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メタバースにおけるブランド保護

 メタバースの成長は、ブランドイメージを高めようとする多くの企業にとって素晴らしい機会を与えています。最近では、FORTNITEやROBLOXのような仮想環境において自社ブランドや製品を宣伝している企業をよく見かけますし、FacebookがMetaにリブランドしたことでメタバースにまだ慣れない多くの人々が注目するようになりました。
 しかし、多くの知財庁の規則や規制は、仮想環境を想定したものではなく、また、現地通貨が存在しないことにより、例えば裁判管轄の判断が非常に困難な場合があります。
 実際、少なくとも英国やEUの商標の観点からいえば、多くの企業は現実の商品に関連する商標権を多数保有しているものの、メタバース上の商品・サービスについては(まだ)商標権を保有していないと思われます。これは問題なのでしょうか。現実の商品/役務は、これと同じメタバース上の商品/役務を含むのか、それとも、少なくとも類似するとみなされるのでしょうか。もし両者が非類似であれば、(権利行使のためには)混同の可能性に依拠する必要性が生じ得ますが、その立証は容易ではないかもしれません。Nikeは、アメリカとEUで「仮想商品、すなわち、オンライン及びオンライン仮想世界で使用する衣類、帽子、眼鏡、バッグ… を特徴とするコンピュータプログラム」と「仮想商品すなわち履物、衣類、帽子、頭飾品の小売サービス、仮想商品のオンライン小売サービス」の商標を出願しています。これらの出願の今後と他企業の動きは、興味深いところです。
 意匠登録は、メタバース内においても権利行使できる可能性が十分にあります。英国やドイツなどEUの他の多くの地域における意匠登録の特筆すべき利点は、商標とは異なり、特定の商品/役務に限定されないことにあります。従って、意匠登録が、例えば現実の衣服など特定の物品にカテゴライズされたとしても、その外観に類似するあらゆる商品に対して、理論上権利行使することが可能です。そういう状況にあり、また、少なくとも欧州の多くの意匠登録制度ではGUIや他の種類の仮想デザインに関連する意匠登録を明示的に認めていることからすれば、当初は物理的な物品を対象とした意匠登録が、実際には仮想上の同じ物品も対象としうる、またそうあるべきという主張が成立し得るかもしれません。
 英国やドイツなど多くの欧州地域における意匠登録のさらなる利点は、物理的な物品だけでなく、グラフィカルシンボル(ロゴも含む)を対象とすることができる点です。従って、今後、新しいロゴを考えている場合、まだ登録していないブランドオーナーは、ロゴの商標出願と同時に対応する意匠登録を行うかどうかを検討することが考えられます。ただし、上記地域の意匠登録は、未公開又は公開されてから相当の期間内(多くの地域では、最初に公知に至ってから12ヶ月以内)のデザインにのみ有効であることに留意してください。
 我々はまだメタバースの始まりを目撃しているに過ぎず、ブランドオーナーはこれに適応し、何をすべきなのかを決定するのに時間を要するでしょう。ブランドを仮想環境に適用させようと考えているブランドオーナーは、知的財産戦略の変更や追加が必要になる可能性があるかどうか、積極的に検討すべきです。特に、より多くの仮想ベースの商品/役務を将来の商標出願の対象とし、仮想領域におけるより広い保護範囲を確実にすべきなのでしょうか。意匠登録も同様に、ブランド保護のためのさらなる機会をもたらす可能性があります。商標による保護を補完するために利用することができるでしょう。

[情報元]D YOUNG & CO TRADEMARK NEWSLETTER No. 120 January 2022
[担当]深見特許事務所 原 智典