(英国)最高裁が均等論を認める判決を下す
Actavis v Eli Lilly([2017] UKSC 48)事件において、英国の最高裁判所は、Lilly社の抗癌剤ペメトレキセドに対するActavis 社のジェネリック医薬品が、Lilly 社の特許(EP 1313508)を直接侵害する、という画期的な判決を下しました。本事件は、英国特許法に均等論および包袋禁反言の法理を導入するものであり、英国の特許によって与えられる保護の範囲の評価方法を変えることでしょう。
経緯
Lilly 社の本件特許出願のクレームは、出願当初、ペメトレキセドとビタミンB12 とをその作用機序に関して特定するものでしたが、開示要件違反および明確性欠如を理由として拒絶されました。Lilly 社は、ペメトレキセドを一般的に規定する補正をしましたが、出願書類にはペメトレキセドを二ナトリウム塩としてのみ開示しており補正は新規事項の追加に該当するとして拒絶されました。Lilly 社はペメトレキセド二ナトリウムを規定するようにクレームを限定し、特許されました。
Actavis 社は、遊離酸または異なる塩の形でのペメトレキセドが特許を侵害しないことの確認を求めました。Lilly 社は、特許によって与えられる保護の範囲が、少なくとも均等論によってペメトレキセドの他の塩類まで及ぶと主張しました。Activas 社は、審査経過中になされた補正により生じた禁反言のためLilly 社の主張は成り立たないと反論しました。
最高裁の判断
最高裁判所は、EPC69 条の解釈に関する議定書の第2 条は、クレームの文言の解釈と保護の範囲との間には少なくとも潜在的に相違があり、均等論を考慮に入れなければならないことを意味している、と認定しました。最高裁は、均等かどうかを決定するために検討されるべき、以下の2 つの問題を認定しました。
1.変形(variant)は、通常の解釈の問題として、いずれかのクレームを侵害するか。
2.1.において侵害でなくとも、それでもなお変形は、特許発明との相違が微差であるため、侵害するか。
最高裁は、このようなアプローチが議定書の第2 条に従ったものである、としました。
これにより、英国法に、一般的な均等論の法理が導入されたと思われます。
問題2.について、最高裁は、Improver v Remington([1990] FSR 181)事件において特許裁判所が公式化した3 つの質問を、以下の通りに改定しました。
1.文言上特許のクレームの範囲内になくとも、変形は、特許発明と実質的に同一の結果を実質的に同一の方法で達成することができるか。No であれば非侵害、Yes であれば質問2.へ。
2.変形が特許発明と実質的に同一の結果を達成することを知る当業者が優先日に特許明細書を読んだ場合に、変形は特許発明と実質的に同一の方法によって特許発明と実質的に同一の結果を達成するということが、自明であるか。No であれば非侵害、Yesであれば質問3.へ。
3.特許明細書を読んだ当業者は、クレームの文言との厳密な一致が発明の必須の要件であると特許権者が意図している、と結論付けるか。Yes であれば非侵害、No であれば変形は特許を侵害する。
最高裁は、質問1.,2.にYes、質問3.にNo と回答し、Activas 社の製品は、上記の問題2.の下で、直接特許を侵害すると裁決しました。
最高裁判所はまた、クレームによって与えられる保護の範囲を解釈する際に出願経過を参酌するのは、以下の場合に限られると認定しました。
a.争点が、特許明細書およびクレーム自身からは不明確であり、出願経過がその争点を明白に解決している、または、
b.出願経過を無視することが公共の利益に反する。
これにより、限られた形での包袋禁反言の法理が英国法に導入されることになります。
[情報元] D Young & Co. Patent Newsletter no. 60
[担当]深見特許事務所 村野 淳