商標権の権利濫用に関する韓国大法院大法廷判決
韓国大法院の大法廷が、『登録商標に対する登録無効審決が確定される前であっても、その商標登録が無効審判において無効となることが明白である場合は、その商標権に基づく侵害差止め又は損害賠償等の請求は、特別な事情がない限り、権利の濫用に該当して許容されない』との判決を出しました。その判決文の日本語訳を以下に載せます。
大 法 院 判 決
事件:2010ダ103000 損害賠償及び商標侵害禁止
原告、上告人:株式会社ハイウッド
被告、被上告人:株式会社ハイウッド
原審判決:ソウル高等法院2010.11.10宣告2010ナ32360判決
判決宣告:2012年10月18日
主 文
上告を棄却する。
上告費用は、原告が負担する。
理 由
上告理由を(上告理由書の提出期間経過後に提出された上告理由補充書の記載は、上告理由を補充する範囲内で)判断する。
1.商標法は、登録商標が一定の事由に該当する場合に、別途に設けた商標登録の無効審判の手続を経てその登録を無効にすることができるように規定しているため、商標は一旦登録された以上、たとえ登録無効事由があるとしても、このような審判によって無効にするという審決が確定しない限り、対世的に無効となるのではない。
ところで、商標登録に関する商標法の諸般規定を満たさないことから登録を受けることができない商標に対して、誤って商標登録がなされたもの、或いは商標登録された後に商標法が規定する登録無効事由が発生したものについて、商標登録が形式的に維持されているに過ぎないにもかかわらず、その商標権を特段の制限なしに独占排他的に行使できるようにすることは、その商標の使用に関する公共の利益を不当に毀損するだけでなく、商標の保護によって商標使用者の業務上の信用維持を図って産業発展に寄与すると共に需要者の利益を保護しようとする商標法の目的にも背馳することとなる。また、商標権も、私的財産権の一つである以上、その実質的価値に応じて正義と公平の理念に合うように行使されなければならないところ、商標登録が無効になるものであることが明白であって法的に保護されるだけの価値がないにも拘らず、形式的に商標登録されていることに乗じて、その商標を使用する者を相手取って差止めまたは損害賠償などを申し立てることを容認すると、商標権者に不当な利益を与え、その商標を使用する者には不合理な苦痛や損害を与えるだけであって、実質的な正義と当事者間の公平にも相反する。
このような点に照らしてみると、登録商標に対する登録無効審決が確定する前であったとしても、その商標登録が無効審判によって無効となるものであることが明白な場合には、その商標権に基づく差止めまたは損害賠償などの申立は、特別な事情がない限り、権利の濫用に該当して許容されないと見なければならず、商標権侵害訴訟を担当する法院としても、商標権者のそのような申立が権利の濫用に該当するという抗弁があった場合、その当否を検討するための前提として、商標登録の無効の可否について審理・判断することができるといえるのであり、このような法理は、サービス商標権の場合にも同様に適用される。
これとは異なって、商標登録を無効にするという審決が確定する前には、法院が商標権侵害訴訟等において登録商標の権利範囲を否定することはできないという趣旨を判示した大法院1991.4.30付の90マ851決定、大法院1995.5.9宣告94ド3052判決、及び大法院1995.7.28宣告95ド702判決は、この判決の見解に背馳する範囲においてこれを変更することとする。
2.上記の法理に従って、原審判示の原告商標および原告サービス商標の登録が無効となることが明白であって、これに関する各商標権およびサービス商標権に基づく原告の本件差止め、侵害製品の廃棄および損害賠償請求が権利の濫用に該当するか否かを、関連法理と記録に照らして検討する。
