「進歩性」に関する改訂特許審査基準が2017年7月1日より施行
台湾では、特許出願の審査において、進歩性の判断は極めて重要です。しかし、審査官が引例の内容をモザイクのように寄せ集めて任意に組合せることで、「後知恵による判断」をした事例がよくあります。こうした状況を改善するとともに、審査の質の一層の向上を図るため、智慧財産局(台湾の知的財産権主務官庁。日本の特許庁に相当)は2017年4月に進歩性判断に関する改訂特許審査基準を公表しました。この改訂特許審査基準は2017年7月1日から施行されました。今回の改訂ポイントは以下のとおりです。
(1)PHOSITA(Person Having Ordinary Skilled In The Art)に関する定義の補足
当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という)とは、一般に「個人」であることを指します。しかし、いくつかの場合においては、例えば、多分野にわたる出願又は技術チームによって研究開発を進めるという出願の特性を考慮した場合、当業者とは、「個人」というよりも「チーム」であることを指すことが、より適切と考えられます。
(2)関連する従来技術の範囲の説明
進歩性を審査する時に引用される従来技術は、通常、発明と同じ又は関連する技術分野に属します。改訂後の審査基準では、さらに「引用された従来技術が同じでない、又は関連しない技術分野に属するが、発明に共通する技術的特徴を備える場合、当該従来技術も関連する従来技術に属する」という旨が説明されています。
(3)「容易に完成できる(自明性)」に関する定義の修正
現行の特許審査基準における「1件又は複数の引例に開示されている従来技術に基づいて、出願時の通常の知識を参酌して、当該従来技術を組合せ、変更、置換又は転用などの結合方法で、特許出願に係る発明を完成することができる場合、当該発明は全体として自明であるものに属し、容易に完成できる発明と認定しなければならない」という記載が削除されました。その代わりに、「関連する従来技術に基づいて、論理分析、推理又はルーチンワーク、実験を行なうことで当該発明を予期(expect)できる場合、当該発明は自明であるものに属し、容易に完成できるものと認定しなければならない」という旨が説明されています。
(4)「主引例」の選定の増加
発明とそれに関連する従来技術の開示内容との間の相違点を確認する時、関連する従来技術から発明との相違点の対比に適した一つの従来技術を「主引例」として選定しなければならないが、当該主引例は発明と同じ技術分野に属するものであり、又は発明が解決しようとする課題と実質的に同一である可能性を有するものです。また、主引例は単一の従来技術でなければならず、複数の従来技術の組合せを主引例としてはなりません。
(5)「容易に完成できる」の判断ステップの改訂
この判断ステップでは、まず、関連する従来技術と出願時の通常の知識とを「明らかに組合せることができる」か否かを判断します。明らかに組合せることができると判断された場合、さらに「進歩性欠如の論理づけができるかどうか」を判断します。この時、「阻害要因」及び発明の「有利な効果」をさらに考慮しなければなりません。その結果、適切かつ合理的な論理づけができる場合、当該発明は容易に完成することができるため、その発明は進歩性を備えておらず、このような論理づけができない場合、その発明は進歩性を備えると判断することができます。
また、審査基準では、「阻害要因」とは、ある関連する従来技術にその他の関連する従来技術との組合せを排除する教示が存在していることを示唆していることであると説明されており、また、阻害要因に関する例も追加されています。
改訂後の特許審査基準の施行は、発明の進歩性に関する審査の質の改善に大いに寄与することが期待できます。
[情報元]Lee and Li Bulletin: October, 2017
[担当]深見特許事務所 杉本 さち子