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CAFCは、ターゲット広告は未だ特許適格性を欠く主題であると判断しました。

Free Stream Media Corp. v. Alphonso Inc., Case No.19-1506 (Fed. Cir. 2021年5月11日)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、ターゲット広告は依然として抽象的なアイデアであり、ターゲット広告を提供するシステムが特許保護の対象となるためには、一般的な構成やルーチン的な機能以上の何かを利用する必要があると認定しました。

2.本件特許発明の内容
 Samba TVという通称で営業しているFree Stream Media Corp.(以下Samba)は、「ユーザのテレビから収集したデータに基づいて、ユーザに関連すると思われるターゲット情報(つまり広告)を携帯電話ユーザに提供するシステム」に関する特許を所有しています(米国特許第9,386,356号)。
 このシステムは3つの主要な構成要素を備えています。すなわち:
(1)番組情報、位置、天気情報、または識別情報を含む一次データを収集するネットワークデバイス(スマートTVなど)、
(2)アプリケーションが実行されかつ広告が表示されるクライアントデバイス(モバイルデバイスなど)、および
(3)ユーザに関連付けられた関連性要因に基づいて、一次データを使用して広告または他のターゲットデータを選択する関連性マッチングサーバ。
 具体的には、関連性マッチングサーバは、「ネットワーク化されたデバイスおよび/またはクライアントデバイスのサンドボックス化されたアプリケーションを介して、ターゲットデータをユーザにレンダリングするように構成することもできます」。

3.事件の経緯
(1)事件の発端
 ① Sambaは、Alphonso Inc.(以下Alphonso)に対して特許侵害を主張しました。
 ② これに応じて、Alphonsoは、本件特許の主張されたクレームが米国特許法第101条の下に特許不適格な主題に向けられているという理由で当該訴えを却下するよう申立てました。
 ③ Alphonsoはさらに非侵害の略式判決の申立てを提出しました。
(2)地方裁判所の判断
 カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所は、第101条による訴えの却下の申立を却下しましたが、一方で非侵害の略式判決の申立は認めました。
(3)CAFCへの上訴
 Sambaは非侵害の認定に対して上訴し、Alphonsoは第101条の特許適格性の認定に対して交差上訴しました。

4.CAFCの判断
(1)第101条の特許適格性の認定に対して
 ① Alice判決のステップ1について
 CAFCは、最初にAlice判決のステップ1(抽象的なアイデア)に対処することにより、第101条の認定から始めました。CAFCは、主張されたクレームが「同じ時に同じ場所で使用されている・・・さまざまな技術的な装置間の特定の種類の情報交換に対する障壁に対処するためのシステムおよび方法」に向けられおり、すなわちセキュリティサンドボックス(security sandbox)をバイパスするためのものであり、個別対応された広告という抽象的な考えに向けられたものではない、という地方裁判所の認定を否定しました。
 逆に、CAFCは、主張されたクレームが正しく、個別対応された広告という抽象的なアイデア、すなわち具体的には、テレビユーザの視聴習慣に関する情報を収集し、その情報を他のコンテンツと照合し、そしてそのコンテンツを別のデバイスに送信するということに向けられたものである、と認定しました。
 CAFCは、Alice判決のステップ1に関する先の判示内容を繰り返して、主張されたクレームはセキュリティサンドボックスを克服するという結果を提供するだけのものであり、その結果がどのように達成されるかについてはまったく開示していないと説明しました。CAFCはまた、たとえクレームがセキュリティサンドボックスをバイパスする方法について規定していたとしても、Sambaは、それが単なるツールとしてのコンピュータの使用以上のものであることを証明しておらず、あるいはそれが何らかの形で「一般的なプロセスと機械を使用してユーザに対象を絞ったコンテンツを提供することを超えてこれらのデバイスの操作性を改善すること」も証明できなかった、と説明しました。
 ② Alice判決のステップ2について
 Alice判決のステップ2(発明的概念)に目を向けると、CAFCは、ターゲット広告を提供するというクレームされた抽象的なアイデアは従来のテレビやモバイルデバイスの既存の制約を回避しようとしただけなので、特許性がないと説明しました。十分に確立された先例を引用して、CAFCは、セキュリティサンドボックスのバイパスがこれまでに行われたことがなかったと仮定しても、クレームはそのような結果を達成するための一般的な構成とルーチン的な機能の使用を規定しているに過ぎないと認定しました。したがって、CAFCは地方裁判所の判断を破棄し、特許は不適格であると判断しました。
(2)非侵害の認定に対して
 CAFCは、特許適格性に関する地方裁判所の認定を覆したため、非侵害の認定に対処することを差し控えました。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | May 20, 2021Free Stream Media Corp. v. Alphonso Inc., Case No.19-1506 (Fed. Cir. 2021年5月11日)判決原文

[担当]深見特許事務所 堀井 豊