国・地域別IP情報

中国最高人民法院による特許権侵害係争事件の審理における法律適用問題に関する司法解釈(二)

 中国最高人民法院は2016年3月に「中国最高人民法院による特許権侵害係争事件の審理における法律適用問題に関する司法解釈(二)」(以降、本解釈と略する)を公布しました。本解釈は2016年4月1日に発効し、中国法院で審理終結していない全ての特許案件に適用されます。本解釈は、クレームの解釈、侵害判定、訴訟手続など特許侵害分野における重要な課題を複数カバーし、特許出願書類の作成と審査、特許行政訴訟、特許無効、権利行使など中国特許実務の全体に重大な影響を与えることが予想されています。特許関係者から最も重要視されているのは、機能的特徴の定義と侵害認定(第8条)、間接侵害の定義と構成要件(第21条)、特許侵害の賠償金額における立証妨害制度(第27条)など、本解釈により新しく創設された規則です。

1. 機能的特徴の定義と侵害認定について 
(i) 定義について
 本解釈の第8条第1項において、「機能的特徴」を「構造、成分、工程、条件又はそれらの関係など、それらが発明創造において果たした機能又は効果により限定された技術的特徴」と定義付けています。ただし、「当業者が請求項を読むだけで上述の機能又は効果を実現できる具体的な実施形態を直接且つ明確に特定できる」場合は「機能的特徴」から明確に排除されています。
(ii) 侵害認定について
 本解釈の第8条第2項において、機能的特徴の侵害認定についての明確な規則が確立されました。
(1) 特許明細書及び図面に記載された前項の機能又は効果を実現するために不可欠な技術的特徴が、被疑侵害品の技術的特徴との比較対象となります。
(2) 機能的特徴の均等判断は「基本的に同一の手段」、「同一の機能」、「同一の効果」を必要とします。
(3) 機能的特徴の均等判断のタイミングを「被疑侵害行為の発生時」と定めました。これは一般的な特徴の均等判断のタイミングと一致しています。

2. 間接侵害の定義と構成要件について
 特許間接侵害は中国の特許実務上のホットトピックの一つであり、長年、特許間接侵害の法律根拠、構成要件、権利行使の手続などについて議論されてきました。本解釈の第21条において初めて特許間接侵害の内容を規定し、実務中の争議の一部を解決しました。
 本解釈により、特許間接侵害は「侵害責任法」の第9条に規定された教唆、幇助による侵害の範囲に取入れられました。教唆者及び幇助者は、直接侵害者と連帯責任を負わなければなりません。また特許間接侵害は「他人が特許権侵害の行為を実施した」こと、即ち「直接的な侵害行為」を必須要件とします。間接侵害は一つの独立した侵害行為とはされていません。
 本解釈において、特許間接侵害を幇助侵害と教唆侵害に分けています。
 本解釈の第21条第1項によれば、幇助侵害の構成要件は、(1)特許権者の許可を得ずに、業として特許を実施するための専用の材料、設備、部品、中間物などを他人に提供すること;(2)他人が特許侵害行為を実施したこと;(3)幇助者は、関連製品が特許を実施するための専用の材料、設備、部品、中間物などであることを知っていること、という要件を含みます。
 本解釈の第21条第2項によれば、教唆侵害の構成要件は、(1)特許権者の許可を得ずに、業として他人による特許権侵害行為の実施を積極的に誘導したこと;(2)他人が特許侵害行為を実施したこと;(3)教唆者は、関連製品、方法が特許権を受けたことを知っていること、という要件を含みます。
 本解釈において、特許間接侵害の主観要件を限定しました。幇助侵害については、知っている内容が、特許の存在及び「関連製品が特許を実施するための専用の材料、設備、部品、中間物などである」ことです。教唆侵害については、知っている内容が「関連製品、方法が特許権を受けた」ことです。

3. 特許侵害の賠償金額における立証妨害制度
 特許法第65条第1項によれば、侵害による特許権者の損失を確定することが困難である場合、権利侵害による侵害者の取得利益に基づいて特許侵害賠償金額を確定できます。しかし、権利侵害による侵害者の取得利益に関する証拠は、通常、侵害者に所持されていて、かつ、中国の司法実務においてアメリカのDiscovery制度がないため、権利者は侵害による侵害者の取得利益を証明することが極めて困難です。本解釈の第27条は、特許侵害賠償における立証妨害制度を定めました。本条により、権利者は「侵害者の権利侵害による利益の初歩的証拠」さえ提出できれば、立証責任が侵害者に転換されることになり、賠償金額に対する権利者の立証責任は大幅に低減されます。これまで人民法院は権利者の主張及び提出された証拠を参考としながら、賠償金額を判定するだけでありました。本条により人民法院は権利者の主張と提出された証拠に基づいて侵害による侵害者の取得利益を直接認定することができます。

[情報元]中国専利代理(香港)有限公司 Newsletter 2016 Issue 2
[担当]深見特許事務所 小田 晃寛