韓国特許法院判決「下位概念への分割出願の適法要件に関する判決」
原出願明細書に上位概念で記載された発明のうち一部を下位概念で新しく定義して分割出願したものの、原出願と分割出願の同一性要件を満たさないとして、不適法な分割出願であると判断された(特許法院2012.1.13 言渡し2011 ホ4110 判決)。
(a)事実関係
原出願明細書では置換基のうち一つが「置換又は非置換のナフタレン」と定義されていたが、出願人はこれを「置換又は非置換の1 価の炭素数6~40 芳香族基に置換されたα-ナフチル基」に限定した分割出願をした。
(b)法院の判断
分割出願の特許請求の範囲の発明は原出願の明細書または図面に記載された発明と実質的に同一でなければならず、ここで言う原出願明細書または図面に記載された発明とは、原出願明細書または図面に明らかに記載された発明だけでなく、原出願明細書または図面には明示的に記載されなかった事項でも本技術分野で当業者が原出願明細書の他の記載や最初の出願当時の技術常識に照らして一義的かつ明確に認識できる事項も含まれる。
しかし、原出願明細書に記載された発明の一部をなす一般化学式で示される上位概念の化合物を、下位概念で新しく定義して分割出願することは、これは選択発明の領域にあるものを分割出願するものと言え、このような分割出願を認めるならば原出願に基づいた第三者の選択発明を極めて制限することになる。また、原出願当時に開示されていない事項について事後の分割出願によりその技術的意義を認めることと同じであり、1 発明1 出願の原則にそぐわず特許を受けることができない発明を分割して、その出願時点を当初の原出願の出願時点に遡及させるという分割出願制度の趣旨からも外れるので、分割出願での下位概念発明が原出願明細書に記載された上位概念発明に概念的に含まれるということだけでは、分割出願された発明が原出願明細書に記載された発明と言えず、原出願明細書全体の記載と最初の出願当時の技術常識を総合的に考慮して分割出願された発明が原出願に記載されたものか、または記載されたと同一にみなせるかどうかを実質的に判断しなければならない。
本事案の原出願明細書を詳察しても新たに定義された置換基の組合せに対して、その技術的意義や効果について何の記載もなく、そのような置換基で構成される分割出願の化合物が原出願明細書に記載された他の置換基の組合せや実施例に記載された物質から把握できる化学的性質を持つとみなせる何らの資料もないことなどの事情を総合的に判断すると、新たに定義した置換基の組合せは原出願明細書に記載されていないものであって、最初の出願当時の技術常識に照らして原出願明細書に記載されたものと同一であるとみなすことはできない。
(c)コメント
原出願が上位概念を規定し、分割出願がその下位概念を新たに定義したものである場合、下位概念の内容でなされた分割出願発明が原出願明細書に記載された発明であるとみなせる、又は当業者にとって明らかなものであるとみなせるかどうかについて、韓国特許の実務上の理論が確立されているわけではなく、むしろ、下位概念で記載されていればとりあえず分割出願を認める審査慣行が強かったといえるのであるが、本判決は上位下位概念の関係にあるという理由だけでは発明の同一性を単純に認めてはならず、その下位概念が具体的な事案の中で原出願の明細書や図面に記載された事項であるかどうかを実質的に判断しなければならないと警鐘を鳴らした点に非常に大きな意義がある。
ともすれば、とりあえず原出願の明細書には漠然とした上位概念で記載することにより、より広い権利範囲を確保しようとするのが出願人の立場であるが、その場合であっても認識している限りの下位概念については原出願の明細書の中で十分に言及しておくことが重要であろう。
(Kim & Chang, Newsletter, August 2012)