海外において生じた逸失利益を、米国のサプライヤーから回収することは許容されるとの米国最高裁判決
米国最高裁は2018年6月22日、WesternGeco LLC(以下、「原告」と記載します)の訴えを認め、ION Geophysical Corp.(以下、「被告」と記載します)に対して、特許発明が米国外で実施されたことにより生じた逸失利益の賠償を認める判決を言い渡しました。
1.背景
原告は「海底を調査するためのシステム」を開発し、特許権を取得しました。原告は特許発明をガス会社等の求めに応じて自ら実施しており、第三者にライセンスを付与していませんでした。
被告は、2007年から原告が有する特許発明である「海底を調査するためのシステム」を構成するための部品の製造を米国内で開始しました。部品は被告により米国外へと輸出され、米国外で部品を組込むことにより、原告の特許発明に係る「海底を調査するためのシステム」と区別がつかない競合製品が製造されていました。
原告は、被告の行為は35 U.S.C.§271(f)(1)および(f)(2)に定める特許権侵害に該当するとし、連邦地方裁判所に提訴しました。地裁は被告による35 U.S.C.§271(f)(1) および(f)(2)に定める特許権侵害を認定し、損害賠償を規定する35 U.S.C.§284に基づき、被告に対して9,340万ドルの逸失利益および1,250万ドルのロイヤルティを支払うよう命じました。被告はCAFCに控訴しました。
2.CAFCの判断
CAFCは地裁判決を一部覆し、U.S.C.§271(f)(2)に基づく海外での特許権侵害を理由とする逸失利益の賠償は、35 U.S.C.§284では認められないとの判断を下しました。原告は、最高裁に上訴しました。
3.最高裁の判断
(1)最高裁の認定
最高裁においてCAFCの判断の妥当性について検討されました。
最高裁は、連邦法の適用管轄は米国内のみであるとする推定は、原告への逸失利益の補填を禁じていないと判断し、CAFCの判決を覆しました。すなわち、U.S.C.§271(f)(2)およびU.S.C.§284によれば、被告の顧客による特許発明の海外での使用で生じた逸失利益が補填される権利が原告には認められていると判断しました。
トーマス判事によって書かれた多数意見は、法律が米国の領土管轄権内でのみ適用されるという一般的な前提を認めました。しかしながら、この前提は2つのステップにより反駁可能であるとしました。
第1ステップは、米国の領土管轄権外で行われたという認定に対して反論可能であるか否かを判断します。第2ステップは、第1ステップに対する答が反論不可能の場合に適用されます。第2ステップは、焦点となる行為に「法律の国内適用」が含まれるかどうか、および「法律の国内適用」に関連する行為が、「米国内」で生じたかどうかを判断するものです。
裁判所は、被告の行為はU.S.C.§271(f)(2)に基づく特許権侵害に該当し、「法律の国内適用」が含まれると認定しました。そして、U.S.C.§271(f)(2)は、「特許発明を構成する部品を米国外で組立てられることを意図して、米国内もしくは米国外に供給するという行為」を侵害と見做すものです。そのため、「法律の国内適用」に関連する行為が、「米国内」で生じていると認定し、被告は原告に対して35 U.S.C.§284に基づき逸失利益を賠償する責務を有すると認定しました。
(2)反対派の主張
Gorsuch判事らは、当該判決により、米国の特許所有者が米国の裁判所を利用して独占権を外国市場に拡大することを容認することになるという反対意見を示しています。
Gorsuch判事らは更に、「他国が自国の特許法および裁判所に基づく主張をして米国経済を動かそうとする状況を招きかねない」という懸念を示しています。
かかる反対意見に対してトーマス判事ら多数派は、U.S.C.§271(f)(2)に基づく特許権侵害が認定されれば、海外で逸失した利益は回復されるべきであり、特許権者は侵害を被らなかったときと同等の状況となって然るべきである、と反論しています。
[情報元]McDermott Will & Emery Thought Leadership Publications, June 26, 2018
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