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(欧州)欧州連合商標法の改正

 共同体商標規則を改正する欧州議会と理事会の規則(EU)2015/2424が、2016年3月23日に発効されます。ここでは、共同体商標規則と商標指令の変更点について概説します。特に、商品・役務の指定の変更ができる期間が制限されることにご留意ください(ポイント10をご覧ください)。

商標の適格性
1. 視覚的に表現(graphic representability)の要件が削除されます。標章は、明確かつ正確であれば、あらゆる利用可能な技術で表現されるものでよいとされます。改正後の規則では色や音の商標の登録可能性について記載され、新しく絶対的拒絶理由が追加され(下記参照)、非伝統的商標の登録は実務上まだ難しいままであることを意味しますが、理論的にはより多くの非伝統的商標の登録を可能にしています。

2. 形状の登録のための既存の除外規定(exclusions)が他の「特徴」に及び、絶対的拒絶理由が拡張されます。これまでの規則は、商品本来の形状のみからなる標章、技術的な成果を得るための形状のみからなる標章、商品に相当な価値を付加する形状のみからなる標章は登録されないと明確にしていました。新規則は、商品本来の形状又は「その他の特徴」のみからなる標章、技術的な成果を得るための形状又は「その他の特徴」のみからなる標章、商品に相当な価値を付加する形状又は「その他の特徴」のみからなる標章が登録されないよう、この要件を拡大しています。

3. ぶどう酒及び伝統的特産品(wine and traditional specialities)についての原産地呼称、地理的表示、保護された伝統的用語を含めることで、絶対的拒絶理由は拡張されます。

権利の拡大
4. 商号や会社名としての商標の使用を禁止すべく、権利が拡大されます。禁止行為には「商号や会社名の一部としての商標の使用」が含まれます。現行(改正前)の規則では、侵害成立のため、会社名とその会社が提供する商品・サービスとの十分な関連性を確立することが時折問題となります。この改正後の表現は、そういった関連づけに役立ちます。

5. 改正後の規則は「EU指令2006/114/に反する方法による比較広告における」標章の使用も禁止しています。司法裁判所が最近のケースの多くでしてきたように、この禁止は新規則と誤解を与える比較広告指令とを関連づけます。

6. 商品を欧州連合内に流通させない場合であっても、第三者が侵害を構成する標章を付した商品を欧州連合に持ち込むことを禁止すべく、権利が拡大されます。これは、輸送中の商品(goods in transit)の問題を扱う重要な改正です。その商品が欧州市場に置かれることを意図したものだと窺えた場合にのみ、その輸送中の商品は偽造品として分類されると示したフィリップスとノキアの裁判の判決を、本質的に覆すものです。今や、商標の所有者は、たとえ自由に流通させない場合でも、本質的側面において商標と区別できないマークを付した商品を第三者が欧州連合に持ち込むことを防止することができます。もし商品の所有者が、欧州連合商標の権利者には最終目的地の国の市場にその商品を流通させることを禁止する権原はないと証明することができれば、その商品はその国へ輸出されます。この改正は欧州連合全域で偽造に対応するブランド所有者に役立つべきものです。

7. 改正後の規則は、包装、ラベル、及びその他の同様のものへの侵害標章の添付をも禁止します。これもまた、侵害品に対処する際にブランド所有者に役立つべきものです。

商品及び役務の指定
8. 指令は、「商標権の範囲についての法的安定性の確保と、商標保護へのアクセスの促進のため」、商品及び役務の分類が十分に明確かつ正確(clear and precise)であるべきとしています。IP Translator判決の前は、共同体商標内に含まれるクラスヘディングは、その共同体商標出願時に発効されたニース分類の版のアルファベティカルリスト全体に見られる、関連する分類内のすべての商品及び役務をカバーすると考えられていました。IP Translator事件の後、実務が変更になり、新規則は立場を明確にするよう求めています。

9. 商品・役務の指定に一般用語が使用される場合、その用語は文字通り解釈(interpreted literally)ます。不明確又は不正確な用語を含む出願はいずれ拒絶され、出願人は他の許容される用語を提案するよう要求されることになります。

10. IP Translator前の立場をとろうとする場合、明らかに含まない商品及び役務が出願時に発効されたニース分類の版の関連する分類の商品/役務アルファベティカルリストに掲載される場合に限り、新規則28条は、クラスヘディング全体を含む2012年6月22日前に出願された欧州連合商標の所有者に、出願時の意図が、その時使用した一般用語の文字通りの意味を超えた商品及び役務をカバーするものだったかどうかを確認する機会を与えます。この機会は、新規則発効後6ヶ月間、すなわち、2016年3月23日から2016年9月23日までとなっています。

11. 9月23日前に提出された商標の商品/役務の指定に変更されない場合は、その商標の登録は、使用した用語の文字通りの意味における商品及び役務についてのみ、マークを保護することになります。商標所有者が第28条に基づき商品/役務の記載を変更する場合も、補正がなされる前に使用されその時点で侵害とは考えられなかった第三者の商標の使用に対し、登録に基づく権利が用語の文字通りの意味を超えて拡張されることはありません。商品及び役務の記載が補正される前に、後願商標が使用されたり登録出願されたりした場合にも、異議や後願商標の無効の宣言書の提出について同様の規定が適用されます。 

12. OHIMは、商標の所有者が上記で述べたような商品及び役務の記載を変更するために提出できる宣言書について、許容された宣言書がどのように公開されるかの確認も含め、情報を公開しました。商品役務の記載の変更が適切かどうか助言できるよう、関連する欧州連合商標登録を見直すように我々に指示されることをお勧め致します。OHIMは、商品役務の記載に追加の商品及び役務を含む場合であっても、クラスヘディング全体をも含み、そのクラスヘディングが何ら制限されないものだったと仮定される場合は、宣言書を提出することができると指摘しています。

