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室温の先行技術が拡大されたクレーム記載に冷却効果をもたらす

 CAFCはこのほど、抗体精製方法に関する特許の有効性を争う事件において、組成物を室温未満に冷却するプロセスが当該組成物を室温で精製するプロセスによって予期され、かつ自明であると判断しました(Genentech, Inc. v. Hospira, Inc., Case No. 18-1933 (Fed. Cir. Jan. 10, 2020) (Chen, J) (Newman, J, dissenting))。
 従来からプロテインAでコートされたクロマトグラフィーカラムを用いた抗体精製方法が知られていました。該方法は、組成物中の抗体を上記カラム内のプロテインAに結合させた後、低pH溶液で上記カラムを洗浄することによってプロテインAから抗体を分離・精製するものです。しかしこの方法では、上記カラムから少量のプロテインAも放出されるため、高度な精製が困難でした。この問題をGenentechの特許(U.S. Patent No. 7,807,799)は、上記カラムに導入する組成物の温度を「『約』10~18℃の範囲」に大幅に下げることにより解決しました。
 本特許に対しHospiraは、WO’389等の複数の引例に基づいてIPRを請求し、無効を主張しました。PTABは、無効が請求されたクレームのすべてが上記引例に照らして予期され、自明であると決定しました。これに対しGenentechは、上訴しました。
 WO’389は、プロテインAを有するクロマトグラフィーカラムを用いて特定の抗体を精製する方法に関し、すべてのステップを室温(18~25℃)で行うことを教示していました。CAFCは、上記の室温の範囲が「約10~18℃の範囲」と重複すると認定しました。さらに、数値範囲が重複することが一応推定され、当該数値範囲がクレームされた発明にとって重要であることを特許権者が証明する必要があるのに、これを示さなかったために無効と判断したPTABを支持し、WO’389に照らして本特許が予期され、かつ自明であると判断しました。
 ただしニューマン裁判官は、CAFCの上記の認定が後知恵であるとして異議を唱えています。ニューマン裁判官は、「18℃は、クレームされた温度範囲と室温との隣接に過ぎず、より低い温度範囲を予期していない」と述べ、WO’389は室温以下に組成物を冷却することを意図していないと述べています。
 実務上の注意:クレーム用語である「約」は、クレームに規定した場合、数値範囲のすぐ外側を実施する侵害者を排除できるようにしますが、その数値範囲の外側に隣接する先行技術と重複する場合があることも考慮すべきです。

[情報元]McDermott Will & Emery IP Update – January 22, 2020
[担当]深見特許事務所 田村 拓也