国際登録に基づく商標権の使用開始日の推定について判断が示された事例(Lodestar Anstalt v. Bacardi & Co.)
1.事案の概要
登録名義人の商業上の実際の使用(actual use in commerce)が侵害とされる使用より後に始まった場合における、マドリッドプロトコル経由で付与された優先権付き商標権の行使の有効性の問題を、初めて米国第9巡回区控訴裁判所は扱いました。マドリッドプロトコルは使用開始日の推定という意味で先願地位を付与しますが、その商標権に基づいて侵害訴訟で勝つためには、登録名義人は依然としてランハム法の下で求められる混同の可能性を立証しなければならないと裁判所は判断しました[Lodestar Anstalt v. Bacardi & Co., Case No.19-55864 (9th Cir. Apr. 21, 2022) (Baldock, Berzon, Collins, JJ.]。
2.事案の経緯
リヒテンシュタインのLodestar社は2000年から2001年に「The Wild Geese」というアイリッシュウィスキーのブランドを開発し、その商品は米国において「The Wild Geese Soldiers & Heroes」として販売されました。その後、2008年から2009年にかけてLodestar社は商標「Untamed」を考案し、2009年に米国特許商標庁(USPTO)は国際登録された商標「Untamed」のマドリッドプロトコルによる保護拡張を求める2件の出願を受理しました。2013年、Lodestar社は「The Wild Geese Soldiers and Heroes」ブランドのラム酒を開発し、ラベルに「Untamed」の文字商標を使用しました。このラム酒は、2013年4月にフロリダで開催されたラム・ルネッサンス・トレードショーで展示され、消費者に試飲されたものです。また、このラム酒は、そのショーに関連した広告物にも掲載されました。しかし、2013年6月までの間にLodestar社は他の市場でより良い利益を得ているため、米国のラム酒プロジェクトを停止することを決定しました。
2012年、バカルディ社が「Bacardi Untameable」という広告キャンペーンの展開を開始しました。このキャンペーンを開始する前に、Bacardiは商標のクリアランス調査を行い、Lodestar社の「Untamed」を発見していました。2013年から2017年まで、Bacardi社は「Bacardi Untameable」キャンペーンを実施しました。これに対し、Lodestar社は、「Wild Geese Rum」につなげ、また、Bacardi社に対抗するため、当時は存在しなかった製品「Untamed Revolutionary Rum」の広告を開始しました。2015年1月、「Untamed Revolutionary Rum」が米国の小売業者に初めて販売されました。2016年8月、Lodestar社はBacardi社を商標権侵害で訴え、混同に基づく損害賠償及び関連する不正競争に関する請求を主張しました。連邦地裁はBacardi社に有利な略式判決を下しました。Lodestar社が控訴しました。
3.控訴裁判所の判断
第9巡回控訴裁判所は、連邦地裁が混同の可能性の検討における『Lodestar社の「Revolutionary Rum」を考慮すべきかどうか』というそもそもの判断においてで誤りを犯したと判断しました。連邦地裁は、考慮すべき商品が「Bacardi」のキャンペーン開始以前に存在したもの(その後に製造された「Revolutionary Rum」を除く)であると判断しました。しかしながら、控訴裁判所は、Lodestar社による2013年以降の「Untamed」の文字商標の誠実な使用をLodestar社のマドリッドプロトコルに基づく「推定使用」日に紐付けて2009年に遡る優先権を与えた連邦地裁の結論が誤りであったと判断しました。この判断はマドリッドプロトコルに則るために議会が追加したランハム法XII章に起因するものであると説明しました。
控訴裁判所は、「一般に、ランハム法は行使可能な商標権は単に商標の権利を維持するための努力ではなく、真の商業努力を反映した誠実な使用に限定される」ことを理由に、「Revolutionary Rum」を混同の可能性の分析から除外することが最終的に適切であると判断しました。裁判所はLodestar社の「Revolutionary Rum」への取り組みは、単に商標権を維持するための形だけの使用を超える継続的な努力や意図を反映しておらず、「真に商業的な目的」を反映した販売活動を立証できなかったことを理由として、上記除外が適切であると判断しました。
第9巡回控訴裁は、混同が単に「可能性がある」だけではなく「蓋然性がある」であるとも認定できなかったことが確認されたため、ランハム法に基づくLodestar社の請求は法律上失当であるとの判決を維持しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | April 28, 2022
[担当]深見特許事務所 原 智典