13. OHIMは、既存の権利の見直しにおいて助けとなりそうな「クラスヘディングの文字通りの意味に入らないと考えられる文言の例」を確認する書面も提示しました。例として、ニース分類の最新版に記載の、第25類のクラスヘディング「衣類、履き物、帽子(clothing, footwear, headgear)」を検討すると、「靴の甲(footwear uppers)」や「インソール(inner soles)」という用語は文字通りの意味には入りません。同様に、「エアバッグ(air bags)」は、標準的な第12類のクラスヘディングの文字どおりの意味に入っているとは考えられません。実際に、上記の規定に基づき提出された要求をOHIMがどう取扱うか、興味深いところです。

手続 旧料金€ 新料金€
電子出願 1区分 900 850
電子出願 2区分目 0 50
電子出願 追加区分毎 150
(3区分を超える部分)
150
(2区分を超える部分)
異議申立 350 320
電子更新 1区分 1350 850
電子更新 2区分目 0 50
電子更新 追加区分毎 400
(3区分を超える部分)
150
(2区分を超える部分)
取消・無効審判 700 630
不服申立 800 720

 

15. そこで重要なのは、更新料の支払期限が若干変更されたことです。更新申請と更新料は、これまでの「保護が満了する月の末日前6ヶ月間」ではなく、登録満了日前6ヶ月間に提出しなければなりません。

欧州連合を指定する国際商標に対する異議申立期間
16. 欧州連合を指定する国際商標に対する異議申立期間の始期は、現在の公告日後6ヶ月からに替えて、公告日後1ヶ月からに変更されます。

機械的な調査
17. 出願過程の一部としてOHIMによりなされ、出願人に提供されていた先行欧州連合商標についての機械的な調査はなくなりました。出願人は、必要に応じて、そのような調査を積極的に請求することになります。加盟国が申し出ていれば、加盟国の各庁が提供するサーチレポートを請求することもできます。OHIMは、先登録又は出願の所有者がもう送付しないよう要求しない限り、これからも欧州連合商標出願の公告について先行欧州連合商標の所有者に通知します。必要であれば、適切な調査について助言致します。

商号としての使用主張の制限 
18. 新規則は、第三者が自然人である場合のみ、その第三者の氏名又は住所としての標章の使用を主張できる旨規定しています。これは、欧州連合商標の被疑侵害に関し、企業はもはや、2015年にASOSが成功させたようには、自己の名称としての利用の主張ができないことを意味する重要な改正です。商標指令が改正されるまでは、商号としての使用の主張は、英国商標についての被疑侵害に関するケースでまだ可能かもしれません(11条2項(a))。2016年3月23日前の侵害行為に関する商号としての使用の主張の可能性に言及する暫定規定の内容は、今のところ不明です。

使用証明の期間
19. 異議手続において、異議申立人がその商標の使用について証明することを出願人が要求する場合、当該5年の期間は、これまでのように後願商標の公告日以前の5年ではなく、出願日又は優先日以前の5年となります。

証明商標
20. 新規則は、商標の所有者が出願し、商品の原料や製造方法、サービスの性能や、品質、精度、その他の特性について証明される商品又はサービスを、証明されない商品及びサービスから区別できる欧州連合証明商標を導入します。
 英国の証明商標と同じく、欧州連合証明商標の出願人は、そのような証明をされる商品又はサービスの供給を含め、自身で業を行うことはできません。証明商標の使用を規制する規則は、出願日から2ヶ月以内に提出しなければいけません。出願を欧州連合証明商標に変更することが可能ですが、関連する加盟国の国内法が保障又は証明商標の登録について規定する場合に限られます。

調停センター
21. 当事者らが紛争を解決するのを助けるため、新規則では調停センターが設立されます。新規則は、料金支払い後に紛争の当事者が共同で適切な要求を提出するよう規定し、異議部、取消部及び審判部での紛争について中断して活用できる適切な期間をもたらします。

名称変更
22. OHIM、共同体商標(Community trade marks)、共同体商標規則(the Community Trade Mark Regulation)、そして、欧州連合の加盟各国における共同体商標裁判所(the Community trade mark courts)の名称が変更されます。
 商標は、「欧州連合商標(The European Union trade mark)」又は「EU商標(EU trade mark)」と呼ばれます。
 OHIMは「欧州連合知的財産庁(European Union Intellectual Property Office)」と呼ばれます。
 「共同体商標裁判所(Community Trade Mark Court)」は、今のところ、「EU商標裁判所(EU Trade Mark Court)」と称されます。
 「共同体団体商標(Community Collective Mark)」は「欧州連合団体商標(European Union Collective Mark)」になります。
 規則の正式名称は、「共同体商標に関する理事会規則(EC)No.207/2009及び共同体商標に関する理事会規則(EC)No.40/94を施行する委員会規則(EC)No.2868/95を改正し,欧州共同体商標意匠庁に支払われるべき料金に関する委員会規則(EC)No.2869/95を廃止する、2015年12月16日欧州議会及び理事会規則(EC)2015/2424(Regulation (EU) 2015/2424 of the European Parliament and of the Council of 16 December 2015 amending Council Regulation (EC) No. 207/2009 on the Community Trade Mark and Commission Regulation (EC) No. 2868/95 implementing Council Regulation (EC) No. 40/94 on the Community Trade Mark, and repealing Commission Regulation (EC) No. 2869/95 on the fees payable to the Office for Harmonization in the Internal Market (Trade Marks and Designs))」です。

[情報元] D Young & Co Trade Marks, March 1, 2016
[担当]深見特許事務所 中島 由賀