EPC 規則改正による影響等について
既に弊所外国特許情報レポートでもお知らせしましたとおり、2010年4月1日より改正されたEPC 規則が施行されています。これにより、EESR(Extended European Search Report:拡張されたヨーロッパ調査報告)に対する応答の義務化、分割出願の時期等の要件が課せられることとなりました。(詳細は、2009 年8 月20 日付発行の外国特許情報レポートをご参照下さい。PDF 版は、以下のサイトに掲載しております。
http://www.fukamipat.gr.jp/pdf/f_090820_1.pdf)。
規則の改正による影響につきましては、当面は実務の蓄積を待つ必要がありますが、既に、欧州代理人から報告を受けているものもありますので、現時点でご注意頂きたい下記の項目についてご報告申し上げます。
なお、分割出願の時期的制限に関しまして、特例が認められる出願につきましては、分割出願の提出期限は2010年10月1日までですので、分割出願の要否を念のためご確認下さい。
1.EESR の記載内容について(EPC 規則36関連)
2.EESR への応答について(EPC 規則36関連)
3.補正について(EPC 規則137関連)
<補足> 関係条文
ここに 含まれる情報は一般的な参考情報であり、法的助言として使用されることを意図していません。IP 案件に関しては弁理士にご相談下さい。
1.EESR の記載内容について(EPC 規則36関連)
(1)欧州代理人によりますと、EESR におきまして、以下のような記載が含まれている場合もあるようです。
“This communication of the Examining Division is the first one in this
examination proceedings raising the specific objection as regards
unity of invention set out below, and thus starts the time period for
filing divisional applications pursuant to Rule 36(1) (b) EPC.”
(2)しかしながら、下線部分は誤りです。なぜなら、EESR は、審査手続(examination procedure) ではなく調査手続(search procedure) において発行されるものであり、Examining Division(審査部)によってではなく、Search Division(調査部)によって発行されるべきものだからです。
(3)したがいまして、(恐らくは欧州代理人が注記すると考えられますが)、訂正された新たなEESR の発行を要求することが必要になります。これは、単一性欠如の拒絶理由が通知されたときから起算される分割出願の時期的制限(規則36(1)(b))の適用を避けるためです。
2.EESR への応答について(EPC 規則36関連)
分割出願の時期的制限につきましては、2009年8月20日付の外国特許情報レポートにてご報告したとおりです。これに関しまして、次のように、2以上の発明を含む出願の場合、応答の内容によっては、分割出願の期限を延ばすことも考えられますので、ご参考までに記載します。
・前提:原出願が、単一性要件を満たさない2つの発明を含む。
・ケース1:EESR が単一性欠如を指摘している場合に、EESR への応答の際に単一性欠如を解消しない場合。
・ケース2:EESR が単一性欠如を指摘している場合に、EESR への応答の際に、補正によって、単一性欠如を解消した合。
<結論>
以下にご説明しますとおり、単一性欠如の拒絶理由がEESR において指摘されて
いる場合には、その後に可能な分割出願の機会を考慮しますと、EESR への応答の際
に単一性欠如の拒絶理由が解消される補正を行なうことが望ましいと考えられます。
3.補正について(EPC 規則137関連)
(1) EPC 規則137の変更点は、以下のとおりです。(ゴシック体部分が変更点。
旧規則の記載は、日本国特許庁ホームページより引用。)
旧(2010 年4 月1 日付改正前) | 新(2010 年4 月1 日付改正後) |
(1) ヨーロッパ調査報告を受け取る前においては、別段の定めがある場合を除き、出願人は、欧州特許出願の明細書、クレーム又は図面を補正することができない。 | (変更なし) |
