EPC におけるWeb ページ/E メールの公衆利用可能性
EPC の新規性について、EPC54 条(2)に「欧州特許出願の出願日前に,書面若しくは口頭,使用又はその他のあらゆる方法によって公衆に利用可能になったすべてのものは技術水準を構成する。」と規定されている。最近の審決(T-2/09,T-1553/06)で、Web ページ/E メールが「技術水準」となるのかについて判断された。
T-1553/06 では、Web ページの公衆利用可能性について、直接かつ明白なアクセス(direct and unambiguous access)がされるかが基準になると判断された。すなわち、Web 上に保存され特定のURL を介してアクセス可能な文書が、
a)当該文書の内容の要点に関連する一つ以上のキーワードを用いて検索エンジンで検索可能であり、
b)そのURL に、秘密保持義務のない者がアクセス可能な状態に、十分に長い時間置かれたのであれば、当該文書はEPC54 条(2)の意味する「公衆に利用可能」とされる。
上記a)、b)のいずれかの要件を具備しないことは当該文書が公衆に利用可能でないことを意味するものではなく、他の事情によって直接かつ明白なアクセスが設けられるかどうかも検討しなければならない。他の事情は、当該URL の書面または口頭での開示があったかどうか、公衆に利用可能なWeb ページ上における当該URL の存在、およびインターネットを基盤とした公開討論の場での当該文書の公開を含む。
URL 自身が非常に直接的であり容易に推測可能であるので、Web ページへの直接かつ明白なアクセスを提供するとみなされる例外的な場合を除き、多くの場合、公衆に利用可能な検索エンジンを介してなど、Web ページへの直接かつ明白なアクセスの証明が必要になる。検索エンジンを介した文書へのアクセスを提供するためのキーワードはすべて、隠匿された刊行物が先行文献として引用されないために、文書の内容の要点に関連したものでなければならない。
本事件では、開示の要点に関連するキーワードを用いて検索エンジンでアクセス可能であった期間が3週間あれば、その文書は公衆に利用可能であるとみなされた。アクセス可能な期間がどれだけ短くてもよいのかについては、議論の余地がある。
しかしながら、実務上、先行文献としてのWeb ページの使用は限定されそうである。文献検索は、争いの対象となる特許の出願日または優先日の少なくとも18 か月後に行なわれるが、その時点で、優先日よりも前に特定の内容を有するWeb ページが存在したことを立証し、そのWeb ページが内容に関連するキーワードを用いて検索エンジン上で発見され得たことを証明するのは、困難であろう。
T-2/09 では、インターネット上でE メールを送信する行為がE メールの内容を公衆に利用可能にするかどうかが判断された。本事件で検討された文書は、暗号化されたE メールおよび暗号化されないE メールの傍受に関連するものであった。
審判部は、傍受の適法性に拘らず傍受されたE メールには絶対的な機密性が認められるべきであると決定する前に、E メールの傍受が適法であるかどうか、どのような状況下でE メールの傍受が適法であるのかを検討した。
審判部は、E メールを公衆に利用可能にする行為は、ヨーロッパ人権条約第8条のもと「すべての者は、その私的および家庭生活、住居および通信の権利を有する」として尊重されるべき権利を侵害するものである、と結論づけた。
(D Young & Co., Patent Newsletter, June 2012)