予測(prediction):「平易かつ通常の意味」とは特別(particular)に平易かつ通常ではない
CAFCは、侵害成立の陪審評決を覆す一方、争点のクレームは先行文献に対して新規性を有するという地裁の略式判決(Summary Judgement)を容認しました(Wis. Alumni Research Found. v. Apple Inc., Case Nos. 17-2265, -2380 (Fed. Cir. Sept. 28, 2018))。
Wis. Alumni Research Found(以下、「WARF」と記載します)は、「予測を用いて平行して実行されるコンピュータの処理機能を向上させるデータ投機判定回路」に関する特許権を所有していました。
クレームにおいて、「予測」が「特定の(particular)」ロード命令に関連付けられることが要件とされていました。WARFは、Apple Inc.(以下、「Apple」と記載します)に対して、特許権侵害訴訟を提起しました。
Appleの被疑侵害製品において、各々の「予測」は「複数」のロード命令に関連付けられるものでした。Appleは、「特定の」ロード命令とは、平易かつ通常の意味においては、「単一」のロード命令に関連付けられる事を要すると主張し、特許権侵害を否定しました。また、クレームは先行文献から新規性を欠くため、特許権は無効であるとも主張しました。
地裁は、「特定の」の解釈に関しては、Appleの主張を支持しました。しかし、「特定の」の意味について、陪審員に対して具体的な指示は与えませんでした。陪審員は、クレームは先行文献に対して新規性を有すると認定し、Appleに賠償金の支払いを命じる評決を下しました。
AppleはCAFCに控訴しました。CAFCも「特定の」の解釈に関して、Appleの主張を支持しました。しかしながら、支持するに至った理由は述べられませんでした。CAFCは、Appleが主張する「特定の」の解釈に基づいたとしても依然として侵害する、とのWARFの主張を退け、侵害成立の陪審評決を覆しました。
新規性の争点は、もう一つのクレーム解釈上の争点である「予測」の限定事項によって決着しました。WARFは、「予測」は動的な予測であり、アップデートを受け取れることを要すると主張しました。Appleは、「予測」という用語の意味は広く、静的な予測を含むと主張しました。CAFCは、明細書等全体において「繰り返し、かつ、一貫して」、「予測」は動的な予測であり、アップデートを継続的に受け取れることが記載されているのに対して、「予測」が静的な予測である旨の記載は発見できないことを理由に、「予測」の解釈についてWARFの主張を支持しました。CAFCは、「予測」が静的な予測を含むとした場合には、クレームにより規定される発明が明細書に記載された事項を超えるものとなると認定しました。その上でCAFCは、クレームは先行文献に対して新規性を有するという、地裁の略式判決を容認しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol. 21, No. 10
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