韓国特許法改正について/韓国デザイン保護法改正について
韓国特許法、韓国実用新案法、および韓国デザイン保護法の改正法が、2009年7月1日に施行され、また、2009年9月1日から、優先審査制度の合理的整備および申請要件の明確化が適用されておりますので、下記の如くご報告申し上げます。
1.改正の概要は、以下のとおりです。
<韓国特許・実用新案法の改正事項>
(1) 特許出願明細書・図面の補正の制限緩和(特第47条、実第11条で準用)
⇒2009年7月1日以降の補正に適用
(2) 前置審査廃止・再審査請求制度導入(特第67条の2新設、実第15条で準用)
⇒2009年7月1日以降の韓国特許出願に適用
(3) 分割出願可能時期の拡大(特第52条、実第11条で準用)
⇒2009年7月1日以降の韓国特許出願に適用
(4) 審査官による職権補正制度導入(特第66条の2新設、実第15条で準用)
⇒2009年7月1日以降の特許査定案件に適用
(5) 特許料倍額追納の段階化(特第81条、特第81条の2、実第20条で準用)
⇒2009年7月1日以降に特許料を追納する案件に適用
(6) 優先審査制度の合理的整備および申請要件の明確化
⇒2009年9月1日以降の優先審査申請案件に適用
<韓国デザイン保護法の改正事項>
(1) 再審査請求制度導入(デ第27条の2新設)
⇒2009年7月1日以降の韓国デザイン登録出願に適用
(2) 登録料倍額追納の段階化(デ第33条第2項)
⇒2009年7月1日以降に登録料を追納する案件に適用
ここに含まれる情報は一般的な参考情報であり、法的助言として使用されることを意図していません。従って、IP案件に関しては弁理士にご相談下さい。
2.改正事項の詳細(新旧条文対照とコメント)
(1) 特許出願明細書・図面の補正の制限緩和(特第47条、実第11条で準用)
⇒2009年7月1日以降の補正に適用
韓国特許法(改正前) | 韓国特許法(改正後) | 日本国特許法 |
第47 条(特許出願の補正) (3)(1)(ⅱ )及び(ⅲ )に基づく補正のうち特許請求の範囲に対する補正は、次の各号の1に該当する範囲に限らなければならず、(ⅲ)に基づく補正をする場合は、審査官が拒絶理由通知により指摘した範囲に限らなければならない。 (ⅰ)特許請求の範囲の減縮 (ⅱ)間違った記載の訂正、又は (ⅲ)不明瞭な記載の明確化 (4)(1)(ⅱ )及び(ⅲ )に定める期間内にする補正は,次の要件を満たさなければならない。 (ⅰ)明細書又は図面の補正が,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更しないこと,及び(ⅱ )補正後の特許請求の範囲に記載された事項が,特許出願時に特許を受けることができるものであったこと |
第47 条(特許出願の補正) (4)削除 |
第17 条の2 (5) 前二項に規定するもののほか、第1 項第1 号、第3 号及び第4 号に掲げる場合(同項第1 号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第50 条の2 の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。 ①第36 条第5 項に規定する請求項の削除 ②特許請求の範囲の減縮(*1) ③ 誤記の訂正 ④ 明りようでない記載の釈明( 拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。) (6) 第126 条第5 項の規定は、前項第2 号の場合に準用する。(*1)第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。) |
<コメント>
1.最後の拒絶理由通知後の補正の制限が緩和され、韓国特許法第47 条(3)(ⅳ)を充足する補正が認められるようになりました。
2.たとえば、前回の補正事項が新規事項追加違反により最後の拒絶理由通知が発行された場合、その補正前の特許請求の範囲に戻る補正、または戻りながら特許請求の範囲に対して韓国特許法第47 条(3)(ⅰ)~(ⅲ)を目的とする補正が可能となりました(韓国特許法第47 条(3)(ⅳ))。
3.日本の特許法では、上記の補正を積極的に認める規定はありません(日本国特許法第17条の2第5項参照)。
(2) 前置審査廃止・再審査請求制度導入(特67条の2新設、実15条で準用)
⇒2009年7月1日以降の韓国特許出願に適用
韓国特許法(改正前) | 韓国特許法(改正後) | 日本国特許法 |
審査前置に関する 特173 条-特175 条は削除 |
(新設) 特67 条の2(再審査の請求)(1)特許出願人は、その特許出願について拒絶決定の謄本の送達を受けた日から30 日(第15 条(1)により第132 条の3 による期間が延長された場合、その延長された期間をいう。)以内にその特許出願の特許出願書に添付した明細書又は図面を補正し該当特許出願に関し再審査(以下「再審査」という。)を請求することができる。ただし、再審査による特許拒絶決定があり、又は第132 条の3による審判請求がある場合には、この限りでない。 (2)(1)による再審査の請求がある場合、該当特許出願に対し従前になされた特許拒絶決定は取り消されたものとみなす。 (3)(1)による再審査の請求は取り下げることができない。 |
