特許ライセンス契約は将来世代のワイヤレスネットワークにも適用される
Evolved Wireless, LLC v. HTC Corp., Case No.20-1335,-1337,-1339,-1340,-1363(Fed. Cir. 2021年1月26日)(Dyk, J.)
1.事件の概要
もともと第3世代(3G)のセルラーネットワークの時代にドラフトされた特許ライセンス契約の解釈において、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、ライセンス契約が後続の世代のワイヤレスネットワークをも対象としていることを認め、侵害の申立がライセンス契約および特許消尽の原則によって阻まれるという地方裁判所の判決を支持しました。一方でCAFCは、ライセンスの終了に関する補足的な証拠に基づく判断のために、地裁の判決を一部取消して差し戻しました。
2.背景
セルラーワイヤレスネットワークが適切に動作するためには、ネットワーク内の各コンポーネントが、共有された規格に従って動作する必要があります。初期世代のワイヤレスネットワークは、特定の地理的な場所に固有のものでした。その後の「世代」は、国際機関によって設定された世界標準に従ってハーモナイズされるようになりました。しかし第3世代(3G)について言えば、ある程度のハーモナイゼーションはなされたものの、WCDMAおよびCDMA2000として知られる2つの別々の3G規格が存在しました。第4世代(4G)は、より新しいテクノロジーをLong Term Evolution(LTE)として知られる単一の規格にハーモナイズさせることにより、このような分裂した状態に対処しました。それにもかかわらず、1つまたは複数の3Gまたは4G規格と互換性のある装置が存在します。これらは、互換性の特性に応じて、「シングルモード」または「マルチモード」の装置と呼ばれます。標準のハーモナイゼーションに必須の1つまたは複数の技術をカバーする特許は、標準必須特許(Standard-Essential Patents: SEP)と呼ばれ、公正、合理的、非差別的な条件でライセンス供与される必要があります。
3.事件の経緯
LG Electronics社は、LTE規格に基づいてモバイルデバイスをある基地局から別の基地局に切り替える方法を開示する特許を開発しました。LG社はその後、この特許がLTE規格に必須であると宣言し、ワイヤレスコンポーネントの開発者およびサプライヤーであるQualcomm社にライセンスを付与しました。LG社はその後、この特許をTQ Lambda社に売却し、TQ Lambda社はさらにそれをEvolved Wireless社に売却しました。Evolved Wireless社は、さまざまなモバイルデバイス製造業者に対して侵害訴訟を提起しましたが、これらの製造業者はすべて、Qualcomm社のコンポーネントを被疑侵害品に組み込んでいました。この特許は引き続きLG社とQualcomm社とのライセンス契約の対象であるため、中心的な争点は、被疑侵害品がライセンス契約の範囲内にあるかどうかということでした。
4.地方裁判所(第一審)の判断
ライセンス契約は対象特許を特定していませんでしたが、Qualcomm社とその顧客に対して、「完全なCDMA電話またはCDMAモデムカード、および何らかの後続の世代の製品」としてライセンス契約で定義された「加入者ユニット」を製造、販売、または使用するために技術的または商業的に必要なLG社の特許を使用する権利を付与しました。地方裁判所は被疑侵害品がライセンス契約の対象であることを認定し、そして、ライセンス契約がQualcomm社による特許の使用を認めており、かつ特許消尽の原則がQualcomm社の顧客(すなわち被告)に対する侵害の申立を排除した、という理論で被告に有利な略式判決を下しました。Evolved社は控訴しました。
5.CAFC(控訴審)の判断
控訴審において、Evolved社は、被疑侵害品が「加入者ユニット」の定義を満たしていないこと、およびライセンス契約が終了していたという補足証拠を提出したが地方裁判所が無視したこと、を主張しました。Evolved社は、ライセンス契約の「後続の世代の製品」という用語には、LTE規格で動作する製品は含まれず、代わりに、その後開発されたCDMA対応製品(つまり、3G製品)のみが含まれると主張しました。CAFCはこれに同意せず、Evolved社の解釈は、この文脈において「世代」という言葉の確立された意味を無視していると判断しました。CAFCは、ライセンス契約は後続の世代の製品を対象としているため、ライセンス契約が有効であった期間の侵害を除外したと結論付けました。
しかし、これで審理は終了しませんでした。地方裁判所での略式判決を求める両当事者のそれぞれの申立てが係属中であった間に、Evolved社は、「補足事実の通知」を提出することによりLG社とQualcomm社とのライセンス契約が終了したことを地方裁判所に通知しました。CAFCは、地方裁判所が略式判決の聴聞でライセンス契約の終了について具体的に質問したにもかかわらず、終了が略式判決における地方裁判所の見解の一部を形成しなかったことに注目しました。したがって、CAFCは、ライセンス契約の終了の試みの影響に関するさらなる事実認定のために差し戻しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update |February 18, 2021
[担当]深見特許事務所 堀井 豊