韓国におけるパラメータ発明関連等特許審査基準の改訂について
韓国特許・実用新案審査基準が改訂され、2020年12月14日付で施行されました。今回の改訂は、主として、パラメータ関連発明の記載要件、および、優先審査可否の要件としての「実施の主体」の審査基準に関するものです。
改訂の概要は、以下のとおりです。
I.パラメータ関連発明の記載要件に審査基準(第2部第3章、第4章)の改訂
1.改訂の背景
出願人がパラメータ発明を忠実に公開し、権利範囲を適正に請求するように誘導するため、また、パラメータ発明を容易に実施可能にするため、明細書および請求の範囲におけるパラメータ発明の記載要件およびその審査基準をより明確化する必要がありました。
2.「発明の説明」の記載要件の改訂の内容
第2部第3章(発明の説明)の「2.3.2 特殊な場合の取り扱い」の「(3)パラメータ発明の場合の規定」について、以下のように改訂されました。
(1)パラメータで特定される発明が発明の説明の記載要件を満たす条件として、次の事項が明記されました。
・通常の技術者が、出願時の技術水準から見て、過度な実験や特殊な知識を付加しなくても、明細書の記載に基づいて、新たなパラメータを含む発明の全ての構成を、特許請求の範囲で限定された数値範囲全体にわたって正確に理解することにより、これを使用することができること。
・上記構成から得られる効果もまた、数値範囲全体にわたって、明細書から具体的な実験・実施例等により証明され、又は通常の技術者が出願時の技術レベルから見てこれを十分に予測することができること。
(2)パラメータに関する具体的な技術内容として改訂前から挙げられている7項目が、パラメータ発明が容易に実施されるための要件であることが明記されました。
(3)パラメータ発明に関する発明の説明の記載要件を満たさない例として、次の4項目の場合が挙げられ、それぞれについて詳細な説明が付記されました。
①パラメータの定義および技術的意味が明確に記載されていない場合
②パラメータによって限定された物の製造方法が記載されていない場合
③パラメータの効果を確認できる実施例および比較例が記載されていない場合
④パラメータと関連した変数の測定のための方法、条件、器具についての説明が記載されていない場合
また、上記項目の具体的な技術内容が明示的に記載されていない場合でも、出願時の技術常識を勘案すると明確に理解され得る場合には、これを理由に発明が容易に実施され得ないと判断しないことが明記されています。
3.請求の範囲の記載要件の改訂内容
(1)第2部第4章(請求の範囲)の「3.発明の説明によって裏付けられること」について、以下のように改訂されました。
(i)「④出願時の当該技術分野における技術常識に照らしてみて、発明の説明に記載された内容を請求された発明の範囲まで拡張するか、又は一般化することができない場合」の事例として、新たに次の「例4」が追加されました。
「(例4)パラメータ発明において、請求項にはパラメータの数値範囲が限定されているが、発明の説明にはその数値範囲の全体にわたって具体的な実施例が記載されておらず、実施例を通じてより良い効果が確認された数値範囲以外の範囲については、出願時のその技術分野における技術常識をもってしてもその効果が認められない場合」
(ii)「⑤発明の説明には、発明の課題を解決するために必須の構成として説明されている事項が請求項には記載されていないことから、当該技術分野における通常の知識を有する者が、発明の説明から認識することができる範囲から外れた発明を請求するものと認められる場合」の事例として、新たに次の「例2」が追加されました。
「(例2)パラメータ発明について、発明の説明には、『パラメータの特性値を満たすだけでなく、特定の組成及び工程を通じて冷延鋼鈑を構成する場合に、優れた強度と延伸率を確保する実施例』のみが記載されているのに対して、請求項には『特定のパラメータの特性値のみを満たす冷延鋼鈑』が記載された場合」
(2)第2部第4章(請求の範囲)の「4.発明が明確かつ簡潔に記載されていること」の項目(9)において、発明が明確かつ簡潔に記載されているものとして取り扱う要件として、改定前から規定されている3項目の他に、「パラメータの測定方法、測定条件、測定装置などを把握してパラメータの値を明確に確認することができること」が追加されました。
この改訂により、パラメータの測定方法が明確に理解されない場合には、パラメータで表現された請求の範囲が不明確なものと判断されることが明確にされました。
II.優先審査関連の審査基準(第7部第4章)の改訂
優先審査を受けるための要件として、第7部第4章4.12の「②「実施」の主体」には、改訂前より、「出願人が実施または実施準備中でなければならない」という原則が規定され、但し書きとして、「出願人と実施者とが異なる場合、実施者と出願人との間に実施契約がある場合に限り、当該実施者も実施の主体となり得る」ことが規定されています。
この規定について、今回の改訂において、「出願人が実施企業(実施者)の代表者である場合には、実施契約を立証する別途の書類を提出しなくても、出願人から実施の許諾を受けたものと見なす」ことが追記されました。
[情報元]
1.KOREANA PATENT FIRM 韓国における改定「特許・実用新案審査基準」(’20.12.14改訂)のご案内(2021/1/5)、およびその添付資料
2.KOREANA PATENT FIRM 韓国における「特許・実用新案審査基準一部改訂(案)」のご案内(2020/11/10)、およびその添付資料
3.KIM & CHANG IP Newsletter 2021 Issue 1「パラメーター発明の記載要件に関する韓国の特許審査基準強化」
4.前回(2018/8/10付)改訂の韓国特許・実用新案審査基準仮訳(ジェトロ作成)
[担当]深見特許事務所 野田 久登