拡大審判廷が部分優先の有効性を認める
欧州特許出願(または欧州特許)において、数年来、いわゆる”poisonous divisionals”または”poisonous priority”と呼ばれる問題が提起されていました。これは、優先権書類の開示を一般化した特徴を含んでおり全体として優先権の利益を得られない特許出願(または特許)が、部分優先が認められないことによって、当該特許出願から分割された分割出願が公開されることで自己衝突が生じて新規性を喪失する、という問題でした。
この問題は、T557/13 事件において、拡大審判廷に付託されました(G1/15)。付託された質問1 の内容は、「欧州特許出願または欧州特許のクレームが、1 つまたは複数の包括的な表現または他の表現によって選択的な発明主題を含む場合(generic”OR”-claim)、優先権書類に、直接的に、または尐なくとも黙示的に、かつ一義的に、(実施可能な態様で)初めて開示された選択的な発明主題に関するクレームが、欧州特許条約の下、部分優先権が否定されるのか?」というものでした。
2016 年11 月29 日、拡大審判廷は、「部分優先権は否定されない。この点で他の実体的な条件または制限が課されることはない」と、この付託質問1 に対して否定的な決定を下しました。
2017 年2 月2 日付で、審決の全文が公開されました。審決では、generic “OR”-claimに含まれる発明主題が部分優先の利益を享受できるかのテストとして、優先権書類に開示された発明主題を決定する第1 のステップと、優先権書類に開示された発明主題が優先権を主張する出願のクレームに含まれているかを判断する第2 のステップとが示されました。第2 のステップが肯定的(Yes)である場合、優先権を主張する出願のクレームは、事実上、概念的に、優先権書類に直接的かつ一義的に開示された発明に対応する第1 の部分と、優先権の利益は享受できないがそれ自身が優先権を生じさせる第2 の部分とに分けられることになります。
今回の部分優先の有効性を認める審決によって、分割の子出願で優先権を認められる開示内容は、親出願においても同じく優先権が認められることになりますので、子出願が親出願に対してEPC54 条(3)に規定される技術水準を構成することはありません。その結果、欧州における”poisonous divisionals”問題は解消することになります。
[情報元]欧州特許庁HP、JA Kemp Breaking News, November 30, 2016
[担当]深見特許事務所 村野 淳