KSR判決を踏まえて、PTABによる非自明性の決定を覆したCAFC判決
(米国)CAFCは、皮膚がんの検出装置に関する特定のクレームについての、特許審判部(PTAB)による非自明性の決定を、KSR判決を引用して覆すとともに、従属クレームに関して個別に判断されることなく特許性を認めたPTABの決定を破棄し、従属クレームについてさらなる審理を行なわせるために、PTABに差し戻した
Canfield Scientific, Inc. v. Melanoscan, LLC, Case No. 19-1927 (Fed. Cir. Feb. 18, 2021)
1.本件CAFC判決の背景
(1)Canfield社によるIPR(当事者系レビュー)申請
Canfield Scientific社は、Melanoscan社の特許(以下「Melanoscan特許」)のクレームの有効性について、いくつかの先行文献により自明である主張してIPRを申請しました。
(2)Melanoscan特許発明の概要
Melanoscan特許に開示された装置は、「健康と美容上の病気を検出するために、閉塞されていない体の表面の全部または一部の撮像を可能にするように配置された、カメラと光源が取り付けられた包囲構造体(enclosure)」であり、IPR申請の対象となる2つの独立請求項はいずれも、以下の構成要件を備えています。
・人またはその一部を受け入れるように構成された包囲構造体であって、包囲構造体内に人またはその一部を配置するための指定された撮像位置を規定する包囲構造体。
・複数の撮像装置が互いに垂直方向に間隔を置いて配置され、撮像装置は、指定された撮像位置の中心線に対して両側に複数配置される。
・互いに間隔を置いて配置され、複数の画像装置の周辺にある複数の光源。
(3)Canfield社の主張
Canfield社は自明性の主張のためVoigt, Hurley, Crampton,Daanen,Dyeの5件の先行文献を提示しました。Voigtは、患者の皮膚の画像を分析および測定するためのカメラと光源を含む包囲構造体を開示しています。Voigtは、壁に沿って被写体を配置し、カメラを一方向に配置することを教示していますが、中心線の両側に垂直方向と横方向に間隔を置いて配置された撮像装置(カメラ)を開示していません。
Hurley, Crampton および Daanenはそれぞれ、包囲構造体の中央に被写体を配置し、カメラを垂直方向、横方向、および中心線の両側に配置することを開示しています。
Canfield社は、これらの先行文献の開示の組合せにより、IPR対象のクレームの主題が合理的に示唆されると主張しました。
(4)PTABの決定
PTABは、この主張を説得力のないものと判断し、「Voigtの後壁は2台の背面カメラの視界を遮り、Voigtの水平方向に調整可能なスライダーは残りのカメラの視界を部分的に遮ることから、当業者は、Voigtのシステムとハーレーの撮像装置の配置とを組合せるように動機付けられなかったであろう」との理由で、Melanoscan特許発明は自明ではないと結論付けました。
(5)Canfield社による控訴
Canfield社は、PTABによる上記決定を不服として、CAFCに控訴しました。
2.CAFC判決の概要
CAFCは、上記PTABの結論に同意せず、Voigtにおいては撮像される被写体が壁に沿って配置され、Hurley、Crampton、Daanenにおいては、被写体は枠組(framework)内の中央に配置されており、これらの先行文献はいずれも、中心線の周りに互いに横方向および縦方向に間隔を置いて配置されたカメラを示していることを指摘して、IPRの対象となった独立クレームの主題は、本発明の分野の当業者にとって自明であると結論付けました。この結論を導くに際して、CAFCは、影響力の大きい最高裁判所のKSR判決を引用して、「既知の方法に従った、よく知られている要素の組み合わせは、予測可能な結果しか得られない場合に自明である可能性が高い」と述べています。
CAFCは、独立クレームに関するPTABの特許性の決定を覆すとともに、IPRにおいて個別に審理されなかった従属クレームに関して、PTABでさらに審理することを求めて、PTABに差し戻しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update | Febuary 2021
本件CAFC判決(上訴番号:2019-1927、判決日:2021年2月18日)
[担当]深見特許事務所 野田 久登