欧州統一特許裁判所(UPC)はUPC協定が2023年4月1日に発効の予定であることを発表しました
弊所ホームページの「国・地域別IP情報(欧州)」の2022年10月5日付配信記事「UPC協定発効に向けた準備状況」の項目2において、その時点での海外代理人等からの最新情報に基づき、UPC協定発効に向けた今後のスケジュールを予想いたしました。すなわち、今年の11月中にドイツがUPC協定の批准書を寄託するものと仮定して、UPC協定は4ヶ月後にあたる来年3月の最初の日である3月1日に発効するものと予想いたしました。しかしながら、その後、UPCの事件管理システム(CMS)のセキュリティ強化のための対応などで遅れが生じており、以下に説明いたしますように、UPC協定の発効も上記の予想よりは遅れる見通しとなりました。
1.UPC協定発効に向けたタイムスケジュールの概要
2022年10月6日に、UPC本部の準備委員会によって、UPC実現に向けたロードマップが発表されました。それによりますと、最終的に確定した訳ではありませんが、現時点では、2023年の4月1日にUPC協定が発効するものと予定されているとのことであります。その詳細については、UPC準備委員会のホームページで公開されていますので以下のURLをご参照ください。
(https://www.unified-patent-court.org/sites/default/files/upc_-_exco_-_upc_external_roadmap-v0.9_edit.pdf)
2.タイムスケジュールの詳細
上記のUPCのロードマップによりますと、重要な事項の予定について以下のように説明されています。
(1)ドイツによるUPC協定批准書の正式寄託
UPCの発効に向けた準備プロセスに目途が立つとドイツがUPC協定の批准書をEU本部に正式に寄託し、その月の4ヶ月後の月の初日にUPC協定は発効します。今のところ、ドイツによる批准書寄託は、今年の12月の中旬以降(19日~23日の週あたり)と予想されています。
(2)サンライズ期間の開始
ドイツが批准書を寄託した月の次の月の初日からサンライズ期間が開始します。予定通りドイツによる批准書寄託が今年の12月に行われると、サンライズ期間は2023年1月1日に開始することになります。
(3)UPC協定の発効
ドイツによる批准書寄託が今年の12月に行われると、その4ヶ月後にあたる来年4月の初日である4月1日にUPC協定は発効することになります。
3.ドイツによる批准書寄託によって可能になる手続
UPC協定の発効により、欧州特許庁(EPO)が管轄する単一効特許制度も同時にスタートします。ドイツによる批准書寄託の時期は、EPOに対する以下の2つの手続に関連して単一効特許の取得に影響します。これらの手続の詳細については、弊所ホームページの「国・地域別IP情報(欧州)」の2022年3月28日付配信記事「UPCA発効に向けた最新状況」の項目2の「EPOの経過措置について」をご参照ください。
(1)欧州特許付与の決定を遅らせることを請求できること
単一効特許を取得できるのはUPC協定が発効した後に特許付与される欧州特許です。このため、UPC協定の発効前にEPC規則71(3)に対する応答手続を進めると、UPC協定の発効前に特許付与されて単一効を選択する機会を失ってしまう場合があります。
そこでEPOは、出願人がEPC規則71(3)の通知に応答する際に、欧州特許付与の言及の公告がUPC協定の発効直後になるように特許付与決定を遅らせることをEPOに請求できるようにしています。この手続きはドイツがUPCAの批准書を寄託した日から利用可能になり、規則71(3)の通知が発行され未応答のEP出願に適用されます。
(2)単一効特許の請求を早期に行えること
単一効特許の請求は、欧州特許公報における欧州特許付与の言及の公告日から1ヶ月以内にEPOに対して行うことになっています。しかしながらEPOは新制度への移行準備で大変忙しく、UPC協定が発効してから単一効特許の請求を受付け始めているとその登録処理に遅れが生じる懸念があります。
そこでEPOは、ドイツによる批准書寄託からUPC協定発効までの間に出願人が単一効特許の早期請求を提出することを認め、これにより新制度がスタートすると単一効は直ちに登録されることが期待されます。
上記の(1)および(2)の手続はいずれも、今年12月中旬以降に予想されるドイツによるUPC協定批准書の正式寄託が前提になりますので、これらの手続を希望される出願人はドイツの寄託の動きについては注視しておく必要があります。
[情報元]
① UPCのWebsiteのニュース(2022年10月6日)
“Latest state of play in view of the launch of the Unified Patent Court”
(https://www.unified-patent-court.org/news/latest-state-play-view-launch-unified-patent-court)
[担当]深見特許事務所 堀井 豊