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CAFCは、2件の特許のうち1件については、地裁のクレーム解釈を覆して、文言非侵害を認めた地裁判決を取消し、もう1件については、限定の無効化により均等論に基づく侵害が成立しないとする地裁の判決を取消して、地裁に差し戻しました。

Edgewell Personal Care Brands, LLC v. Munchkin, Inc., Case No. 20-1203 (Fed. Cir. 2021年3月9日)

1.事件の概要
 Edgewell社は、使用済みのおむつを収集するために、交換可能なカセットをペール缶内に配置し、おむつの周りを包む、おむつペールシステム「Diaper Genie」を製造販売しています。Munchkin社は、Edgewell社のペール缶と互換性のある詰め替えカセットを販売していました。
 カセットの改良に関連する2件の特許を所有するEdgewell社は、当該2件の特許をMunchkin社が侵害しているとして、連邦地方裁判所に提訴しました。
 地裁においては、2件の特許のそれぞれについてクレーム解釈が行われ、その解釈に基づいてEdgewell社は、一方の特許(米国特許第8,899,420号、以下「’420特許」)の文言侵害と、他方の特許(米国特許第6,974,029号、以下「’029特許」)の均等論に基づく侵害を主張しました。
 地裁は、両方の特許に対する非侵害を主張するMunchkin社の略式判決の申立てを認めました。これに対してEdgewell社は、米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)に控訴しました。

2.’420特許についての訴訟の経緯
(1)地裁の判断
 Edgewell社の’420特許は、中央開口を構成する円筒状内壁の底部にクリアランス(全周に形成された面取り状クリアランス)があるカセットを対象としており、その隙間は、使用者がカセットを上下逆に装着することを防止するために設けられています。クレーム解釈において、特許発明が、カセットが装着された後においても、カセットと他の構造物との間に隙間空間(clearance space)を必要とするかどうかが論点となりました。
 地裁は、特許発明が、カセットの装着時においても隙間空間を有することを要し、クレームに記載の「クリアランス」が、クレームに記載のない部材によって満たされ得ないと解釈しました。
 そのような解釈に基づいて地裁は、Munchkin社の詰め替えカセットとペール缶との間には、カセットが取り付けられた後は隙間空間がなかったため、文言非侵害を主張するMunchkin社の略式判決の申立てを認める判決を言い渡しました。
(2)CAFCの判断
 CAFCは、「装置クレームは、一般に、装置が何をするか(機能)ではなく、装置が何であるかに応じて解釈されるべきである」と述べて、装置クレームにおける機能的でない用語を、装置が後に使用される態様に応じて、侵害か非侵害かに影響するのは妥当性に欠けると判示しました。また、「隙間」の仕様と目的は、特許発明が、カセットの挿入後に隙間を必要としないということを裏付けていると認定しました。この判断に基づいてCAFCは、地裁判決を取消して(vacate)、地裁に差戻し(remand)ました。

3.’029特許についての訴訟の経緯
(1)地裁の判断
 ’029特許は、「ちぎり取り用外側張出し部(tear-off outwardly projecting section)」を含むカバーを有するカセットを対象としています。地裁は、特許発明の環状カバーを、単一のリング状のカバーであると解釈しました。それに対してMunchkin社のカセットは、それぞれ2つの部分からなるカバーを含む点で、単一の環状カバーを有すると解釈された本件特許発明と相違することから、地裁は、本件特許の「環状カバー」および「ちぎり取り用外側張出し部」の限定を無効化し(vitiate)、無意味にするとして、非侵害の略式判決を求めるMunchkin社の申立てを認める判決を下しました。
(2)CAFCの判断
 CAFCは地裁のクレームの解釈には同意しましたが、地裁が、「環状カバー」および「ちぎり取り用外側張出し部」の限定が無意味になるとして均等論に基づく非侵害を認めた、地裁の略式判決に誤りがあると認定しました。
 その理由としてCAFCは、道理をわきまえた陪審員が、告発された製品が実質的に同じ機能を実質的に同じ方法で実行し、本件特許発明の対応する要素と実質的に同じ結果を達成できるかどうかを判断するために、地裁は証拠を評価すべきであったと説明しました。
 また、Edgewell社の専門家は、Munchkin社の製品は、本件特許クレームに記載の環状カバーと同じ結果を達成するために、同じ方法で同じ機能を実行しているとの意見を述べました。さらにEdgewell社は、専門家の意見を裏付けるためにMunchkin社の従業員の宣誓証言を提示しました。
 CAFCは、陪審員が評決を出すための重要な事実の証拠として、これで十分であると判断し、その結果、CAFCは地裁の非侵害の略式判決を破棄して(reverse)、地裁に差戻し(remand)ました。

4.実務上の留意点
 本件CAFC判決における’420特許についての判示は、装置クレームの侵害・非侵害の判断において、特許発明の機能的でない限定と、装置が後に使用される態様との関係をどのように解釈すべきかについて指針を与えています。また’029特許についてのCAFCの判示は、単一を複数に置き換える場合のような二値的選択(binary selection)であるとの理由で、均等論適用に際して限定を無効化することについて、CAFCが慎重な姿勢を有すること、および、いわゆる「機能、方法、結果テスト」の適用の是非の評価を重視すべきであることを示しています。これらの判示事項はいずれも、特許権侵害事件において往々にして生じ得る状況についての見解を含むことから、米国における特許権侵害訴訟の実務において参考にすべきものと言えます。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | March 19, 2021
Edgewell Personal Care Brands, LLC v. Munchkin, Inc., Case No. 20-1203 (Fed. Cir. 2021年3月9日)判決原文

[担当]深見特許事務所 野田 久登