国・地域別IP情報

コンピュータソフトウェア関連発明の裁判例からの指針

 コンピュータソフトウェア関連発明の裁判例から示される開示(サポート)要件に関する指針を紹介します。
(1)判決内容の要約
 知的財産裁判所行政判決
【裁判番号】103年度行専訴字第70号
【裁判期日】2015年1月15日
【裁判事由】発明特許出願
【原告】 旅盟資訊股扮有限公司(Lemon Information Technology CO,LTD.)
【被告】 経済部知的財産局
【事実要約と争点】
原告は2007年5月24日「マップ方式旅行情報管理方法」(以下、「係争特許」)について発明特許出願を行ったが、専利法第26条第2項規定に違反しているとして、特許を付与すべきでないとの処分を不服として、行政訴訟を提起しました。
本件の争点は、係争特許が専利法第26条第2項規定に違反しているか否かでした。
【主文】
 判決は『原告の請求を棄却する。』でした。
(2)判決からの指針
 判決から、コンピュータソフトウェア関連発明の明細書には、商業上のステップ又は機能だけの記載にとどまらず、ソフトウェアの機能に対応する構造又は動作を詳細に記載すべきであるとの指針が得られます。
(3)判決のハイライト
 ここでは、判決内容の詳細は繰返さず、判決のハイライト部を紹介します。
 『台湾の専利法(訳注:日本の特許法、実用新案法、意匠法に相当)第26条第2項は、以下の点を規定する。
 「請求の範囲には、特許を受けようとする発明について定義しなければならない。特許請求の範囲は1項以上の請求項で、各請求項は明確、簡潔な方式で記載しなければならず、かつ必ず明細書で支持しなければならない。」
 この規定から、特許請求の範囲は各請求項について明確、簡潔な方法で記載され、且つ明細書に裏付けされなければならないことが理解される。
 この点に関し、本件のコンピュータソフトウェア関連発明の明細書は、請求項の内容を複製している以外に、出願している技術的特徴の商業上の効果又は使用方法を説明しているだけにすぎず、該機能を達成するために対応する構造(ハードウェア部材)又は動作(ソフトウェア・アルゴリズム)を詳細に記述していない。
 また、本件の特許請求の範囲ではミーンズ(ステップ)・プラス・ファンクション形式の使用を主張しているが、この場合、明細書ではミーンズ(ステップ)に対応する構造又は動作を明記することが要求される。この点に関し、本件明細書は商業上の効果又は使用方法を説明しているだけにすぎない。すなわち、本件明細書はコンピュータソフトウェア関連発明における対応するハードウェア部材又はソフェトウェア・アルゴリズムについて、商業上のステップ(手順)又はファンクション(機能)のみを記載するから、本件明細書の記載は請求項のミーンズ(ステップ)に対応しようがない。
 次に、明細書にすでにアルゴリズムが開示されているとき、当業者にとって十分な開示がされているか否かとは、明細書の開示から当業者がいかにプログラミングを行うかを明確に知悉し、コンピュータで開示された該アルゴリズムの必要なステップを実行できるか否かを意味し、また当業者が該アルゴリズムを明細書に基づいて実施し(請求項で)請求されている機能を達成できるか否かでもある。
 このアルゴリズムの開示に関し、特許請求の範囲でミーンズ(ステップ)・プラス・ファンクション形式を使用するときは、明確且つ十分に開示する義務を果たすべきであるため、全体のアルゴリズムがいずれも当業者の容易に完成できるものだからといっても詳細に開示しないことがあってはならない。』
このように、判決のハイライト部から、上記の指針を読み取ることができます。

[情報元]台湾国際専利法律事務所ニュースメール 2016年1月号
[担当]深見特許事務所 杉本 さち子