(2) ヨーロッパ調査報告を受け取った後においては、出願人はその意思により、明細書、クレーム及び図面を補正することができる | (2) 規則70a 第1もしくは第2項、または規則161 第1項に基づき欧州特許庁による通知に応答するためになされる如何なるコメント、訂正または補正とともに、出願人はその意思により、明細書、クレーム及び図面を補正することができる。 |
(3) 審査部から最初の連絡を受けた後においては、出願人は、連絡に対する応答と同時に補正書を提出することを条件として、その意思により1回、明細書、クレーム及び図面を補正することができる。その後の補正は、審査部の承諾を得ない限り、することができない。 | (3) (第1文 削除) その後の補正は、審査部の承諾を得ない限り、することができない。 |
(4) 第1~ 3項において言及される如何なる補正を提出するとき、出願人は、当該補正を特定して、提出済みの出願書類において当該補正の根拠を示すものとする。審査部が要件を満たしていないことに気づいた場合には、1ヶ月以内にこ瑕疵を訂正することを要求することができる。 | |
(4) 補正クレームは、当初にクレームされていた発明又は単一の包括的発明概念を形成している一群の発明と関連していない未調査の主題を対象とすることができない。 | (5) 補正クレームは、当初にクレームされていた発明又は単一の包括的発明概念を形成している一群の発明と関連していない未調査の主題を対象とすることができない。また、補正クレームは、規則62a 又は63に基づきサーチが行なわれていない主題に関連してはならない。 |
(2) 改正後の規則の規定に対しましては、以下のような考え方・対応が考えられます。
(2-1) 規則137(1)について
今般の改正では変更されておりませんが、以下の点にご注意下さい。
(a)欧州特許条約では、米国出願における予備補正(preliminary amendment)に相当する自発補正は認められておりません。
(b)また、規則137(5)により主題を変更する補正が認められなくなりますので、たとえば、(時期的制限が課せられた)分割出願の場合には、特に、分割出願時のクレームの起案に注意が必要となります。たとえば、所謂コピー分割出願はお勧めできません。
(2-2) 規則137(2)について
(a)規則70a,161aは、EESR への応答の義務化、および、応答しない場合には出願が取り下げられたものとみなされる旨を規定しています。
(b)規定の内容は異なりますが、補正の機会が得られる点では、改正前と同じです。
(2-3) 規則137(3)について
第1文が削除されましたので、審査請求後に、審査部によって発行される局指令への応答の際には、補正が認められない場合もありえます。したがいましてEESR への応答の際には、たとえば、「トライアル・アンド・エラー」的な補正を避けて、的確な補正を行なう必要があります。
(2-4) 規則137(4)について
補正の根拠の明示の義務化につきましては、補正案とともに当該根拠を欧州代理人に知らせることで対処可能です。
(2-5) 規則137(5)について
(a)第1文は、旧規則137(4)と同じです。
(b)2010年4月1日付発効のガイドラインによりますと、新設された規則137
(5)は、単一性欠如の拒絶の代わりに適用されるものです。すなわち、EESR への応答の際に補正がなされる場合において、単一性欠如の拒絶理由が通知されることを期待して単一性を満たさないクレームに故意に補正したとしても、審査官は、単一性欠如の拒絶理由を指摘する代わりに、規則137(5)に基づき補正要件違反を指摘することになります。結果として、分割出願を行なうことはできません。
(c)今回の改正で追加された第2文により、先行技術の調査対象とされなかったクレームを審査対象とするような補正は認められなくなります。
<補足> 関係条文
EPC 第82 条 発明の単一性
欧州特許出願は,1の発明又は単一の包括的発明概念を形成するように連関している一群の発明についてのみ行なう。
Article 82 Unity of invention
The European patent application shall relate to one invention only or to a group of inventions so linked as to form a single general inventive concept.
