宣誓書で指摘された誤りが「プロセッサ」の限定の存在であり、この限定を削除することは再取得規則に違反するため、再発行特許において修正可能な誤りとは見なされないことから、「宣誓書の誤りの記述は、再発行によって訂正できない誤りに関連している」と判断していました。またマクドナルド氏は、再発行特許出願における補正が再取得規則に違反する場合には、宣誓書に不備が生じることを認めていました。
 したがいまして、「プロセッサ」の限定を削除する補正が再取得規則に違反すると判断されたことから、宣誓書自体にも不備があったものと判断されたことになります。
 これらの理由によりCAFCは、マクドナルド氏が審査段階で放棄された主題を再取得することを禁じたPTABの決定を支持しました。

3.実務上の留意点
 下記情報元1および2における本件CAFC判決に関するコメントから、再発行特許出願を行なうに際して、次の点について留意すべきであることが読み取れます。
(1)本件判決は、特許適格性欠如の拒絶に対処して補正した場合にも、再発行特許出願における再取得規則の違反をもたらす可能性があることを示しています。ただし、本件の場合、再発行特許出願において「プロセッサ」の限定を削除することが、認められない再取得を明らかにもたらすのかどうか、再検討の余地があります。継続出願のクレームは親出願のクレームと類似していますが、互いに異なる発明に向けられていると見なされれば、「プロセッサ」の限定が不要であるために削除されたとみなされた可能性もあります。その場合には必ずしも、「プロセッサ」の限定の削除が「放棄された主題の再取得」には該当しないものと判断された可能性もあります。
 よって、特許法101条に基づく拒絶に対処するために追加した限定を含む元の特許について再発行特許出願を行なう場合には、当該限定を維持することのみにこだわることなく、再取得規則に違反しない形で当該限定を削除する補正を行なう可能性をも検討すべきであると言えます。ただしその場合には、再発行特許出願の宣誓書において、限定の削除が元の特許取得時の誤りを是正するものであることの理由を明確に述べておくことが重要になります。
(2)本件判決においてCAFCが、特許法112条に基づく明確性欠如の拒絶への対処のためのクレームのキャンセルはクレームの範囲の意図的な放棄を構成しないことを改めて指摘していることから、元の特許出願において特許法112条に基づく明確性欠如の拒絶への対処のためのクレームのキャンセルした場合に、当該クレームの主題を再発行特許出願において復活させようとするときには、再取得規則に違反しないと主張する根拠として、本件判決を挙げることが効果的であると言えます。
 この場合、再発行特許出願時に提出する宣誓書において、「再発行を要する誤り」をどのように記載すべきか、MPEP1402等の規定を参照の上、十分検討する必要があります。
(3)継続出願または分割出願を提出する場合は、親出願で行われた特定の主題を放棄する補正が、その後の再発行特許出願での補正に対する再取得規則の適用の根拠とされる可能性があることに留意する必要があります。
(4)本件の事例では、再発行特許出願に関し、審査官が非自明性欠如のみを理由として拒絶したのに対して、その後の審判においてPTABが、非自明性欠如に加えて再取得規則違反を理由として拒絶しました。このように、審判を請求する場合、PTABが新たな拒絶理由を提起する場合があり、そのような拒絶に対処することが困難な場合があることにも留意する必要があります。

[情報元]
1.McDermott Will & Emery: IP UPDATE “Recapture Rule Applies to Subject Matter Surrendered to Overcome § 101 Rejection” (By Paul Devinsky on August 18, 2022)
              https://www.ipupdate.com/2022/08/recapture-rule-applies-to-subject-matter-surrendered-to-overcome-%C2%A7-101-rejection/

2.WHDA, LLP: “The latest news for you-RECAPTURE APPLIES UNDER 35 U.S.C. 101” (October 17, 2022)
              https://files.constantcontact.com/72fc1a43201/fe1b21e6-df23-43eb-8ff0-ff54ef9571e1.pdf?rdr=true
3.本件CAFC判決(In re McDonald, Case No. 21-1697)原文
              https://cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-1697.OPINION.8-10-2022_1990029.pdf

[担当]深見特許事務所 野田 久登