アディダス3本ラインについての登録無効決定の維持審決
2013 年12 月18 日、adidas AG(アディダス)は、下記の図形商標を、「本商標は同じ幅の3 本の平行線が等間隔に配されてなるもので、あらゆる向きで商品に付される。」と記載して欧州連合商標(EUTM)として出願しました。5 ヶ月後(異議期間の3 ヶ月を含む)に本商標は登録され、審査官から識別力獲得についての証拠を要求されることはありませんでした。
2014 年12 月16 日、Shoe Branding Europe BVBA(SBE)は、識別力欠如を理由として本登録の取消を請求し、商標のタイプ(図形商標)と位置商標を示すような記載との矛盾も主張しました。
アディダスは、収益の多いスポンサーが著名なスポーツ選手やフットボールチームを取り上げるなどの12,000 頁に及ぶ使用証拠や認知度の証拠を提出し、スペインやドイツにおいてスポーツウェアを購入する需要者の60%以上が本商標を出所表示機能として認識している事実など、EU 各国での市場調査の証拠が獲得した識別性の主張を裏付けていると主張しました。
しかし、取消部門は本商標を無効としました。商標の記載は商品におけるストライプの配置を決めていないと認め、本商標は位置商標としてでなく図形商標として登録されたことから、保護の範囲は出願された図形表示に厳密に限られると判断しました。よって、アディダスが示すべき商標の使用は、出願商標そのものの使用でなければなりませんでした。
需要者はおそらく本商標を単なる装飾と捉えており、本商標は顕著性を有しないものでした。提出された使用証拠について、EUIPO は、「紛争中のEUTM の3 本ラインと似た形がフットボールシャツやブーツに見られることは、5 億人の域内市場においてアディダスの商標として認識されていることの根拠とはならない。」と述べ、提出された使用証拠は「微々たる量」と判断しました。
アディダスは決定に対し不服申立を行ない、取消部門が証拠を十分に評価しなかったこと、商標の記載は図形商標と矛盾していないこと、3 本ラインと一緒に使用される他のアディダスの商標の存在が識別力獲得の障害となることはないこと、判例法は全てのEU 加盟国で獲得した識別性を示す必要はないと確認したことを主張しました。
不服審査委員会は、商標の記載は図形商標と致命的に矛盾するものでなく、本商標が位置商標であることを必ずしも暗示するものではないと説示する一方で、特定の配置での商標の使用が登録商標の正当な使用と認められるかどうかは別問題であると指摘し
ました。本商標は識別力を獲得しているとのアディダスの主張について、不服審査委員会は、アディダスが提出した証拠の多くは異なる長さ及び異なる方向の3 本の平行線からなる別の商標に関するものであると結論付けました。しかし、証拠を採用しなかった理由はこれだけではなく、使用態様が登録された形と異なるかどうかについて検討される必要がありました。この点、不服審査委員会は、登録は極めてシンプルで、白地に高さがその幅の約5 倍ある垂直方向に平行に配された細い3 本の黒いストライプであって、これらの特徴を大きく逸脱する商標は本商標の使用の証拠を構成するものではないと説示しました。ADIDAS の文字と一緒に使用されるロゴにおける本商標の使用も役には立たないと判断しました。獲得した識別性の地理的範囲についてEU を横断して示さねばならないかどうかについては、不服審査委員会は指針を示しませんでした。
概して、提出された証拠の多くが見当違いで、問題の3 本ストライプの商標についてのものでないとして、不服審査委員会は提出証拠に対し批判的でした。よって、不服申立は退けられました。
アディダスは、高等裁判所に提訴したようです。
[情報元]D Young & Co Trade Marks, July 13, 2017
[担当]深見特許事務所 中島 由賀