規則 36 欧州分割出願
(1)出願人は、係属している先の欧州出願に関し、以下の場合には、分割出願をすることができる:
(a)その分割出願は、局指令が発行された最先の出願に関する審査部の最初の局指令から24ヶ月の期限の満了前に提出されること、または、
(b)審査部が、先の出願はEPC第82条の要件を満たしていないとして拒絶し、審査部がこれについて明確な拒絶を初めて提起してから24ヶ月の期限の満了前に、その分割出願が提出されること。
Rule 36 European divisional applications
(1) The applicant may file a divisional application relating to any pending earlier European patent application, provided that:
(a) the divisional application is filed before the expiry of a time limit of twenty-four months from the Examining Division’s first communication in respect of the earliest application for which a communication has been issued, or
(b) the divisional application is filed before the expiry of a time limit of twenty-four months from any communication in which the Examining Division has objected that the earlier application does not meet the requirements of Article 82, provided it was raising that specific objection for the first time.
規則 62a 複数の独立クレームを含む出願
(1)欧州特許庁は、提出されたクレームが規則43第2項に適合していないと考える場合には、調査が行なわれるべきいずれかに基づいて、規則43第2項に適合するクレームを2ヵ月以内に示すように、出願人に要請するものとする。出願人が、期間内にそのような提示を行なわなかった場合には、調査は、各カテゴリの最初のクレームに基づいて行なわれるものとする。
(2)審査部は、第1項に基づく拒絶が正当化されないと認定しない限り、クレームを、調査された主題に限定することを要請するものとする。
Rule 62a Applications containing a plurality of independent claims
(1) If the European Patent Off ice considers that the claims as filed do not comply with Rule 43, paragraph 2, it shall invite the applicant to indicate, within a period of two months, the claims complying with Rule 43, paragraph 2, on the basis of which the search is to be carried out. If the applicant fails to provide such an indication in due time, the search shall be carried out on the basis of the first claim in each category.
(2) The Examining Division shall invite the applicant to restrict the claims to the subject-matter searched unless it finds that the objection under paragraph 1 was not justified.
規則 63 不完全な調査
(1)クレームされた主題の全部または一部に基づいて欧州特許等が最先端の技術に関する有意義な調査を行なうことが不可能である程度に、欧州特許出願がこの条約に適合していないと、欧州特許庁が考えた場合には、欧州特許庁は、出願人に対して、調査されるべき主題を示す陳述書を、2ヶ月以内に、提出することを要請するものとする。
(2)第1項に基づく陳述書が応答期間内に提出されない場合には、または、第1項に基づき示された不備を克服するために十分でない場合には、欧州特許庁は、クレームされた主題の全部または一部に基づいて欧州特許等が最先端の技術に関する有意義な調査を行なうことが不可能である程度に、欧州特許出願がこの条約に適合していないことを述べる理由つきの宣言書を発行し、または、実際的な場合には、部分調査報告を作成するものとする。理由つきの宣言書または部分調査報告は、その後の手続の目的のために、ヨーロッパ調査報告とみなされるものとする。
(3)部分調査報告が作成された場合には、審査部は、第1項に基づく拒絶が正当化されない限り、調査された主題にクレームを限定するように要請するものとする。
Rule 63 Incomplete search
(1) If the European Patent Office considers that the European patent application fails to such an extent to comply with this Convention that it is impossible to carry out a meaningful search regarding the state of the art on the basis of all or some of the subject-matter claimed, it shall invite the applicant to file, within a period of two months, a statement indicating the subject-matter tobe searched.
(2) If the statement under paragraph 1 is not filed in due time, or if it is not sufficient to overcome the deficiency noted under paragraph 1, the European Patent Office shall either issue a reasoned declaration stating that the European patent application fails to such an extent to comply with this Convention that it is impossible to carry out a meaningful search regarding the state of the art on the basis of all or some of the subject-matter claimed or, as far as is practicable, draw up a partial search report. The reasoned declaration or the partial search report shall be considered, for the purposes of subsequent proceedings, as the European search report.
(3) When a partial search report has been drawn up, the Examining Division shall invite the applicant to restrict the claims to the subject-matter searched unless it finds that the objection under paragraph 1 was not justified.
