国・地域別IP情報

最近の韓国特許法等の改正について

 韓国では最近、知的財産権の審判制度等に関し、特許法、商標法、デザイン保護法、発明振興法の改正案が国会を通過、公布され、一部が既に施行されています。以下、2021年8月以降に公布された改正特許法の改正事項を紹介します。

1.審査請求料返還範囲拡大、特許審判段階での調停制度の導入等
   (2021年8月17公布、11月18日施行)

 (1)審査請求料返還対象の拡大(特許法第84条第1項第5号,第5の2号)
 改正前は、審査請求料は、調査機関による先行技術調査結果が特許庁に通知されていない状態で、審査官が拒絶理由を通知する前に特許出願が取り下げ・放棄された場合にのみ返還されていました。
 改正法では、出願人は、審査の結果が通知される前(先行技術調査結果の特許庁への通知の有無とは無関係)に出願を取り下げ・放棄した場合、審査請求料の全額を、審査後であっても、意見提出期間内であれば全額の3分の1が返還されるようになりました。

 (2)審判・調停連携制度の導入(特許法第164条の2新設)
 調停を通じて紛争を解決できるよう、発明振興法に基づいて産業財産権紛争調停委員会が設立されています。しかし、調停制度と審判及び訴訟との連携に不備があったため、調停を申請しても当事者は審判手続と調停手続を同時に行なうしかなく、実際に調停は特許審判の適切な対案として考慮されていませんでした。
 このような問題を解決するために、改正法には、
 (i)特許審判の審判長は、両当事者の同意を得て審判手続を中止し、当該審判事件を産業財産権紛争調停委員会に回付することができ、
 (ii)審判事件が調停委員会に回付されるとき、審判記録も調停委員会に送付され、
 (iii)調停手続を通じて調停が成立すると審判請求は取り下げとみなされ、逆に調停が成立しないと審判手続が再開されるようにする、一連の連携手続きが設けられました(特許法第164条の2)。
 なお、この改正に関連して、下記情報元1に、次のような注目すべきコメントが述べられています。
『改正法の後続措置として発表された審判調停連携制度の運営案によると、審判事件の中で審判合議体の判断が二分され、当事者間の紛争が特許法院と大法院の段階まで長期間にわたって行われることが合理的に予想される事件に限って、選別的に調停回付の対象となるそうである。
 言い換えれば、仮に審判長から当事者に調停委員会への回付に関する提案があった場合、当該事件に対しては審判官合議体の意見が二分されていることが推察されるので、当事者はそのような情況を十分考慮したうえで同意如何を決めるのが望ましい。』

 (3)民事訴訟法上の証拠/攻撃防御方法の適時提出主義の導入
 民事訴訟法には、攻撃又は防御の方法は、訴訟の程度に応じて適切な時期に提出しなければならないという適時提出主義が明文化されていますが、特許法には、特許審判手続きにおける証拠や攻撃防御方法の提出時期を制限する規定がなく、時機に後れた証拠や攻撃防御方法の提出により審判手続が遅延するという問題がしばしば発生していました。
 改正法では、審判手続の規定が民事訴訟法の適時提出注意規定(第146条、第147条及び第149条)を準用することにより、審判長が新たな主張/証拠の提出時期を定め、時機に後れて提出された証拠、主張等は却下することができる法的根拠が設けられました。

 (4)特許審判院内への審判支援人員配置(特許法第132条の16第3項新設)
 韓国の審判官1人当たりの処理審判件数は他の主要国に比べて過多であり、また、技術の高度化により、特許技術を理解するために一層の努力と時間が要求されています。そこで、そのような負担を軽減するために、今回の改正法には、審判事件の調査及び研究業務を行なう支援人材を審判院内に配置することを可能にする根拠規定が設けられました。

 (5)誤った職権補正の無効措置(特許法第66条の2第6項新設)
 第66条の2第1項には、「審査官は、第66条による特許決定をするときに特許出願書に添付された明細書、図面または要約書に記された事項が明らかに間違っている場合には、職権で補正(以下“職権補正”という)することができる。」と規定されています。
 今回の改正により、特許出願人が職権補正事項の全部または一部を受け入れることができない場合に、意見書を特許庁長に提出した場合、該当職権補正事項の全部又は一部は始めからなかったものとみなされるとともに、その特許決定も共に取消されたものとみなされます(第66条の2第4項)。

2.拒絶決定不服審判の請求期間延長などを含む特許法等改正   (2021年10月19公布、公布日から6ヶ月経過後施行)