(参考) 第162 条 特許庁長官は、拒絶査定不服審判の請求があつた場合において、その請求と同時にその請求に係る特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正があつたときは、審査官にその請求を審査させなければならない。 |
<コメント>
1.審査前置制度(韓国特許法特173 条-特175 条)は廃止され、新たに再審査請求制度(韓国特許法第67 条の2)が導入されました。拒絶決定不服審判を請求しなくても明細書等の補正が可能となりました。
2.再審査(韓国特許法特67 条の2)を請求する時(韓国特許法特47 条(1)(ⅲ))に明細書等の補正(補正の制限有(韓国特許法47 条(1)(ⅲ),(2),(3),(4)))を行なうことで、補正後の請求項に係る発明に対して、再び審査官による審査を受けることができます。再審査請求理由書または意見書のような書類の提出は求められていません。
3.再審査による特許拒絶決定には、再審査の請求を行なうことはできません(韓国特許法第67 条の2(1)但書)。
4.また、拒絶決定不服審判(韓国特許法第132 条の3)の請求を行なった場合も、再審査の請求を行なうことはできません(韓国特許法第特67 条の2(1)但書)。
5.再審査の請求を行なうことで、当該特許出願に対し従前になされた特許拒絶決定は取り消されたものとみなされます(韓国特許法特67 条の2(2))。
6.再審査において特許拒絶決定された場合、当該特許拒絶決定に対して拒絶決定不服審判(韓国特許法特132 条の3)を請求することができます。この場合、明細書等の補正はできません(旧韓国特許法特第47 条(1)(ⅲ)改正)。
7.再審査請求時の庁費用は、1件10万ウォンに請求項1項当り1 万ウォンを加算した金額です。ちなみに、拒絶決定不服審判請求時の庁費用は、1件15万ウォンに請求項1項当り1 万5千ウォンを加算した金額です。
8.韓国デザイン保護法でも同様の改正が行なわれています(デ第27条の2新設)。
(注)再審査請求制度は、2009年7月以降の韓国出願から適用された施行初期段階であるため、まだ具体的な実務が定着していません。将来再審査請求に直面した段階で、再度具体的な費用・手続について確認することをお勧め致します。
(3) 分割出願可能時期の拡大(特52条、実11条で準用)
⇒2009年7月1日以降の韓国特許出願に適用
韓国特許法(改正前) | 韓国特許法(改正後) | 日本国特許法 |
第52 条(分割出願) 第2 項-第4 項(省略) |
第52 条(分割出願) (ⅰ)第47 条(1)により補正をすることができる期間
(ⅱ )特許拒絶決定謄本の送達を受けた後第132 条の3 により審判を請求することができる期間 |
第44 条(特許出願の分割)
①願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。 |
<コメント>
1.改正後の分割の機会は下記のとおりです。
(1)補正をすることができる期間(韓国特許法第47 条(1)(ⅰ))
(2)特許拒絶決定謄本の送達を受けた日から30日以内(韓国特許法第47 条(1)(ⅱ)、同特132 の3)
2.日本の特許法では、特許査定1 後の一定期間にも特許出願を分割することができます
(4) 審査官による職権補正制度の導入(特66条の2新設、実第15条で準用)
⇒2009年7月1日以降の特許査定案件に適用
韓国特許法(改正前) | 韓国特許法(改正後) | 日本国特許法 |
(新設) 第66 条の2(職権による補正等) (1) 審査官は、特許決定をするとき、特許出願書に添付した明細書、図面又は要約書に明白に誤って記載された内容があるときは、職権で、補正(以下「職権補正」という)することができる。 (2)(1)により審査官が職権補正をしようとするときは、第67 条(2)による特許決定の謄本送達とともにその職権補正事項を特許出願人に知らせなければならない。 (3)特許出願人は、職権補正事項の全部または一部を受け入れることができない場合には、第79条(1)により特許料を納付する時までに職権補正事項についての意見書を韓国知財財産局長官に提出しなければならない。 (4)特許出願人が(3)により意見書を提出した場合、該当職権補正事項の全部または一部は、初めからなかったものとみなす。 (5)明白に間違って記載されたものではない事項について職権補正がなされた場合、その職権補正は初めからなかったものとみなす。 |