規則 70a 拡張されたヨーロッパ調査報告への応答
(1)拡張されたヨーロッパ調査報告を伴う見解において、欧州特許庁は、出願人に対し、拡張されたヨーロッパ調査報告に対して意見を述べる機会を与えるものとし、また適切な場合には、規則70第1項で言及される期間内に、当該ヨーロッパ調査報告を伴う見解で示された如何なる不備、または、明細書、クレーム若しくは図面を補正するように、出願人に要請するものとする。
(2)規則70第2項において言及されている場合には、または、補充ヨーロッパ調査報告が、Euro-PCT出願(注:PCT経由の欧州特許出願)に対して作成された場合、欧州特許庁は、当該拡張されたヨーロッパ調査報告に対して意見を述べる機会を与えるものとし、また適切な場合には、出願人が当該出願の手続をさらに進めることを望むか否かを示すために指定される期間内に、当該ヨーロッパ調査報告を伴う見解で示された如何なる不備、または、明細書、クレーム若しくは図面を補正するように、出願人に要請するものとする。
(3)出願人が、第1項または第2項に従う見解又は要請に応じない場合には、出願は取り下げられたものとみなされる。
Rule 70a Response to the extended European search report
(1) In the opinion accompanying the European search report the Eu ropean Patent Office shall give the applicant the opportunity to comment on the extended European search report and, where appropriate, invite him to correct any deficiencies noted in the opinion accompanying the European search report and to amend the description, claims and drawings within the period referred to in Rule 70, paragraph 1.
(2) In the case referred to in Rule 70, paragraph 2, or if a supplementary
European search report is drawn up on a Euro-PCT-application, the European Patent Office shall give the applicant the opportunity to comment on the extended European search report and, where appropriate, invite him to correct any deficiencies noted in the opinion accompanying the European search report and to amend the description, claims and drawings within the period specified for indicating whether he wishes to proceed further with the application.
(3) If the applicant neither complies with nor comments on an invitation in accordance with paragraph 1 or 2, the application shall be deemed to be withdrawn.
規則 161 出願の補正
(1)欧州特許庁が国際調査機関としての役割を果たして、PCT31条に基づく要請が提出された場合、または、Euro-PCT出願について国際予備審査機関としての役割を果たした場合には、欧州特許庁は、国際調査報告の見解または国際予備審査報告について意見を述べる機会を与えるものとし、適切な場合には、各通知から1ヶ月の期間内に、見解または国際予備審査報告で示された如何なる不備を訂正し、または、明細書、クレームもしくは図面を補正するように、出願人に要請するものとする。欧州特許庁が補充国際調査報告を作成した場合には、第1文に従う要請は、PCT規則45の7(e)に従って与えられる説明書に関して発行されるものとする。出願人が第1または第2文に従う要請に応じず、または、意見を述べない場合には、出願は取り下げられたものとみなされる。
(2)欧州特許庁がEuro-PCT出願について補充ヨーロッパ調査報告を作成した場合には、当該出願は、それに応じて出願人に知らせる通知から1ヶ月の期間内に1度だけ補正することができる。補正された出願は、補充ヨーロッパ調査報告の基礎として機能する。
Rule 161 Amendment of the application
(1) If the European Patent Office has acted as the International Searching Authority and, where a demand under Article 31 PCT was filed, also as the International Preliminary Examining Authority for a Euro-PCT application, it shall give the applicant the opportunity to comment on the written opinion of the International Searching Authority or the International Preliminary Examination Report and, where appropriate, invite him to correct any deficiencies noted in the written opinion or in the International Preliminary Examination Report and to amend the description, claims and drawings within a period of one month from the respective communication. If the European Patent Office has drawn up a supplementary international search report, an invitation in accordance with the first sentence shall be issued in respect of the explanations given in accordance with Rule 45bis.7(e) PCT. If the applicant does not comply with or comment on an invitation in accordance with the first or second sentence, the application shallbe deemed to be withdrawn.
(2) Where the European Patent Office draws up a supplementary European search report on a Euro-PCT application, the application may be amended once within a period of one month from a communication informing the applicant accordingly. The application as amended shall serve as the basis for the supplementary European search.
以上