どのような商標が商標法第6条第1項第3号で定める‘商品の品質・効能・用途などを普通に使用する方法で表示した標章のみからなる商標’に該当するかは、その商標が有している観念、指定商品との関係、および取引社会の実情などを考慮して客観的に判断しなければならない(大法院2007.9.20宣告2007フ1824判決、大法院2011.4.28宣告2011フ33判決等を参照)。また、商標法第7条第1項第11号前段の‘商品の品質を誤認させるおそれがある商標’とは、その商標の構成自体が、その指定商品が本来持っている性質と異なる性質を有するものと需要者を誤認させるおそれがある商標をいい、どの商標が品質誤認を生じさせるおそれがあるかは、一般需要者を標準として、取引の通念により判断しなければならない(大法院2000.10.13宣告99フ628判決、大法院2007.6.1宣告2007フ555判決等参照)。そして、このような法理は、商標法第2条第3項によってサービス商標の場合にも同様に適用される。
原審判決理由によると、原審判示の原告第1商標(登録番号1省略)及び原告サービス商標(登録番号2省略)は、“”のように、原審判示の原告第3商標(登録番号3省略)は、“”のように、原審判示の原告第4商標(登録番号4省略)は、“”のように、各構成されており、原告商標はそれぞれ“建築用非金属製モールディング、建築用非金属製表面仕上材、建築用非金属製壁面ライニング、建築用非金属製補強材料、建築用非金属製ステップ、建築用非金属製欄干、建築用非金属製ドア枠、建築用非金属製窓枠、建築用非金属製天井板、建築用非金属製床板”を指定商品としており、原告サービス商標は“建築用モールディング販売代行業、建築用モールディング販売斡旋業、建築用表面仕上材販売代行業、建築用表面仕上材販売斡旋業、建築用ドア枠販売代行業、建築用ドア枠販売斡旋業、建築用窓枠販売代行業、建築用窓枠販売斡旋業、建築用補強材料販売代行業、建築用補強材料販売斡旋業”を指定サービスとしていることが分かる。
ところが、原告商標又は原告サービス商標を構成している‘HI WOOD’や‘ハイウッド’中の‘HI’又は‘ハイ’は‘高級の、上等の、高い’等の意味を持つ英単語‘high’の略語又はそのハングル発音であり、‘WOOD’又は‘ウッド’は‘木、木材’等の意味を持つ英単語又はそのハングル発音であり、一方、原告第1商標及び第3商標と原告サービス商標に付加された図形はこれら商標又はサービス商標の付随的又は補助的部分に過ぎず、その文字の部分の意味を相殺、且つ吸収するほどの新しい識別力を持つとは見られないので、原告商標及び原告サービス商標は一般需要者や取引業者に‘高級木材、良い木材’等の意味を直感させるといえる。従って、原告商標又は原告サービス商標は、その指定商品若しくは指定サービスのうち‘木材’からなっている商品又はこのような商品の販売代行業、販売斡旋業に用いられる場合には、指定商品又は指定サービスの品質・効能・用途などを普通に用いる方法で表示した標章のみからなる商標(商標法第6条第1項第3号の記述的標章)に該当し、‘木材’からなっていない商品又はこのような商品の販売代行業、販売斡旋業に用いられる場合には、その指定商品が‘木材’からなっているか、又はその指定サービスがそのような商品の販売代行業、販売斡旋業であると需要者を誤認させる恐れがある、商標法第7条第1項第11号前段の品質誤認標章に該当し、各その登録が無効になることが明白である。従って、原告商標に関する各商標権又は原告サービス商標に関するサービス商標権に基づいた原告の本件差止め、侵害製品の廃棄及び損害賠償請求は権利の濫用に該当し、許容されない。
同趣旨の原審判断は正当であり、上告理由として主張するように、商標権若しくはサービス商標権侵害訴訟を担当する法院において、商標又はサービス商標登録の可否に関して審理・判断できるのかとの点、及び記述的標章と品質誤認標章に関する法理を誤解しているといった点について、違法性がない。
3.従って、上告を棄却して上告費用は敗訴者が負担するようにし、関与法官の一致した意見で主文のとおり判決する。
[情報元]Koreana事務所,11月6日付サーキュラー
[担当]深見特許事務所 冨井美希