方法クレームの侵害は、未だすべてのステップの実行を必要とする
CAFC は、分割侵害の争点に対処することによって、特許権者による侵害の主張を退ける地裁判決を支持しました。クレームのすべてのステップが被告により直接に、あるいは被告に起因して実行されているわけではないというのがその理由です。(Medgraph,INC. v. Medtronic, INC)
問題となったクレームは、患者の診断および治療を改善及び促進するシステムおよび方法に関するものです。クレームは、装置を用いて患者を医学的に測定するステップと、測定の完了後に装置が身体から取外されることを確保するステップと、測定データをコンピュータにアップロードするステップと、データを中央の記憶装置に送信するステップとを備えます。医者は、中央の記憶装置にアクセスすることができます。
Medtronic は、糖尿病の測定のための様々なシステムを製造し、販売しています。このシステムでは、患者は、データ(血糖の測定値など)をMedtronic の中央コンピュータサーバにアップロードします。患者は、遠隔伝送によって、医者とデータを共有することもできます。
クレームのいくつかのステップは、Medtronic ではなく、患者と医者によって実行されますので、いわゆる分割侵害の問題が発生します。分割侵害に関して、CAFC は、2015年に大法廷判決を下しました(Akamai)。この判決は、他者の行為が被告の侵害に帰せられるときを明確化しました。CAFC は、被告に起因して実行されるとは、次の2 つの場合のいずれかであると判示しました:(1)第三者が被告の命令または支配(directionor control)に基づいて、クレームのステップを実施する場合、(たとえば、契約上の義務または代理関係が存在するとき)、または(2)被告が、特許方法の1 つまたは複数のステップの実施への参加を条件づけ、またはそれらのステップの実行による利益の享受を条件づけ、その実行の方法またはタイミングを規定する場合。
この基準をMedtronic のシステムに適用して、CAFC は、患者および医者によって実行されたステップは、Medtronic に起因したといえないという理由によって、Medtronicは、クレームのすべてのステップを実行したのではないと判示しました。Medtronic は、ユーザがクレームのステップを実行するように指導します(instruct)が、これだけでは、ユーザによるクレームのステップの実行が、Medtronic に起因したというのには十分ではありません。その理由は、Medtronic は、クレームのステップを実行することを条件づけていないからです。たとえば、Medtronic は、患者が、測定の後、測定装置を取外さなくても、被告システムへのアクセスを拒否したりしません。実際のところ、Medtronic の患者は、血糖値のモニタリング装置を身体から取外さずに、利益を享受しています。また、Medtronic は、ユーザが、医者が遠隔から測定データにアクセスできるように、測定データを同期させるステップを実行することを選択しない場合に、ユーザの利益を拒否したりはしません。同期させる代わりに、患者は、測定データのプリントアウトを医者のオフィスに持参し、または医者のオフィスで患者の装置からローカルにデータを取出すことができます。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol.20, No.1
[担当]深見特許事務所 西川 信行