阻害要因を主張するためには、先行文献には発明を非難する記載、 当該発明についての不信に関する記載、または当該発明に反対する記載が されていることを要する
CAFC は、米国特許第8,156,096 号は、2 つの引用文献に基づき自明であるというPTAB の認定を支持しました(Meiresonne v. Google Inc., Case No. 16-1755 (Fed. Cir.,Mar. 7, 2017))。
(1)背景
Google 社(以下、原告という)は、当事者系再審査(inter partes reexamination)を請求し、個人発明家であるMeiresonne(以下、被告という)が特許権者である、「供給者識別、およびロケータシステムおよび方法」を規定する米国特許第8,156,096 号は、2 つの公知文献に基づき自明であると主張しました。PTAB は、原告の主張を支持し、当該2 つの公知文献には、当業者にとって阻害要因として認識される記載は無いと認定しました。被告はその後CAFC に提訴しました。
(2)CAFC における被告の主張
米国特許第8,156,096 号には、「説明文を含むロールオーバー表示領域」を備える発明が規定されています(以下、本発明と記載します)。被告は、2 つの公知文献には「説明文は、粗略なものである」という記載があるため、当該2 つの公知文献は「説明文」の使用を批判していると主張しました。加えて、これら2 つの公知文献は「説明文は、粗略なものである」という理由から、「説明文」を用いず「グラフィカルなプレビュー」を用いていると主張しました。更には「『説明文』は粗略なものであり、信頼できないもの」であるため、「説明文」を読むのではなく「実際のウェブサイト」を閲覧することを推奨する旨の記載があるため、これら2 つの公知文献は、「説明文」を備える本発明に当業者が想到することを阻害するものであるとして、阻害要因の存在を主張しました。
(3)CAFC の判断
CAFC は、被告の主張は誤りであるとして、阻害要因の存在を否定しました。CAFCは、これら2 つの公知文献の記載は、単に一般的な傾向を示しているに過ぎず、2 つの公知文献において「説明文」を備えることを非難する記載や、「説明文」を備えることについての不信に関する記載や、「説明文」を備えることを明確に反対する記載は無いと認定しました。またCAFC は、2 つの公知文献において「『説明文』は、粗略なものである」という記載が直ちに、「説明文」を備える本発明に当業者が想到することを阻害するものとはならないと認定しました。CAFC は、2 つの公知文献における「説明文は、粗略なものである」という記載は、「説明文の情報は正確であるが、説明文に加えて何らかの補助的な他の要素を必要とし得ること」を意味するとし、2 つの公知文献は「説明文」そのものを他の要素に置き換えることを要求するものでは無いと認定しました。
同様に、「『説明文』は粗略なものであり、信頼できないもの」という記載について、当該記載をもって2 つの公知文献が「説明文」を備えることを放棄しているのではなく、「説明文」を補完するための他の要素の必要性が記載されているものであると認定しました。
CAFC は、阻害要因の主張のためには、2 つの公知文献において、「説明文」を備えることにより、インターネットを閲覧しているユーザに対して、「ウェブサイトに関する情報を伝達することそのもの」が阻害される懸念があるというような明確な非難が記載されていることを要すると述べ、阻害要因の存在を否定しました。
[情報元]McDermott Will & Emery IP Update Vol. 20, No. 4
[担当]深見特許事務所 池田 隆寛