ダブルパテントに関する質問が拡大審判部に付託される
審判事件T0318/14において、欧州特許庁の拡大審判部に、ダブルパテントに関する質問が新たに付託されました。
EPCには、ダブルパテントに関する明文の規定はありません。審査便覧G-IV-5.4には、「1つの発明について同一の出願人に2つの特許を付与できないことはほとんどの特許制度で認められている原則である」と記載されています。実務上、クレームされた発明主題が同一である場合にのみダブルパテントとして拒絶され、2つの出願のクレームに実質的な重複があることは容認されています。上記審査便覧には、「同一出願人の複数の欧州出願が同一の発明を権利請求するという稀な場合に、当該出願人は、発明主題を同一でなくするようにいずれかの出願を補正するか、または手続遂行を希望するいずれか1つの出願を選択することを求められる」、「クレームが単に部分的に重複している場合には拒絶されない」と記載されています。このようなアプローチに従って、多くの審決がなされてきました。
T0318/14は、審査部の拒絶査定に対する審判事件です。審査部は、出願人の欧州特許出願を、拡大審判部の従前の審決G1/05およびG1/06を参照して、当該出願が優先権を主張する既に許可された欧州出願と発明主題が「100%同一」であるとして、拒絶しました。審判請求人は、審決T1423/07における、第1出願を基礎とする優先権を主張する第2出願として同一権利範囲の2つの特許権を取得することには「正当な利益」がありそれ故に特許の存続期間が1年間延ばされる、とする論拠に従って、正当な利益、すなわち1年間の存続期間の延長を主張しました。審判部は、この問題について対立する判例法が存在することを考慮して、拡大審判部に以下の質問を付託しました。
1 欧州出願が、EPC54条(2)(3)に規定される技術水準を構成しない同一出願人の欧州特許と同一の発明主題を権利請求する場合に、拒絶されるか?
2.1 第1の質問の答がYESであれば、拒絶される条件は何か?また、審査中の欧州特許出願が、a)同一出願人の欧州特許と同日に出願された、b)同一出願人の欧州特許の分割出願である、c)同一出願人の欧州特許を基礎とする優先権を伴う、という場合に、適用されるべき異なる条件は何か?
2.2 特に、優先権を伴う場合に、EPC63条(1)に規定される存続期間の起算日は優先日ではなく現実の出願日であるという事実を鑑みて、後続の出願に特許を認めることに出願人は正当な利益を有するか?
拡大審判部の決定は、出願戦略に影響を及ぼすものと考えられます。2020年に決定が出されることが予想されています。
[情報元]J. A. Kemp Briefing, 05 March 2019
[担当]深見特許事務所 村野 淳