コモンセンス(常識)によって、不足する重要なクレーム限定(Missing Claim Limitation)を補うことはできない
CAFCは、自明性の判断において、不足するクレーム限定(Missing Claim Limitation)が発明の主題において重要な役割を果たす場合、「常識」を用いてこれを補うことは許容されない旨の見解を示しました(Arendi SARL v. Apple Inc., et al., Case No. 15-2073 (Fed. Cir., Aug. 10, 2016))。
(1)背景
Arendi社(以下、原告という)は、Apple社、Google社等(以下、被告という)を、自社の特許権を侵害しているとして提訴しました。原告の有する特許権は、(i)「特定の情報」を文書等から検知し、(ii)文書中から検知された当該「特定の情報」と、外部のデータソースに保存されている「特定の情報」とを照らし合わせる、という発明に係るものです。
被告は、当事者系レビュー(IPR)を請求し、USPTOは、一つの先行文献をもとに、原告が有する特許権の自明性についてのレビューを行ないました。当該先行文献には、(i)文書等から電話番号を検知し、(ii)当該電話番号を外部のデータベースに保存すること、が開示されていました。しかしながら、「データベースに保存された電話番号を用い、何らかの検索を行なうこと」については開示されていませんでした。
被告は、電話番号の重複した登録を回避するために、データベース内の電話番号を検索することは「常識」であると主張しました。結果として、USPTO審判部は係る主張を認め、原告の有する特許権は特許性を有さないものと判断しました。原告はその後CAFCに提訴しました。
(2)CAFCの見解
CAFCは、「文書から検知された特定の情報を用いて、外部のデータソースを検索すること」は発明において重要な構成要素であると認定した上で、Perfect Web事件および、Hear-Wear事件を参酌して、以下の見解を示しました。
Perfect Web事件において、不足するクレーム限定に「常識」を適用しましたが、Perfect Web事件における不足するクレーム限定は極めて単純なものであるため、例外であると認定しました。その上で、Hear-Wear事件において、「常識」を用いて不足するクレーム限定を補うことを拒絶した認定に基づいた判断を行ないました。具体的には、証拠によるサポート等が無い限り、「常識」を用いて「文書から検知された特定の情報を用いて、外部のデータソースを検索すること」との限定を補うことはできないと結論付け、事件をUSPTO審判部に差し戻しました。
(3)考察
不足するクレーム限定(相違点)に「常識」が適用されて引例から自明であるという拒絶理由が通知された際には、(i)当該限定が、発明の重要な構成要素であるか、および、(ii)当該「常識」が、証拠等により十分にサポートされているか、を十分検討することが重要であると考えられます。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol. 19, No. 9
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