 (1)拒絶決定等に対する審判請求(再審査請求)期間の延長、および対象の拡大
 十分な準備期間の提供および不要な期間延長の最小化を図るため、拒絶決定などに対する審判請求(再審査請求)期間が30日から3ヶ月に延長されます(特許法第67条の2第1項改正)。
 また、登録決定後にも補正機会を提供するため、拒絶決定だけでなく、登録決定された件についても、再審査請求可能になります。
 [韓国特許法上の「再審査」について]
 ここで、韓国特許法における再審査制度について、簡単に触れておきます。2009年の韓国特許法改正において、拒絶決定謄本の送達日から30日以内(2か月の期間延長が1回可能)に、出願人が、明細書または図面を補正して、再審査の意思表示をすれば、再審査を受けることができる制度が制定されました(特許法第67条の2)。拒絶決定に対しては不服審判を請求することができますが、審判請求時に明細書、請求の範囲、または図面を補正した場合の前置審査については、当該法改正において廃止されました。
 2009年改正前とは異なり、拒絶査定不服審判時には補正はできないため、再審査請求時の明細書等の補正は、補正できる最後の機会であることに留意する必要があります。
 拒絶査定不服審判後には再審査請求をすることはできませんが、再審査を請求することができる期間内であれば、拒絶査定不服審判を取り下げて再審査請求をすることは可能です。

 (2)分離出願の導入(特許法第52条の2新設)
 拒絶決定不服審判の棄却審決(拒絶決定維持)の後、審査段階で拒絶されていない請求項のみを分離して出願することが可能になります。
 分離出願(第52条の2)と分割出願(第52条)との共通点、相違点は次のとおりです。
 [共通点]
 原出願と出願人が同一。
 適法であると認められた場合、原出願の出願日に遡及。
 [相違点]
 時期:分割出願を行なえる時期が、自発補正期間、拒絶理由通知後の応答期間、拒絶決定後の応答期間または特許決定後の登録期間のみであるのに対して、分離出願は、拒絶決定不服審判が棄却された場合、審決謄本送達日から30日以内にのみ行なうことができます。
 客体:分割出願の客体が、原出願の最初の添付明細書、図面であるのに対して、分離出願の客体は、原出願の最初の添付明細書、図面に加えて、次の請求項のうちのいずれか1つ。
 ① 拒絶決定で拒絶されていない請求項
 ② 拒絶された請求項の引用を削除した請求項
 ③ ①または②の減縮
 ④ ①~③のうち、新規事項を削除したもの

 (3)分割出願の優先権主張の自動認定(特許法第52条第4項新設)
 原出願で優先権主張が適法に行われた場合、分割出願についても優先権が自動的に認定されます。
 この改正により、分割出願時に優先権主張を別途に行わなくて済むことから、提出書式が簡素化されることになります。

 (4)出願人の権利回復要件の緩和
 方式違反による手続無効(特許法第16条)、審査請求および再審査請求期間の徒過(第67条の3)、特許料(登録料)未納(第81条の3)の救済に要求される「責めに帰することができない事由」が、改正後は「正当な事由」に緩和されます。
 この場合の「正当な自由」には、持病による入院、特許顧客相談センターの誤案内、自動振込のエラー等が含まれます。
 なお、下記「情報元3」によりますと、「正当な事由」に関連し、特許庁は上記の例示事項に基づいて具体的な基準を定めていくとの見解ですが、代理人の報告欠落などといった代理人のミスについて認められるかは、まだ決まっていないとのことです。

 (5)権利移転による共有者の通常実施権の保護(特許法第122条改正)
 韓国大法院は、特許権の共有は、民法上の共有であるため、民法上の分割請求が可能であり、特許権全体を競売に付し、その代金を持分比率に基づいて配当するように判決しました(2013ダ41578、2014.8.20言渡し)。この判決により、他の共有者の同意がなくても共有特許権全体を競売にかけてその代金を持分比率で配当する、民法上の代金分割請求が認められるため、共有者がその意思とは無関係に、競売によって特許権の持分を喪失し、事業の継続が不可能になるという問題が生じていました。
 そこで、今回の改正により、共有の特許権について競売等により民事上の分割請求をした場合、持分を喪失することとなった残りの共有者に通常実施権を付与することとしました。持ち分を喪失した共有者の継続中の事業の保護を図る趣旨です。

 (6)国内優先権主張の対象拡大(特許法第55条第1項第4号改正)
 改正前は、先出願が登録決定されると、優先権主張の基礎にすることができませんが、、今回の改正により、登録決定後でも設定登録前であれば、改良・追加した発明を優先権主張して出願可能になります。

[情報元]
 1.FIRSTLAW IP NEWS Issue No. 2021-03 (September 2021)「知識財産権審判に関する特許法等の改正」
 2.HA & HA 特許&技術レポート 2021-09「IP制度]関連記事
 3.[IP Legal Updates | Korea] 「拒絶決定不服審判の請求期間延長などを含む特許法改正案が国会を通過」(Kim&Chang_IP)
 4.知的財産ニュース 「出願人による過ちの救済および知的財産権獲得の機会を拡大するための、特許法・商標法・デザイン保護法の改正案が国会本会議を通過」(日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所)
 5.知的財産情報 特許法の一部改正法律(法律第18505号)(日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所)

[担当]深見特許事務所 野田 久登