必要なDNAを「準備する方法」の発明は101条の特許適格性を有する
Illumina, Inc. v. Ariosa Diagnostics, Inc., Case No. 2019-1419 (Fed. Cir. March 17, 2020)
連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、母体血漿の細胞外母体DNAに関する特許の有効性を争う事件において、母体血漿と血清から特定のDNAを選出する方法に係る発明が101条の特許適格性を有すると判断しました。
Illumina社は、米国特許第9,580,751(751特許)および同第9,738,931(931特許)を侵害しているとしてAriosa社を提訴しました。これらの特許は、母体血漿の細胞外母体DNAに関するものです。Ariosa社は、両特許のクレームは細胞外母体DNAを準備する方法に過ぎず、診断方法でも治療方法でもないので101条の特許適格性がないとして、略式判決(summary judgment:重要な事実認定には争いがないため陪審員公判による事実認定を必要とせず、法律問題として裁判官だけで判断する判決)を要求しました。地裁は、Ariosa社の主張を認めて両特許は特許適格性がないため無効であると判断しました。Illumina社は、特許無効の略式判決を不服としてCAFCへ控訴していました。CAFCは、2対1の判決によりIllumina社の主張を認め、101条の特許適格性を有すると判決しました。
ここで問題となっている自然現象は、細胞フリー胎児DNA (cell-free fetal DNA)が母親の血流中の細胞フリー母体DNA (cell-free maternal DNA)よりも短い傾向があるという現象です。CAFCの多数意見は、Alice/Mayoテストのステップ1(USPTO101条ガイドラインのステップ2Aに対応)を分析すると、本件クレームは自然現象そのものに向けられたものではなく、むしろ、その現象を利用する方法に向けられているといえると判断しています。
多数意見はさらに、サイズの識別とDNA断片の選択的除去の手法そのものは従来から知られているものであるかという考慮事項は、Alice/Mayoテストのステップ2(USPTO101条ガイドラインのステップ2Bに対応)の分析、または102条・103条の問題には関係するものの、Alice/Mayoテストのステップ1(USPTO101条ガイドラインのステップ2Aに対応)の分析には関係ないと説明しています。多数意見は、Alice/Mayoテストのステップ1の分析の結果、本件発明は特許適格性を有すると判断し、Alice/Mayoテストのステップ2の分析には進みませんでした。
しかし、レイナ判事は、上記多数意見に対する強い反対意見として、Alice/Mayoテストのステップ1(USPTO101条ガイドラインのステップ2Aに対応)の分析の結果、当該クレームは「自然現象」に向けられており、Alice/Mayoテストのステップ2(USPTO101条ガイドラインのステップ2Bに対応)を検討しても、特許適格性のある発明といえる概念はないと述べています。レイナ判事は、本件発明者はcell-free fetal DNAが母親の血流中のcell-free maternal DNAよりも短い傾向にあるという「驚くべき」事実の発見をしたに過ぎず、クレームされた進歩(claimed advance)は自然現象の発見だけであるため、本件クレームは自然現象に向けられたクレームであると述べています。
101条の特許適格性に関する最近のCAFC判決では、3名の判事の全員一致が殆どないほど意見が分かれており、この問題に関する混乱を物語っています。議会による101条の改正の必要性も言われていますが、どのように改正すべきかについての意見が業界により異なり、その調整が難しいため、法改正にもまだしばらく時間が必要のようです。
[情報元]Westerman, Hattori, Daniels & Adrian, LLP 米国特許ニュース|May, 2020
[担当]深見特許事務所 田村 拓也