ソフトウェア発明に向けられた技術的な挑戦
技術的特徴はヨーロッパ特許の基本的な必要条件ですが、その重要性はしばしば見落とされます。しかしながら、技術的特徴の欠如は、おそらく、コンピュータで実行される発明の多くがEPO で拒否される唯一の最も重要な理由です。それゆえ、何が実際の技術的特徴でしょうか、そして、なぜ、それはそれほど重要なのでしょうか?
EPC は、発明には技術的特徴がなければならないとはっきりとは述べていません。それならば、必要条件はどこから来るのでしょうか?
その条件が抽出されて技術的特徴の必要条件とされる、運用上の規定EPC 規則42条および規則43 条から、必要条件は推論されます。
コンピュータで実行される発明を考慮するとき、最も重要なものは、技術的課題であろうと言えます。なぜなら、もしも技術的課題が解決されたとすると、コンピュータはその解決をもたらした技術的手段を提供するものであるため、発明が技術的分野に存在し、技術的特徴は本質的に含まれている、ということになります。それ故、技術的課題が解決されるならば、コンピュータで実行される発明は技術的特徴を示すと言えます。
これは、技術的課題の必要性だけが考慮されると言うものでありません。発明が欧州特許が与えられるに値するかどうか判断し、どのように発明を記述するかを判断する際、「解決されている技術的課題は何か?」、「技術的課題は、基本的に技術的か?」、「問題が事実上技術的かどうかに、疑いを投げかけるかもしれない何かがあるか?」と問いかけることから始めるのがよいでしょう。
技術的課題は、非技術的なはじまりを持つ場合もあります。また、非技術的な問題は、通常、技術的課題として人為的に表現されることができる場合があります。特に、コンピュータが含まれるとき、製品を売る方法といったような技術的ではない課題は、より速く、より効率的に、または、リアルタイムに、仕事を果たす方法、といった表現で通常、表わされ得ます。確かに、このような表現は技術的に聞こえるかもしれません。しかしながら、これは適切な技術的課題であるとみなされそうにはありません。
また、コンピュータは、様々な分野で、そして、広範囲にわたる出願で用いられ得ます。したがって、明らかに技術的なものから明らかに非技術的なものにわたっている、広く連続した、問題の「範囲」があること、そして、必然的に、技術的課題があるかどうかを述べることが難しい場合があり得ること、は、おそらく、驚くには足りません。
技術的課題に関して、もう一つの問題があります。それは、「技術的」が何を意味するか、ということです。審判部が技術的であると考えたものの例は、物理的なデータ(例えば画像データや、工業処理におけるパラメータデータまたは制御値)の処理や、たとえば、OS を変化させたり、GUI の操作方法を変化させたり、メモリをセーブしたり、速度を上げたり、セキュリティを上げたりといった、コンピュータが動作する方法に対して影響を及ぼす処理を含みます。注意しておきたいのは、審判部の決定は、審判部に対しては言うまでもなく、審査部を拘束していない、ということです。
では、なぜ、技術的課題の問題は、それほど重要なのでしょうか。簡潔には、もしも審査官が発明は技術的課題を解決しないと思うならば、それは出願の処理に重大な影響を及ぼし、その出願は早々に拒絶されることになり得ます。
発明の進歩性の評価の際、審査官は、いわゆる「問題-解決」手法に準じます。現在、EPO は、長年にわたって、コンピュータで実行される発明を取り扱う際の発明の進歩性を評価するために方法論を開発し、現在、それは、ガイドラインで法制化されています。この手法は、クレームを技術的特徴と非技術的特徴とに分けることを含みます。クレームの技術的な特徴に寄与しない、または、独立して、あるいは他の特徴と結合しても技術的課題の技術的な解決にいかなる寄与もしない特徴は、発明の進歩性の評価には関与しません。これは、技術的ではない特徴が、常に無視されることを意味するものではありません。非技術的な特徴は、技術的な特徴の機能を変えるように、技術的な特徴と相互作用することができ、それによって、技術的な解決に貢献することができます。
そのような作用があるかどうか確認する重要な方法の一つに、技術的課題が解決されるかどうかを考えることが挙げられます。上述したように、技術的課題が解決されるならば、通常、技術的な解決があることになります。その場合、発明の進歩性の評価は、従来のアプローチを使っている普通の方向を続行することができます。しかし、技術的課題が解決されると考えられないならば、その発明が進歩性を有していると主張することを実質的に不可能にする、むしろ異なる手法が用いられます。いったい、我々は、欧州特許から何を学ぶことができるのでしょうか。
審査部と審判部とは、もちろん、技術的課題を探します。その課題は、課題としての観点からは表現されていないかもしれません。裏返して、課題は、効果または利点として表現されることができます。それ故、クレームを単に特徴の集まりとはみなさず、クレームされた発明の効果または利点を課題の解決とみなすために考慮することが重要です。課題を理解して、それが技術的なことを確実にし、そして、技術的課題が出願から簡単に特定されることができることを確認してください。これは、メインクレームにだけでなく、従属するクレームにもあてはまります。
また、発明の記述方法についても気をつけなければなりません。第1に、専門的な分野に発明を置いてください。EPC では関連した先行技術を挙げる必要があります。しかしながら、これは有効に用いることができます。発明を技術的な領域中にしっかりと据えた先行技術を引用しましょう。そして、可能なら、許可された欧州特許出願も引用しましょう。
第2に、コンピュータシステムの型通りの説明に頼ることはやめましょう。コンピュータシステムやコンピュータの構造やスクリーンショットのセットの、標準的なネットワークに関する記述方法とは異なる、コンピュータで実行される発明の記述方法があります。可能であれば、機能的なブロックを記述して、機能的なブロックの各々がサブブロックに分類されることができるかどうか尋ねてください。データ構造を記述してください。データがどのように処理されるかについて述べてください。いずれにしても、どんな技術的な特徴が解決を技術的課題に提供することに関係しているかについて理解させてください。
EPO での起訴のために出願をドラフトする正しい方法など1 つもない点に注意することが重要です。しかしながら、発明の技術的な特徴を伝えるためにきちんと努力が払われるのであれば、疑いなく、成功の可能性は向上します。
[情報元]Venner Shipley’s Intellectual Property Magazine Autumn/Winter 2012
[担当]深見特許事務所 丹羽愛深