韓国大法院、出願経過禁反言の原則を適用する際の考慮事項を判示
韓国大法院は、判決(2017.4.26 宣告2014Hu638)を通じて、出願経過禁反言の原則の適用に関連して、特定の構成が権利範囲から特許請求の範囲から意識的に除かれたと判断するにあたって考慮すべき事項を詳細に判示しました。
1.本件特許および出願経過
本件特許の請求項1の発明は、鋼板包装用台座であって、鉄板を下面が上面よりも広い(以下、「下広上狭」ともいう)中空台形状の断面形状を有するように折り曲げ、始端部と終端部が断面の上部で離れた状態で作製され、一定間隔を置いて水平状態で配設された複数の下部台座と、鉄板を下面が上面よりも広い(以下、下広上狭状)中空台形状の断面形状を有するように折り曲げ、始端部と終端部が断面の上部で離れた状態で作製され、前記下部台座の上面に一定の間隔を置いて交差するように水平状態で配設された複数の上部台座と、を備えます。
本件特許において、下部台座および上部台座について、上記「下面が上面よりも広い」との限定事項が、出願経過中の局指令に対する応答時に補正により追加されました。
2.消極的権利範囲の確認審判における特許審判院の審決
本件特許の特許権者の競争会社であるA社は、特許権者を相手取って、自社製品(以下、「確認対象発明」という)が本件特許の請求項1の権利範囲に属さないとの判断を求める消極的権利範囲の確認審判を請求しました。
ここで、本件特許発明とA社の確認対象発明との主な相違点は、下部台座の断面形状に関して、前者が下面が上面よりも広い下広上狭であるのに対して後者が上面が下面よりも広い上広下狭である点と、上部台座の鉄板の始端部と終端部に関して、前者が上部台座の上部に形成されるのに対して後者が上部台座の下部に形成される点です。
特許審判院は、下部台座の下広上狭および上広下狭は当業者により通常採用される程度の変更であり、A社の下部台座は本件特許の下部台座と均等範囲にあるとして、A社の確認対象発明は本件特許の権利範囲に属するものと審決しました。
3.特許法院の判決
控訴審である特許法院は、A社の確認対象発明は、出願経過禁反言の原則に基づき出願人により出願経過中に意識的に除かれたものとして、特許審判院の審決を取消す判決をしました。
4.大法院の判決
上告審である大法院は、特許法院の判断を容認しながら、出願経過禁反言の原則が適用される場面について明確に判示しました。すなわち、(ⅰ)出願過程で特許請求の範囲の減縮が行なわれたという事情のみで減縮前の構成と減縮後の構成とを比較し、その間に存在する全ての構成が特許請求の範囲から除かれたと断定するわけではなく、(ⅱ)出願過程で明らかになった諸事情を総合的に勘案するとき、出願人がある構成を権利範囲から除外しようとする意図があると見受けられる場合これを認定することができ、このような法理は、特許請求の範囲の減縮なしに意見書の提出等による意見陳述があった場合でも同様に認められる旨を判示しました。
上記法理に基づいて、大法院は、本事件について以下のように判断しました。
(1)A社の下部台座は、特許請求の範囲の減縮前後の構成を比較すると、その間に存在する構成ではあるものの、局指令における比較対象発明に開示されている構成ではないため、出願人が比較対象発明を回避する意図をもって請求項に対する減縮補正を行ないながら、権利範囲から確認対象発明の当該構成も排除しようと意図したとは認められない。しかし、本件特許発明の詳細な説明には、下広上狭の構造の効果が記載されており、本事件に対する補正は、特許請求の範囲を詳細な説明と整合するように限定したものである点等に鑑みると、出願人は補正により確認対象発明の下部台座の構成を権利範囲から除外しようとする意図があると見られる。
(2)上部台座の鉄板の始端部と終端部の位置に関連して、出願人は、意見書の提出を通じて、上部台座の上方に鉄板の始端部と終端部が位置すると、上部台座と下部台座との結合面積が広がって結合力が高くなる旨を主張して、局指令における比較対象発明と本件発明を差別化した。したがって、出願人は、確認対象発明の上部台座の構成を本件特許発明の権利範囲から除いたと判断される。
[情報元]FirstLaw IP News_June 2017
[担当]深見特許事務所 小寺 覚