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CAFCは、ウェブサイトを閲覧して文献を見つけることができればそれは公衆が利用可能であると判断しました。またCAFCは、PTABが特定の拒絶理由を事前に通知することなく職権でクレームを無効にできないと判示しました。

M&K Holdings, Inc. v. Samsung Electronics Co., Ltd., Case No.20-1160(Fed. Cir. 2021年2月1日)(Bryson, J.)

1.事件の概要
 米国連邦巡回控訴裁判所(the US Court of Appeals for the Federal Circuit: CAFC)は、ウェブサイト上の文書の閲覧を容易にすることは先行技術文献への公衆のアクセス可能性をサポートするのに十分であると判断しました。
 CAFCは一方で、特定の法的根拠が事前に通知されていなければ特許審判部(the Patent Trial and Appeal Board: PTAB)がクレームを米国特許法第102条により新規性を阻害されているとして職権で無効にすることはできない、と判断しました。
 CAFCは一部を取り消して差し戻す判決を下しました。

2.事件の経緯
 ① 事件の発端
 M&K Holdings(以下、M&K)は特許侵害でSamsung Electronics(以下、Samsung)を訴え、Samsungはこれに応えて、侵害が主張されたM&Kの特許のすべてのクレームを自明なものとして取り消すことを求める当事者系レビュー(Inter Partes Review: IPR)の申立を提出しました。
 ② 本件特許の内容
この特許は、ビデオ期間にわたって「現在のブロックの動きを推定するために参照画像を用いる」場合に、定量化のために動きベクトルを使用して「インター予測モードで動画をデコードする」ことによりビデオファイルを圧縮する効率的な方法に向けられたものであります。
 ③ IPRにおけるSamsungの申立内容
 Samsungの申立は、高効率ビデオコーディング(High-Efficiency Video Coding: HEVC)の業界標準を確立した、ビデオコーディングに関する共同コラボチーム(the Joint Collaborative Team on Video Coding: JCT-VC)に関連して作成された引用文献に依拠していました。3つの先行技術文献はすべて、特許性判断の基準となる日付の前にJCT-VCのウェブサイトにアップロードされていました。
 ④ PTABの判断
 PTABは特許のすべてのクレームを特許性のないものと判断しました。その後、M&Kはこの決定に対してCAFCに上訴しました。PTABが米国特許法第102条に基づく先行技術の刊行物として適格ではない引用文献に依拠したこと、およびクレーム3に関してIPRの申立がそのクレームの自明性についてのみ主張しているときにPTABがクレーム3は新規性を有しないと判断したこと、によってPTABは誤りを犯したとM&Kは主張しました。

