IP Translator 商標事件に関する欧州連合裁判所判決C-307/10
2012 年6 月19 日、欧州連合裁判所(CJEU)はIP Translator 事件について待望の決定を発した(the Chartered Institute of Patent Attorneys [2012] CJEUC-307/10)。これは、商標出願についてクラスヘディングを使うことが許容可能かど
うか、もし許容可能なら、クラスヘディングかがそのクラスのすべての商品および役務を指定することと同じになるのかどうかを確立することを試みる最初の事案である。
2003 年、OHIM は、出願人が商標出願をするときにクラスヘディングを使用することが可能であること、および「特定のクラスのクラスヘディングで列挙されたすべての一般的表示は、その特定のクラスに属するすべての商品または役務の指定を構成する」ことを確認する通知(No. 4/03)を発した。これはすべての国内官庁に許容される実務というわけではない旨が認知された。本事案は、第41 類で「education;providing of training; entertainment; sporting and cultural activities」というクラスヘディングを用いてIP TRANSLATOR という商標について英国商標出願をTheChartered Institute of Patent Attorneys(CIPA)がした。英国知財庁は、本件商標が翻訳サービスについての識別力欠如に基づき出願を拒絶した。翻訳サービスは本願によってカバーされていると考えられた。なぜならクラスヘディンクが使用されていたからである。CIPA は指名人に不服申立をし、彼は裁判所に対し3 つの質問を照会した。
質問1:「商標出願によりカバーされる様々な商品または役務は特定される必要があるか? もしそうなら、どの程度の明確性または正確性が必要か?」
回答1:「指令2008/95 は、商標の保護を求める商品および役務が、所轄官庁および事業者にとってその商標の保護範囲を決定できるほど十分な明確性および正確性をもって、出願人により特定されることを要求しているという意味に解釈しなければならない。」
質問2:「商標出願によりカバーされる商品または役務を特定する目的で、『ニース分類』のクラスヘディングの一般用語を使用することは許容されるか?」
回答2:「指令2008/95 は、商標の保護が求められている商品および役務を特定するために、もしその特定が十分に明確で明確なのであれば、ニース分類のクラスヘディングの一般表示の使用を排除するものではないという意味に解釈されなければならない。」
質問3:「ニース分類のクラスヘディングの一般用語の使用は、通知No. 4/03 に従って解釈することが必要または許容可能か?」
回答3:「商標の保護が求められている商品または役務を特定するためにニース分類の特定のクラスヘディングのすべての一般的表示を使用している国内商標出願の出願人は、その登録出願が、その区分のアルファベティカルリストに
含まれるすべての商品または役務をカバーすることを意図しているのか、あるいは一部の商品または役務をカバーすることを意図しているのかを、特定しなければならない。もしその出願がいくつかの商品または役務についての
みに関するものなのであれば、出願人は、その区分のどの商品または役務を保護することを意図しているのかを特定することが要求される。」
これらの質問および裁判所によりなされた回答に関し、裁判所が、商品および役務の記載が十分に明確かつ正確であるべきことを確認した点は、歓迎されるものである。クラスヘディングの一般的表示のうちどの表示が十分に明確で正確と考えられるのかについては不明確なままであるが、一定の状況ではクラスヘディングの一般表示が使用できると知ったことも有益である。質問3に対する回答は決して有益ではない。裁判所がアルファベティカルリストに言及したことが、事案を混乱させた。「その区分のアルファベティカルリストにおける」すべての商品および役務を保護することを望むのかどうかを、クラスヘディングを使用する出願人が確認しなければならない、と裁判所は述べた。各々の(ニース分類の)「アルファベティカルリスト」は網羅的なものではなく、いくつかはクラスヘディングより広く、その他はクラスヘディングより狭い、というところに問題がある。結果的に、アルファベティカルリストのすべての商品および役務をカバーすることは、その区分に分類されたすべての商品および役務をカバーすることと、必ずしもイコールではない。見解は満足できるものではない。
英国商標登録局は、決定に従った新たな実務を未だに正式発表していない。OHIMは、もし出願人がその出願をアルファベティカルリストのすべての商品および役務にまで確実に及ぶようにすることを望むのであればその旨の宣言をしなければならない、そうでなければ、一般的記載の逐語的な意味が適用されるであろうと出願人に知らせることにより、クラスヘディングを使用するすべての新たな出願についての実務を紹介した。いずれは、宣言をするのではなく、それを確認するチェックボックスを付けることを可能とするであろう。その効果は同じである。現在の共同体商標登録および出願に関し、出願人の意図はアルファベティカルリストのすべての商品または役務をカバーすることであった(それが法的に許容されるかどうかはおそらく更なる論及の対象となるであろうが)と考える旨の通知(No. 2/12(2012 年6 月20 日)をOHIM は示した。アルファベティカルリストが網羅的ではないことからすれば、OHIM の扱いは理想的とは思えない。クラスヘディングのいくつかの一般的表示は、逐語的意味から、特定の区分に明らかに所属するがアルファベティカルリスト内で箇条書きされていない商品または役務にまで及ぶと考えられることから、十分に不明確である。これは、アルファベティカルリスト内のすべての商品および役務のすべてのみをカバーすると考えられる結果、保護が狭くなることを意味する。反対に、アルフ
ァベティカルリストは全くクラスヘディングの範囲内ではない商品または役務を含んでおり、全く明確でも正確でもない(全く許容されない広さ)。期待するのは、見解が全く明確性および正確性の欠如を残さないことである。OHIM の集中プログラムワーキンググループは、「十分に特定」されていて、クラスヘディングの使用についてのOHIM と国内官庁の間の衝突を解決するのに役立つ「クラススコープ」の紹介を検討中である。このプロジェクトは今年の終わりまでに完結予定である。指名人は、裁判所の決定に照らして本件を再検討しなければならなかったが、裁判所へ再照会とは聞いていない。一方、我々は出願人に対し、商品および役務の記載について注意深くなるよう喚起している。
(D Young & Co., Patent Trademark Newsletter, No. 64, September 2012)