米国の早期の審査制度(トラック1による優先審査、およびその他の制度)について 米国特許法
米国特許庁は、出願人が審査の着手時期を選択可能とするために、トラック1、2および3からなる三段トラック構想を発表しています。また、申請要件を緩和した特許審査ハイウェイ試行プログラムである「PPH MOTTAINAI」試行プログラムが、7月15日から開始されることが発表されています。
この機会に、米国で利用可能な早期審査の制度を、米国で新たに提案されたトラック1を中心にまとめましたので下記の如くご報告申し上げます。
記
I.3つの特許プロセストラック
米国特許庁は、特許審査の着手時期を出願人が選択できるように、三段トラック構想を提案しています。トラック1は優先的(早期)に審査が実施されるもので、トラック2は通常審査で、トラック3は審査を遅らせることができるものです(トラック3の実施は未定です)。トラック1について導入を支持するパブリックコメントが多かったため、早期実施が望まれています。
以下に、トラック1による早期審査について説明します。
(1) 申請要件
・出願時のみ申請が可能です。
・当初の計画では、2011年5月4日以降に提出された出願が対象とされていましたが、財政上の理由から開始が延期されています。
・分割出願、継続出願、一部継続出願なども申請することが可能です。ただし、これらの出願に対して自動的に優先審査の資格が与えられることにはならず、これらの出願も、申請要件のすべてを満たさなければなりません。
・PCTからの米国移行出願、再発行出願、仮出願などは対象外です。
・優先審査申請手数料(4000ドルの優先審査手数料、300ドルの特許出願公開手数料、130ドルの取扱手数料を含む)の納付と同時に、申請書を提出しなければなりません。
・独立請求項数が4個以下、かつ総数が30個以下であることが必要です。また、マルチ従属クレームは含まれないことが必要です。
・初年度は、最高1万件までに限定される予定です。
(2) 優先審査の資格喪失
・局指令に対する応答期間を延長する場合には、優先審査の資格を喪失しますが、後述の審査促進プログラムと異なり出願放棄とはなりません。補正後のクレーム数が上記条件を超過した場合、RCEまたは審判請求書が提出された場合も、優先審査の資格を喪失します。
ここに含まれる情報は一般的な参考情報であり、法的助言として使用されることを意図していません。従って、IP 案件に関しては弁理士にご相談下さい。
(3) 効果
・優先審査が認められてから、原則として12ヶ月以内に最終処分を出すことが目標とされています。最終処分とは、特許査定の送付、最終局指令の送付、審判請求書の提出、特許控訴抵触審査部(BPAI)による抵触宣言書の発行、RCEの提出、出願の放棄などです。
Ⅱ.その他の早期審査の制度
その他の早期審査の制度も簡単に紹介します。詳しい内容((E)および(F)を除く)は、弊所発行の「外国特許情報レポート2010-1号、2010-2号」をご参照下さい。
(A) グリーン・テクノロジー関連出願を対象としたパイロット・プログラム
このプログラムは、2009年12月8日付けで発表されたプログラムであり、当初は、2010年12月8日で終了予定でしたが、2011年12月31日まで延長されました。
このプログラムでは、温室効果ガス削減技術を含むグリーン・テクノロジー関連出願について、出願人は、申請によって、早期審査を受けることができます。申請を許可する件数は3000件に定められています。2011年5月2日の時点の発表によると、3251件が申請され、1681件が申請許可され、327件が決定待ちとなっています。
この申請のためには、本プログラムの参加時に1回目の局指令が発行されていないこと、独立クレーム数が3個以下かつ合計クレーム数が20個以下でマルチ従属クレームを含まないことが必要です。申請の費用は無料です。
(B) 審査促進プログラム(Accelerated Examination Program、簡単に早期審査制度と呼ばれることもあります)
2006年8月25日以降の出願については、MPEP708.02(a)に基づく早期審査制度を利用することができます。12ヶ月以内に最終処分を出すことが目標とされています。
この申請のためには、出願と同時に、早期審査の申請書を提出しなければなりません。
また、2006年8月25日以降の出願であること、独立クレーム数が3個以下で合計クレーム数が20個以下でマルチ従属クレームを含まないことが必要です。
また、出願人は、出願と同時に、先行技術文献との相違を説明した早期審査サポート書面(Accelerated Examination Support Document)を提出することが必要です。局指令に対して30日以内に応答することが必要です。期間延長は原則として認められず、期限を徒過すると出願放棄となります。また、130ドルの手数料の納付が必要です。
(C) 特許審査ハイウェイ・プログラム(PPH:Patent Prosecution Highway)
出願人の申請により、日本国で特許査定となった所定要件を満たす出願について、米国特許庁において早期審査を受けることができます。2008年1月4日から本格実施されています。
この申請のためには、米国で審査が開始される前までに申請する必要があります。対象となる出願は、日本を優先権主張の基礎としている米国出願、または優先権主張を伴わないPCT出願の米国への国内移行出願であることが必要です。また、日本出願が日本国特許庁で特許可能と判断された少なくとも1つの請求項を有し、米国出願の請求項のすべてが日本出願で特許可能と判断された請求項に十分対応していることが必要です。また、日本出願と米国出願の対応表や日本出願で特許可能と判断された請求項の写しとその英訳、日本出願に対してなされた最新の拒絶理由の写しとその英訳、引用文献の写しなどを提出する必要があります。申請費用は、現在無料です。
(D) PCT-PPH
PCT出願の国際段階成果物を利用する特許審査ハイウェイ(以下、「PCT-PPH」)プログラムが試行的に2010年1月29日から開始されています。
P C T - P P H プログラムにおいては、特定の国際調査機関が作成した見解書(WO/ISA)、特定の国際予備審査機関が作成した見解書(WO/IPEA)または国際予備審査報告(IPER)を利用して、対応する各国出願について早期審査を申請することができます。
この申請のためには、対応する米国の出願の審査が開始されるまでに申請する必要があります。また、PCT出願が国際段階で特許性「有り」(新規性・進歩性・産業上利用可能性がすべて「有り」)と判断された少なくとも1つの請求項を有し、対応する米国出願の請求項のすべてがPCT国際段階で特許可能と判断された請求項に十分対応していることが
必要です。また、引用文献、請求項の対応表などを提出することが必要となります。
(E) 「PPH MOTTAINAI(モッタイナイ)」試行プログラム
これまでのPPH申請の要件を緩和した「PPH MOTTAINAI」試行プログラムが、日本を含む8ケ国(日本、米国、英国、カナダ、オーストラリア、フィンランド、ロシア、スペイン)の間で、2011年7月15日から開始されます。試行期間は1年間で、必要に応じて延長されます。
本試行プログラムの開始により、第一庁に限らず、参加国による特許可能との審査結果を利用したPPH申請が可能となります。
(C)の日本とのPPHに加えて、6ケ国(英国、カナダ、オーストラリア、フィンランド、ロシア、スペイン)による特許可能との審査結果があれば、米国へのPPHの利用が可能となります。
(F) その他
上記の他に米国での早期審査の制度として、未審査の出願1件を放棄することを条件に審査順番を繰り上げる「特許出願の未処理件数削減促進プラン(Patent Application Backlog Reduction Stimulus Plan)」、出願人の健康または年齢に基づく優先処理申請の制度もあります。さらには、1回目の拒絶理由通知の前にインタビューを申請する「ファーストアクションインタビュープログラム」を活用することにより早期権利化を図る方法もあります。
以上