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「成功の合理的な期待」はクレーム発明に結び付くことが要求されるとした米国特許法第103条に規定する非自明性に関する新たなCAFC判決の紹介

 Corcept Therapeutics, Inc.(Corcept)の特定の薬物投与量を使用した治療方法クレームの非自明性について、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、付与後レビュー(PGR)請求人であるTeva Pharmaceuticals USA, Inc.(Teva)が成功の合理的な期待を示せず、クレームが非自明性を有しないことを証明できなかったとする特許審判部(PTAB)の最終決定を支持しました。

Teva Pharms., LLC v. Corcept Therapeutics, Inc., Case No. 21-1360 (Fed. Cir. Dec. 7, 2021) (Moore, C.J.)

1.事件の経緯
(1)背景
 Corcept Therapeutics, Inc.(Corcept)は、過剰なレベルのコルチゾールによって引き起こされる病気であるクッシング症候群の特定の患者に投与される300 mgのミフェプリストン錠剤であるKorlymの新薬承認申請(NDA)を提出しました。米国食品医薬品局(FDA)はCorceptのNDAを承認しましたが、Corceptに臨床薬理学局の覚書(Lee memorandum)を提示し、Lee memorandumで危惧されたケトコナゾールなどの強力なCYP3A阻害剤と併用した場合の薬物の安全性を判断するために、薬物間相互作用の臨床試験をすることを要求しました。CorceptはLee memorandumに記載された薬物間相互作用の研究を実施し、ミフェプリストンと強力なCYP3A阻害剤との同時投与に関するデータを集め、ミフェプリストンと強力なCYP3A阻害剤との同時投与によるクッシング症候群の治療方法に関する特許(米国特許第10,195,214号)(214特許)を取得しました。
(2)214特許のクレーム1の構成
 214特許のクレーム1構成は以下のとおりです。
 ミフェプリストンの1日1回の投与量が1200mgまたは900mgである患者のクッシング症候群を治療する方法であって、
 前記1日1回の投与量を600mgミフェプリストンの調整された1日1回の投与量に減らすことと、
 600mgミフェプリストンの前記調整された1日1回の投与量と強力なCYP3A阻害剤とを前記患者に投与することと、を含み、
 前記強力なCYP3A阻害剤は、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ネファゾドン、リトナビル、ネルフマビル、インジナビル、ボセプレビル、クラリスロマイシン、コニバプタン、ロピナビル、ポサコナゾール、サキナビル、テラプレビル、コビシスタット、トロレアンドマイシン、チプラニビル、パリタプレビル、およびボリコナゾールからなる群から選択される、方法。
(3)PGRの請求
 Tevaは、Corceptが地方裁判所でTevaに対して特許を主張した後、PGRを請求しました。Tevaは、Korlymのラベル(ミフェプリストン投与量の上限を表示)およびLee memorandumの観点からCorceptの特許は非自明性を有しないと主張し、その主張を支持する専門家(Dr. David J. Greenblatt)の宣言を提出しました。
(4)PTABの最終決定における判断
 PTABは、PGRの最終決定において、Tevaは、当業者が300mgを超えるミフェプリストンを強力なCYP3A阻害剤と安全に同時投与することに成功の合理的な期待を有していたことを証明できなかったため、特許が非自明性を有していないことを証明できなかったと判断しました。
(5)CAFCへの上訴
 Tevaは、PTABがクレーム発明を達成する際に成功の合理的な期待ではなく正確な予測可能性を誤って要求したこと、およびPTABが先行技術の範囲についてのCAFC判例を適用すべきであったことを理由として、CAFCに上訴しました。

2.CAFCの判断
(1)成功の合理的な期待について
 CAFCは、成功の合理的な期待の分析はクレーム発明の範囲に結び付いていなければならないと述べ、214特許のクレームは、1日に600mgのミフェプリストンの投与を要求しており、PTABがその近傍の投与量での成功の合理的な期待を要求することに過誤はなかったと判断しました。CAFCは、また、Tevaは当業者が正確にミフェプリストンの600mgの同時投与量で安全であることが予期できたことを証明する必要はないが、クレーム発明、すなわち600mgの投与量を達成する際の成功の合理的な期待を証明することが要求されると判断しました。この正しい基準を適用して、CAFCは、Korlymラベルに記載されている300mg/日の閾値を超えるミフェプリストンの同時投与が成功するかどうかについて当業者が期待していなかったことを証拠が裏付けていると認定しました。Tevaの専門家の証言も、PGR開始前には、強力なCYP3A阻害剤との同時投与の際に1日に600mgのミフェプリストンの投与量が安全で有効であることは合理的に期待できるとの見解を述べながら、後では阻害剤であるケトコナゾールと600mgのミフェプリストンの同時投与が安全であるかどうかを当業者は予測できなかったであろうと述べており、CAFCは、このようなPGRの開始前後の専門家証言の矛盾に基づいてクレーム発明を達成する際の成功の合理的な期待がないとするPTABの認定を支持しました。
(2)先行技術の範囲についてのCAFC判例の適用可能性について
 CAFCは、先行技術に開示された一般的な実施条件がクレーム発明を包含することをテバが証明できなかったことを認定しました。CAFCは、先行技術(Korlymラベルおよび業界の出版物)が1日当たり300mgの同時投与量の範囲を上限としていたため、実質的な証拠は、クレーム発明が同時投与量の範囲について先行技術と重複がなかったとするPTABの判断を支持していると判断しました。CAFCは、また、特許クレームがミフェプリストンと強力なCYP3A阻害剤との同時投与に限定されていたため、クレームの範囲と重複する単剤療法の投与量についてのTevaの依拠は失敗したと判断しました。CAFCは、せいぜい、先行技術は、当業者に先行技術の組み合わせを試みるように向けられてはいるが、クレーム発明を達成する際の成功の合理的な期待を示していないと結論付けました。

3.コメント
 本裁判例は、米国特許出願の審査手続において米国特許商標庁(USPTO)から出願に係るクレーム発明がクレーム発明から離れた先行技術に基づいて非自明性を有しないとする局指令が発行された場合に、成功の合理的な期待の欠如の観点からクレーム発明の非自明性を主張する際に参考となる裁判例かも知れません。

[情報元]
 ①McDermott Will & Emery IP Update | December 24, 2021 “Obvious to Try Requires Reasonable Expectation of Success Tethered to Claimed Invention”
 ②Teva Pharms., LLC v. Corcept Therapeutics, Inc., Case No. 21-1360 (Fed. Cir. Dec. 7, 2021) (Moore, C.J.) CAFC判決原文

[担当]深見特許事務所 赤木 信行