CAFCは、想像上のエンジン設計は自明性拒絶の引例としては機能しないと判断しました。
Raytheon Techs. Corp. v. General Electric Co., Case No. 20-1755(Fed. Cir. 2021年4月16日)
1.事件の概要
米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、ある開示内容が本件発明の自明性拒絶の引例として有効になるためには、本件発明がなされた時点において当業者が実際に当該開示内容を作り出すことができなければならなかったことを再確認し、当事者系レビュー(inter partes review: IPR)における特許審判部による決定を覆して、特定のターボファンエンジン技術を対象とする特許は、実際には実現できなかった先行技術の刊行物によっては自明にされなかった、と結論付けました。
2.事件の経緯
(1)事件の発端
Raytheonは、それよりも以前に発明されたタービンエンジンよりも高い「出力密度(power density)」を提供するギア付きガスタービンエンジンの特定の設計をカバーする特許(米国特許9,695,751)を有しています。この特許は、「出力密度」を、「海面離陸推力(sea-level-takeoff thrust)」をエンジンの「タービン容積(turbine volume)」で割ったものとして定義しています。
General Electric (GE)はIPRを請求し、Raytheonの当該特許の特定のクレームについて自明であるとしてその無効を主張しました。
(2)IPRでの争点
IPRにおいて、GEは先行技術として、1987年のNASAの技術の覚書に依拠し、無効を主張したクレームは、完全に複合材料で作られた先進的なエンジンに基づく優れた性能特性を構想したこの引例により自明であると主張しました。
IPRの両当事者は、この覚書の構想された複合材料が未だに(そして恐らく今後も)存在しないことから、このエンジンが1987年の時点では実現不可能であったこと、そして恐らく今日でも未だ不可能であろうことについては争いませんでした。覚書はいくつかの性能に関するファクタについては開示していましたが、出力密度、海面離陸推力、またはタービン容積については開示していませんでした。
それにもかかわらず、GEは、Raytheonの本件特許でクレームされている範囲内に収まる出力密度を当業者が導き出すことを可能にしたであろう性能パラメータをNASAの覚書が開示していたと主張しました。
(3)IPRでの結論
特許審判部はこのGEの主張に同意しました。RaytheonはCAFCに上訴しました。
3.CAFCの判断
(1)判断の根本原則
上訴において、CAFCはRaytheonに同意し、NASAの覚書の架空のエンジンは無効化のための引例としては機能することはできないと結論付けました。CAFCは、特許審判部の決定を覆す際に、まず自明性に関する判例法上の2つの根本原則を以下のように確認しました。
① 本件発明の時点で何が知られていたかを示す全体的な証拠によって当業者であればクレームされた発明を製造し使用することが可能であったということを立証できる限り、依拠された引例が米国特許法103条の文脈において自己実施可能(self-enabling)であること、すなわち当該引例に開示された主題を当業者が製造し使用できるものであることを絶対的に要求するものではないこと。
② もしも自明性に関する案件が自己実施可能ではない(non-self-enabling)引例に基づいており、そして当業者がクレームされた発明を製造し使用することを可能にするような他の先行技術の引例や証拠がない場合には、当該発明は自明であるとは言えないこと。
さらに、引例の実施可能性に異議が唱えられた場合、当該引例を提示する当事者は、この引例が、それ自体でまたは他の同時期の知識と組み合わせて、実施可能であったことを立証する責任を負います。
(2)CAFCの結論
CAFCはこれらの原則を適用して、GEは、NASAの覚書が実際に実施可能であったことを示す立証責任を果たしていないと判断しました。CAFCの見解では、特許審判部は誤って、先行技術が必要な出力密度を備えたターボファンエンジンを開示したかどうかではなく、当業者に対して出力密度を確認するためのパラメータが教示されたかどうか、にのみ焦点を当てました。「当業者が、記載された出力密度を備えたクレームされたターボファンエンジンを製造できたであろう」と結論付ける証拠が記録に見つからなかったため、CAFCは特許審判部の決定を覆しました。
4.実務上の留意点
この事件は新しい自明性の根拠を切り開くものではありませんが、自明性の分析で使用される先行技術は、発明の時点で当業者がクレームされた主題を実際に作り出すことができたか否かという最終的な自明性の質問を満たしていなければならない、という一般原則を補強するものとなりました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | April 29, 2021
Raytheon Techs. Corp. v. General Electric Co., Case No. 20-1755(Fed. Cir. 2021年4月16日)判決原文
[担当]深見特許事務所 堀井 豊