コンピュータで実現される新しいアイディア
-欧州および英国における、特許され得る主題に関する評価-
コンピュータプログラムの特許取得に関しては、多くのソフトウェアエンジニアが関心を寄せるものです。多くの関心は米国の特許制度に向けられており、それは、特許性から除外された主題の評価に関して欧州とは異なります。
欧州においては、コンピュータプログラムの特許性の判断の基準は、コンピュータプログラムプロダクトの特許性を拡張したEPOのIBM審決(1998年)以来、白熱した討議の焦点となってきました。しかしながら、欧州と英国との間で、コンピュータプログラムの特許性の評価に隔たりがある場合もあります。IBM審決以来現在に至るまで、コンピュータプログラムの特許性に関する英国知的財産庁(UKIPO)の評価は(判例法制度であるため)英国裁判所での勝訴判例法に依存するものであり、EPOの状況に対しては確定していません。
この状況は、どのような技術が昨今の英国法や英国実務では排除されるのか、出願がUKIPOまたはEPOでは排除されずに取り扱われるのか、コンピュータプログラム特許の出願者を混乱させるものです。EPOは、現在、「ボーダーラインの」コンピュータプログラムを出願するためのルートとして、英国ルートよりも容易なルートであると見られています。
筆者らは、UKIPOのコンピュータグループの審査官とコンピュータプログラムおよび除外される主題について話す機会に恵まれ、UKIPOにおいてコンピュータ関連の発明が昨今どのように判断されるのかについての価値の高い内部の意見を得ることができました。
(1)特許される主題についての昨今の評価
現時点では、除外される手段についてのUKIPOの評価は、Aerotel判決およびSymbioan判決にて示された、次の3点を採用しています:
a)クレームを解釈する。
b)人間の知識のストックに対して発明者によって追加されたものの意味において、「実際の貢献」を特定する。
c)その貢献が専ら除外された主題に該当し、そしてそれは実質的に技術的であるか否か。
「技術的な貢献」の概念は、UKIPOがEPOと共通の立場を採択したVicom審決(1986年7月EPO)にまでさかのぼることができます。法律と技術と双方の進化という意味でのダイナミックな変化に対応する柔軟性を提供する模範的な定義にしようとすると、UKIPOでもEPOでも「技術」の明確な定義は曖昧なままです。
Aerotel Testの上記3ステップ目が実際の貢献がコンピュータプログラムであることを定義するものである場合、UKIPOは、コンピュータプログラムが実質的に技術的であるか否かを判断することになります。これは、以下の4点が示された、AT&T,CVON判決(2009年3月)で示された指標の使用に含まれています:
a)発明はコンピュータ外の何かを制御するものであるか?
b)発明はデータ(例えば、メモリ、キャッシュ、またはプロセッサ)よりも、コンピュータの構造に影響を与えるものであるか?
c)発明はコンピュータを動かす新しい方法をもたらすものか?
d)発明は、コンピュータを高速化し、または信頼性を高めるものであるか?
(2)評価の誤った出願への注意喚起
Aerotel Testの特に上記3ステップ目は、実務への適用が難しい可能性があります。審査官が、クレーム全体によって作られる貢献よりもクレームの構成によって作られる貢献を評価したとすると、審査官は誤ってこの発明は専ら除外された主題に該当すると判断することになります。
昨今の経験では、審査官は時折、不適当にクレームの構成を既知のものと未知のものとに分離し、貢献を判断するものと思われます。
(3)新たな展開
(シミュレーションに関する出願についての)2011年のHalliburton判決において、英国高裁は、精神的な行為を除外することは狭く適用すべきと判示しました。Halliburton判決以前は、UKIPOは、プログラマブルデバイスのシミュレーションに関する出願を拒絶していました。しかしながら、現在は、UKIPO審査官は、Halliburton判決を考慮して、シミュレータに関連するケースについては、除外される主題に分類されにくいことを認めました。
(4)今後の見通し
コンピュータプログラムの特許は、コンピュータで実現される新しいアイディアに対する知的財産権を保護するための貴重なメカニズムを提供していきます。この分野での特許出願を起草し、権利を追求するために、最先端技術に貢献する技術的な貢献の試みに注目するべきです。それは英国または欧州の特許を取得する上で重要です。Aerotel Testは、少なくとも当分の間、AT&T,CVON判決で示された指標を適宜参照しながら、UKIPO審査官によって適用されるでしょう。
[情報元]D Young & Co. Patent News Letter, No. 31, October 2012
[担当]深見特許事務所 丹羽愛深