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欧州諸国への出願ルート-EPCルートか各国ルートか?-

 近年、”raising the bar”構想に従って、EPOにおける審査手続が出願人にとって難しくなっている印象を受けます。さらに、EPOは、審査の迅速化のために、審査官と出願人との意思疎通の回数を最小化しようとしているようです。
 一方では、EPOへの出願数の増加により、欧州の各国特許庁への国内出願数は減少を見せており、各国特許庁での審査待ち事件数は減少しています。そのため、各国ルートを活用することへの関心が高まりつつあります。
そこで、欧州で特許出願する場合に各国ルートまたはEPCルートを選択する際の長所および短所を比較し、出願人にとって有益な戦略を提案します。
(1)各国ルート
 各国ルートを利用する最大の利点は、比較的短期間で各国の特許権を得られる可能性があることです。また、(英国でのソフトウェア特許などの例外を除いて)一般的にEPOと比較して各国特許庁はより寛容に特許権を付与するという利点があります。
 これに対し、多数国へ出願するのであれば、各国へ支払う手数料、翻訳費用および審査時の費用などが発生し、費用が高額になるとの問題があります。但し、EPCルートと異なり、出願を維持するための更新手数料は不要ですので、特に分割出願が必要な場合には費用を低減することができます。ロンドン協定によってEP特許付与の際の翻訳費用が軽減されたことに鑑みますと、大まかには、3以下の国で保護を求める場合には、各国ルートの方がより費用を抑えられるでしょう。
各国特許庁毎に出願審査は異なり、その結果異なる国において権利範囲が異なる場合があります。これは各国ルートの弱点のようにも思われますが、一般的には、EPO経由で許可される権利範囲よりも広い権利範囲が認められることが多いです。
 要約すると、3以下の国で早期に特許を取得したい出願人にとっては、各国ルートが有利でしょう。
(2)EPCルート
 EPCルートには多くの利点があります。第一には、審査手続および方式が均一なことです。許可された特許は原則、各国で同一の保護を与えます。第二には、移行国を選択するまでの時間をより長く取れることです。第三には、EPC加盟国のうちロンドン協定に調印した国では、最大でもクレームのみの翻訳が必要となるため、翻訳の必要性を低減できることです。
 一方、出願審査に係る全費用は、各国特許庁の費用と比較してより高額になります。また、面接審査、異議申立および審判などに更なる費用が発生する場合があります。審査は概して遅く、審査迅速化のための仕組みは多くありません。異議申立の結果、すべての国の特許権が取り消される可能性があります。
 さらに、EPOは、形式的な不備に関する拒絶の際により厳格な審査アプローチを採用しています。そのため、クレームの補正が必要となる場合に、不必要に減縮補正が求められたり、補正できない最悪なケースも起こり得ます。
要約すると、出願人が(i)複数のEPC加盟国に亘り均一な保護を求める場合、(ii)出願審査を一手に集中したい場合、(iii)より多くの時間をかけてどの国で保護を求めるかを決定したい場合には、EPCルートがより有利でしょう。
(3)PCTルート
 EPOを国際調査機関とすれば、見解書においてEPルートを選択する場合の問題点が指摘されることが多いです。このように問題点が指摘された場合には、各国ルートがより良い選択肢となるでしょう。

[情報元]RGC Jenkins & Co., Autumn 2012 Patent issues
[担当]深見特許事務所 村野 淳