3.CAFCの判断
 (1) 公衆のアクセス可能性と刊行物
 M&Kは、当業者が合理的な注意力を発揮することによっては3つの先行技術文献のうちの2つの存在場所を特定することができなかったであろうから、これらの引用文献が公衆にアクセス可能であったというPTABの判断は誤りであった、と主張しました。具体的には、M&Kは、JCT-VCのウェブサイトの構造と検索機能は、たとえユーザーがたまたまウェブサイトのミーティングページを見た場合でもユーザがコンテンツでドキュメントを検索することができず、日付、タイトル、および番号でしかドキュメントを検索できないことを意味した、と主張しました。
 すなわち、JCT-VCのウェブサイトの構造と検索機能では、ドキュメントにアクセスするためにはJCT-VCのランディングページを見て、「すべてのミーティング」リンクをクリックし、そして特定のミーティングを選択する必要がありますが、「すべてのミーティング」ラベルにはドキュメントのリポジトリが含まれていることの説明がなく、ランディングページまたは「すべてのミーティング」ページに検索機能はありませんでした。
 CAFCはこのようなM&Kの主張に同意せず、公衆のアクセス可能性のためにはウェブサイトのランディングページが検索機能を持つ必要がないことを説明しました。CAFCは一方で、「JCT-VCの名声を考えると、決定的な争点は、JCT-VCのウェブサイトに関心のあるユーザーが合理的な注意力を発揮して引用文献の場所を見つけることができたかどうかである」と説明しました。CAFCは、関心のあるユーザーがそうすることができたであろうことを実質的な証拠が裏付けたことに同意しました。
 ウェブサイトがそれ自身をドキュメントのリポジトリとして記述しているかどうかに関係なく、CAFCは、JCT-VCのウェブサイトを閲覧する当業者であれば、メンバーのミーティングおよびコミュニケーションを通じてHEVC標準を開発するというJCT-VCの目的に役立つようにそのウェブサイトが構成されていることを理解するであろうと述べました。したがって、JCT-VCのウェブサイトを閲覧する当業者は、ドキュメントがミーティングページの下でホストされていることを認識していたであろうし、そしてミーティングページに移動し、それらのページでドキュメントを検索し、そして検索が完了するまで見て回るであろうことを知っていたはずです。
 CAFCは、サイトが完全なコンテンツ検索機能を欠いているというM&Kの主張を軽くあしらいました。Blue Calypso事件(Blue Calypso, LLC v. Groupon, Inc., 815 F.3d 1331, 1348(Fed. Cir. 2016))によりますと、公衆のアクセス可能性に関連する要素は、リポジトリがそのドキュメントにインデックスを付けるか、さもなければ主題ごとにそのドキュメントを分類するかということです。ここでは、JCT-VCのウェブサイトのミーティングページ上のドキュメントは、そのタイトル検索機能のために、そして問題の引用文献が記述的なタイトルを有しているために、主題ごとに効果的にインデックスが付されていました。したがって、CAFCは、引用文献が公衆にアクセス可能であるとPTABが正しく判断したことに同意しました。別のCAFCの事件であるIn re Lister事件(583 F.3d 1307, 1314-17 (Fed. Cir. 2009))では、CAFCは、ユーザーが「文献のタイトルのキーワード検索を実行できたが、全文検索は実行できなかった」インターネットデータベースに文献が投稿された日付の時点で、記述的なタイトルの文献は公衆にアクセス可能であった、と結論付けました。
 CAFCはさらに、M&Kのいくつかの主張に対して、Samsungは以下のことを示すことを要求されない、と述べました。
 1)M&Kは、関心を持った当業者がどの程度JCT-VCのウェブサイトにアクセスしたかに関する証拠をSamsungが示していないと主張しましたが、CAFCは、関心を持った当業者が実際にウェブサイト上の先行技術にアクセスしたことを示す必要はないと判示しました(Infobridge事件(Samsung Elecs. Co. v. Infobridge Pte. Ltd., 929 F.3d 1374 (Fed. Cir. 2019))によると、「公衆の特定のメンバーが実際に情報を受け取ったことを示す必要はない」とされた)。
 2)M&Kは、引用文献の内容は開発ミーティングにおいて議論された後にJCT-VCのウェブサイトにアップロードされたという事実は関心を持った当業者によるアクセスを減じると主張しましたが、CAFCは、引用文献がその内容が開発ミーティングにおいてJCT-VCグループに提示される前にアップロードされたことを示す必要はないと判示しました(MIT事件(Mass. Inst. of Tech. v. AB Fortia, 774 F.2d 1108 (Fed. Cir. 1985))によると、「文献は口頭で提示され、およびその後の制限なしに、要求に応じてコピーが配布された」とされた)。
 3)M&Kは、JCT-VCのミーティングにおける引用文献の口頭での提示が本件の自明性の争点に関連する実質的な情報を開示したことを示す証拠がないと主張しましたが、CAFCは、口頭での提示がこの事件の状況におけるSamsungの自明性の理論に関連する正確な情報を開示したことを示す必要はないと判示しました。
 (2) 新規性対自明性
 M&Kは、クレーム3に関するPTABの決定(どちらの当事者からも申し立てられておらずかつPTABの最終的な書面による決定まで開示されなかったクレームの解釈に基づいていた)は、M&Kが通知を受ける機会を奪った、と主張しました。Samsungは、クレームの新規性を阻害する引例はまたそのクレームを自明にするものなので、PTABの分析はクレーム3を無効にするためのより簡単な方法であり、かつSamsungの自明性に関する理論にとって本質的なものであると反論しました。Samsungはまた、M&Kは、クレーム3を無効にするためにPTABが使用した先行技術の通知を受けていたため、クレーム3が特許性を持たないことに関連する理由の通知を拒否されたものではなかった、と主張しました。
 CAFCはこれに同意せず、PTABがクレーム3の新規性が阻害されていると判断したときに、PTABはSamsungの申立に記載された無効理論から容認できないほど逸脱した、と結論付けました。行政手続法(the Administrative Procedure Act: APA)に基づき、IPRの手続などの正式な判決において、PTABは「特許権者に対して『主張された事実および法律の問題』を適時に通知し」、そして「すべての利害関係者に事実および反論を検討し提出する機会を与える」必要があります。たとえば、Arthrex事件(Arthrex, Inc. v. Smith & Nephew, Inc., 935 F.3d 1319, 1328 (Fed. Cir. 2019))において、裁判所は、「審判部が、申立または機関の決定によって提示された証拠および理論から著しく逸脱し、不当な驚きを生み出した」かどうかを検討しました。
 ここで、M&Kは、クレーム3に対して主張された自明性の組み合わせを考慮して、クレーム3を無効にするために使用される先行技術を認識していましたが、PTABが単一の引例ですべての限定の開示を見つける可能性があることは通知されていませんでした。したがって、CAFCは、PTABの行為が著しく逸脱しているものと判定しました。
 CAFCはこの状況をEmeraChem事件(EmeraChem Holdings, LLC v. Volkswagen Grp. of Am., Inc., 859 F.3d 1341, 1348 (Fed. Cir. 2017))になぞらえました。その事件では、特定のクレームに関して、一般的に関連があると主張されただけで申立人が実質的に依拠していない引例に基づいて審判部がクレームを無効にしたときにAPAに違反したと見なされました。具体的には、CAFCは、PTABによる新規性阻害の判定がSamsungの自明性の理論に固有のものではないと見なしただけでなく、Samsungの自明性に関する立場がPTABの新規性の結論と矛盾していると見なしました。特に、Samsungの申立ては、主要な先行技術文献がクレーム3の「所定のブロック」の限定を開示していないことを明示的に述べており、その開示の欠如の代わりとして自明性を主張しました。手続中のどの時点においても、SamsungはPTABが採用した特定のクレーム解釈および新規性の理論を主張もせず開示もしませんでした。

5.実務上の注目点
 標準ベースのワーキンググループは、インデックス作成、検索機能の提供、およびドキュメントリポジトリの記述的なタイトルの使用から特に恩恵を受ける可能性があります。このようなかなりありふれたウェブサイトのファイル検索ツールは、将来の特許クレームに対して教示内容の公衆の利用可能性を示すための決定的な違いになる可能性があります。
 必要に応じて、実務家は、AIA(America Invents Act)の下での申立において、より広い範囲の議論をカバーするための選択肢として自明性を主張できる場合など、新規性および自明性の両方を含めて主張する必要があります。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | February 11, 2021
[担当]深見特許事務所 堀井 豊