中国専利法の改正案
2012 年8月9日、国家知的財産権局は「中華人民共和国専利法改正案(意見募集)」を公布した。今回、特許権侵害への法執行強化を中心に現行専利法の改正が検討されている。主な改正のポイントおよび解説は以下の通りである。
(1)「故意侵害」を新設し、最大三倍までの賠償を可能に(第65 条)
中国の民法体系の中では、被疑侵害者の主観的故意があった「故意侵害」の場合でも、権利者の被った損失を穴埋めするのが原則で、懲罰的な損害賠償請求は認められていない。そのため、特に知的財産分野では、侵害行為のリスクが低く、侵害行為による収益性が高いこととなってしまい、侵害行為多発の要因のひとつと言われている。このように権利者の損失を穴埋めするだけでは、もはや権利侵害の助長にも繋がるとも言える。そこで、今回の改正案では、「故意侵害」が認められた場合、行政機関または人民法院が侵害行為の情状、規模、損害等を酌量した上、賠償金額を最大三倍までにすることができると新設した。
(2)裁判所が原告の請求により、侵害物品又は帳簿などの侵害証拠を職権で取得できる(第61 条)
中国には米国のような「ディスカバリー」法廷手続がないため、証拠の取得は非常に難しい。侵害物品、または侵害から得た利益を証明するための帳簿は被疑侵害者内部でなければ入手困難な場合が多くある。中国の民事訴訟法では、一定の要件を満たせば、当事者の請求により、裁判所による証拠の採取が可能になっている(民事訴訟法第64 条2項)が、今回は特別法としての専利法改正案で、裁判所が原告の請求により、侵害物品、帳簿、資料などの侵害証拠を調査採取できると改めて条文化した。
(3)行政機関の特許侵害への法執行権限を大幅強化(第60 条,64 条,65 条)
中国における「司法&行政」のダブルトラック制度では、行政ルートによる救済は利便性があるが、調停や侵害行為停止処分に留まり、損害賠償額について関与できないため、実務において行政ルートを利用せず、司法ルートを通じて紛争を解決する権利者が多い。今回の改正案では、行政ルートでも、司法ルートと同様に、現場調査、証拠採取の権限、侵害判定の権限、損害賠償額を命じる権限および行政による罰金権などを与えることとした。
(4)無効審決の発行時期を明確にした(第46 条)
現行専利法および細則は無効審決の発行時期を明確に定めていないので、一部の侵害案件は、その後の審決取消行政訴訟の結果を待つため、審理期間が長すぎるという問題が生じていた。被告側は行政訴訟を提起して審決の確定を延ばそうとすることが多いため、侵害案件の結審が長引いてしまうことが多い。この問題を解決するため、今回の改正案では、後続の行政訴訟提起の有無を問わず、無効審決は登録・公告を経てから直ちに効力を生じるとされ、また、裁判所と行政機関も審決が発行した時点から直ちに侵害案件を審理、処理すべきとも提案された。
(中国専利代理(香港)有限公司, Newsletter, 2012,Issue 5)