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AIが作成したアートの著作権保護

 米国著作権局の審査会(Review Board)は、著作権が生じるためには著作物が人間によって創作されなければならないとし、コンピュータで作成された風景画像の著作権登録を拒絶しました。
 2018年、Steven Thaler氏は「A Recent Entrance to Paradise」と名付けられた作品の著作権登録の申請を行いました。Thaler氏は、その著作者を、機械上で動作するコンピュータアルゴリズムである「Creative Machine」と記載しました。また、自身を申請者として記載し、「Creative Machine」の所有者の立場から、当該作品を職務著作(work-for-hire)として登録しようとしました。著作権局審査会は、当該作品は「人間の著作者」の要件を満たさないとして、登録を拒絶しましたが、Thaler氏は審査会に再考を求め、「人間の著作者の要件は違憲であり、制定法や判例法のいずれにも裏付けられていない」と主張しました。
 審査会は、本申請を再度審査した結果、人間の著作者による十分な創造的なインプット又は介入を示す証拠をThaler氏は提供していないと判断し、「著作物は人間の著作者によって創作された場合にのみ著作権保護の要件を満たす」という、著作権法及び判例法に関する長年の解釈の放棄を拒否し、「A Recent Entrance to Paradise」の拒絶を支持しました。これに対し、Thaler氏は2度目の再考を求めました。
 2度目の再審査において、審査会は、米国最高裁判所が、1884年から著作権を人間とその才能の排他的権利であると説明してきたことに言及しました。また、最高裁判所が著作権保護の前提条件として「人間の精神と創造的表現の間の結びつき」を繰り返し明示してきたことも指摘しました。人間の著作者という要件は、下級審でも支持されています。例えば、1997年、米国第9巡回区控訴裁判所は、Urantia Found. v. Kristen Maaherraの訴訟において、「人間ではない霊的存在によって”執筆された”」言葉を含む書籍は、「その啓示を人間が選択し配置した」場合にのみ著作権保護を受けることができると判示しました。
 審査会は、連邦政府機関が裁判所に追随してきたことにも言及しました。1970年代、「著作物の新技術使用に関する国家委員会」(COmmission on New Technological Uses of copyrighted works [CONTU])は、機械による新しい著作物の創作について研究していました。CONTUは、コンピュータを使用して創作された作品を保護するためには、人間の著作者という要件が求められ、著作権法の改正は必要ないと判断しました。CONTUは「いかなる著作物も、その創作に使用された装置や機器に依存するものではなく、むしろ、少なくとも著作物の創作時に人間の創造的努力の存在があって、著作権による保護の資格を得る」と示しました。
 審査会は、その立場を裏付けるものとして、米国特許商標庁が発行した最近の報告書に言及しました。特許商標庁は、「自然人の関与なしに、AIアルゴリズムやプロセスによって生み出された作品は、……著作権法上の著作物として適格であるか」についてパブリックコメントを求めています。ほとんどの意見提出者は、現行法は人間以外が著作者となることを認めていないことを受け入れ、現行法の維持を推奨しています。
 審査会はまた、人工知能が職務著作の法理の下で著作者になりうるとするThaler氏の主張も退けました。コンピュータは拘束力のある法的契約を結ぶことができず、また、職務著作の法理は、著作物の所有者の特定について述べているにすぎず、著作者について述べているわけではないからです。
 以上より、著作権局の審査会は、申請された著作権登録の拒絶を支持しました。

 

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | March 3, 2022
[担当]深見特許事務所 原 智典