(参考) 1.拒絶理由には該当しない明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」と言う)の記載不備がある場合で、不備があると判断したときは、以下により対応することができる。他に拒絶理由を発見したときは、他の拒絶理由を通知し、拒絶理由通知の「なお書き」において、明細書等に不備のある箇所を指摘する。他に拒絶理由を発見しないときは、以下のいずれかにより対応することができる。 (1)最初の拒絶理由の通知前においては、代理人に電話連絡し、自発補正による不備の解消を促す。 (2)明細書等を職権訂正する。 (3)方式審査課に連絡し、不備について長官名により手続補正命令を通知するよう依頼する。『特許庁 特許・実用新案「審査ハンドブック」51 明細書等51.01「明細書、特許請求の範囲又は図面に拒絶理由に該当しない記載不備のある案件への対応について」より』 |
<コメント>
1.出願書類に、明白に誤って記載された内容があるときは、審査官が職権で出願書類の補正を行なうことができます。職権により出願書類の補正が行なわれた場合、その補正内容は出願人に通知され、出願人は意見書を提出することができます。
2.日本の特許実務では、特許・実用新案「審査ハンドブック」(特許庁)に職権訂正に関する取り扱いが明記されています。
(5) 特許料倍額追納の段階化(特第81条第2項、特第81条の2第3項、実第20条で準用)
⇒2009年7月1日以降に特許料を追納する案件に適用
韓国特許法(改正前) | 韓国特許法(改正後) | 日本国特許法 |
第81 条(特許料の追加納付等) (1)省略 (2)(1)により特許料を追加納付するときには、納付しなければならない特許料の2 倍の金額を納付しなければならない。 (3)省略 第81 条の2(特許料の補填) (1)省略 (2)省略 (3)(2)により特許料を補填する者は次の各号のいずれか1 つに該当する場合に納付しなかった金額の2 倍の金額を納付しなければならない。 (ⅰ)特許料を第79 条(2)による納付期間を経過して補填する場合 (ⅱ)特許料を第81 条(1)による追加納付期間を経過して補填する場合 |
第81 条(特許料の追加納付等) (1)省略 (2)(1)により特許料を追加納付するときには、納付しなければならない特許料の2 倍の範囲内で知識経済部令で定める金額を納付しなければならない。 (3)省略 第81 条の2(特許料の補填) (1)省略 (2)省略 (3)(2)により特許料を補填する者は次の各号のいずれか1 つに該当する場合に納付しなかった金額の2 倍の範囲内で知識経済部令で定める金額を納付しなければならない。 (ⅰ)特許料を第79 条(3)による納付期間を経過して補填する場合 (ⅱ)特許料を第81 条(1)による追加納付期間を経過して補填する場合 |
第112 条(特許料の追納) (1)省略 (2)前項の規定により特許料を追納する特許権者は、第107 第1 項の規定により納付すべき特許料のほか、その特許料と同額の割増特許料を納付しなければならない。 (3)-(6)省略 |
<コメント>
1.韓国知識経済部の徴収規則では、以下のように定められています。
1ヶ月経過・・・120%(120%) 4ヶ月経過・・・200%(150%)
2ヶ月経過・・・150%(130%) 5ヶ月経過・・・200%(150%)
3ヶ月経過・・・150%(120%) 6ヶ月経過・・・200%(150%)
*( )内は、韓国デザイン保護法の場合
2.韓国デザイン保護法でも同様の改正が行なわれています(デ第33条第2項)
(6) 優先審査制度の合理的整備および申請要件の明確化
⇒2009年9月1日以降の優先審査申請案件に適用
審査申請案件に適用 | 日本国特許法 |
第61 条(優先審査) 韓国知財財産局長官は、次の各号の1 に該当される特許出願に対しては審査官に他の特許出願に優先して審査させることができる。 (ⅰ)出願公開後、特許出願人でない者が業として特許出願された発明を実施していると認められる場合 (ⅱ)大統領令が定める特許出願として緊急処理が必要であると認められる場合 |
第48 条の6(優先審査) 特許庁長官は、出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明を実施していると認める場合において必要があるときは、審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させることができる。 |
<コメント>
1.今回の優先審査制度の合理的整備および申請要件の明確化の趣旨は下記のとおりです。
(a)従来、申請要件が明確でなかったため、安易に優先審査制度が利用され、優先審査制度の趣旨が没却されていた。
(b)事前に登録要件の検討せずに優先審査の申請ができたため登録率が低く、制度の実効性が阻害されていた。
(c)主要国(米国、日本)の制度との調和を図る。
2.今回の「優先審査制度の合理的整備および申請要件の明確化」においては、下記の点が整備されています。
(1)出願人自身による先行技術調査結果の提出の義務化。
(2)出願人が出願発明を業として実施している/実施準備中であることの要件の明確化。
(3)ベンチャー企業等の出願であることを立証する判断規定の整備。
(4)2009年10月1日施行のグリーン技術に対する優先審査対象の明示。
3.日本の特許実務では、優先審査、運用による早期審査、および運用によるスーパー早期審査等を活用することで、他の特許出願に優先して審査を受けることができます。
以上