EU域外にのみ所在する宿泊施設の商標について、域内の真正な使用が認められた事例(R 1264/2020-1)
EUIPOの第一審判部は部分的な不使用取消請求において、商標権者(Kerzner International社)のホテルがドバイとバハマにのみ所在するにもかかわらず、様々なホテル関連サービスに関して商標「ATLANTIS」がEU域内で使用されていたものと判断しました。
1.取消部の判断
(1)結論
Binter Cargo社による取消請求を受け、EUIPOの取消部は第43類の一部役務(宿泊施設の提供,レストラン・バー及びホテルサービスの提供等)を含む様々な商品や役務に関して、商標「ATLANTIS」を部分的に取消す決定をしました。ただし、第43類「観光センターにおける宿泊施設の手配,ホテルの予約の取次,宿泊施設及びレストランの予約」に関しては登録が維持されました。
(2)理由
取消部は、EUの需要者がレストランやホテルのサービスを利用する以上、EU域外にいるのであるから、商標権者が顧客と契約を締結するためにEU域内でマーケティング活動(EUの顧客をターゲットしたウェブサイトを運営し、そこではEU域内の言語・通貨が選択可能であった)を行っていたとしても、真正な商標の使用には当たらないと判断しました。
一方、予約取次の役務については上記の理由を適用せず、真正な使用に該当すると判断されました。当該役務の利用者はEU域外への旅行を希望するEU域内の者であり、レストラン・ホテルのサービス提供地から離れた場所から予約するのは当然だからです。
これを受け、商標権者は第43類「レストランやホテルのサービス」等についての権利維持を求めて取消決定に対し不服を申し立てました。
2.第一審判部の判断
(1)結論
第一審判部は商標権者の主張に同意し、第43類「レストランやホテルのサービス」等の取消決定を棄却しました。
(2)理由
審判部は、レストラン・ホテルのサービスがEUに居住する需要者に対して十分に広告・販売されている場合、当該サービスが物理的に提供されている場所は無関係であると判断しました。商標の真正な使用は、サービスが提供される場所だけではなく、当該サービスについて商標が使用される場所に関連するものであり、使用商品や使用役務のマーケットを創出又は維持するという商標権者の意図によって確定されるべきと審判部は示しました。
本件についていえば、問題の指定役務は、EUに拠点を置く旅行代理店を通じてEU居住の需要者に販売されていたため、関連市場はEUであるとみなされました。これに関し、休暇用の宿泊施設のような商品・役務が海外で利用可能な場合、広告やマーケティングが商標の使用行為となり得るとするEUIPOのガイドラインの存在や観光分野の主な広告チャネルはインターネットとなっている点も審判部は指摘しています。
本件は、真正な使用の地域的要件について参考になるケースといえます。
[情報元]D YOUNG & CO TRADEMARK NEWSLETTER No.117
[担当]深見特許事務所 原 智典