IPR およびCBM の申立状況<抄訳>
2012 年9 月16 日、USPTO は、当事者系レビュー手続の申立(IPR 申立)および対象ビジネス方法に向けられた特定の特許に対する付与後レビューの申立(CBM 申立)の受付を開始しました。2013 年2 月28 日現在、米国特許審判上訴部(PTAB)の手続リストにおいて、167 件のIPR またはCBM の申立が確認されています。2013 年2 月には、30 件のIPR 申立が提出されました。一方、3 ヶ月連続で、CBM 申立は報告されませんでした。
これまでのところ、23 件の申立について審判開始の要件が判断されています。全体で、21 件の審判手続が開始され、2 件は却下されています。2 月には、次の12 件の審判(CBM2012-00003, -00010, -00011; CBM2013-00002; IPR2012-00005, -00018,-00019, -00020, -00023, -00033, -00042; IPR2013 -00010)の手続が開始されました。
これら12 件の審判のうち11 件で、申立人の申立理由を絞り込んだ、より少ない理由で審判手続が開始されました。
下記で議論するように、IPR2012-00041(Synopsys v. Mentor Graphics)およびCBM2013-00001(Liberty Mutual Insurance v. Progressive Casualty Insurance)では、申立が却下されました。
(1)PTAB がIPR2012-00041(Synopsys v. Mentor Graphics)の申立を却下
2013 年2 月22 日、3 人の審判合議体(Medley, Blankenship, Bisk)は、「異議申し立てられたクレーム(クレーム1~14 およびクレーム7~20)の少なくとも1つが申し立てられた理由に基づいて無効の合理的見込みがある(reasonable likelihood:IPR の審判開始条件)」と確信できないため、異議申し立てられたクレームのすべてについて当事者系レビューの申立を却下しました。
a)査定系審査と同じ文献であることは必ずしも障害とならない
審判合議体は、「申立において挙げられたすべての文献は、審査において考慮された先行文献と同じまたは実質的に同じである」との理由で申立を却下しませんでした。
この場合、記録によれば、問題の先行文献は、現在再審査されているクレームにないクレーム限定に関して引用されたものと思われます。
このように、審判合議体は、文献’191 および異議申し立てられたクレームに関する申立の議論が過去にUSPTO によって考慮されていたことでは納得させられませんでした。審判合議体は、文献’191 が審査において審査官によって考慮されたとの理由のみでは申立を却下しませんでした。
b)引用による組込み
審判合議体は、Telemac Cellular v. Topp Telecom 事件(2001 年)を引用して、文献’191 は「Chen 明細書の全体を引用によって不明確でなく組み込んでいる」ため、先行技術開示のうちChen の部分は「あたかもそこに明確に包含されているかのように」みなされると述べました。
c)自明性
103 条の下での申立人の自明性分析(102 条の新規性違反のみを申し立て、審判合議体がいくつかの細かい特徴を見落として結論づけるという事態に陥るのを避ける努力と思われる)に関し、審判官は、申立人が「少なくとも、申し立てられた各クレーム要素は、’191 特許に鑑みて本願の当業者にとって自明である」という「裏付けられていない申立」の「背後にある理由付けを明確に説明して」いないと述べました。
審判合議体は、申立が少なくとも
(ⅰ) 申し立てられたクレームの各要素が従来技術のどこに見出されるかを特定するという規則42.104(b)(4)の規定に従わなかった
(ⅱ) 申立を裏付ける証拠の関連性を与える(申立を裏付ける証拠の部分を特定することを含む)という規則42.104(b)(5)の規定に従わなかった
(ⅲ) クレームされた発明と文献’191 との差異を明確に指摘しなかった
(ⅳ) 上記の差異にかかわらず、なぜ当業者がクレームされた本願発明の主題を見出し得たのかを説明しなかったとの理由から、申立人の推論は十分な裏付けを欠いていると認定しました。
d)同じ当事者が関わる他の案件
同じ日に、IPR2012-00042 において、同じ当事者による別特許に対する申立が許可され、同じ審判合議体によって審判手続が開始されました。
(2)PTAB がCBM2013-00001(Liberty Mutual Insurance v. Progressive CasualtyInsurance)の申立を却下
2013 年2 月27 日、3 人の審判合議体(Lee, Chang, Zecher)は、Peterson への特許に関する申し立てられた無効理由に基づいて審判手続は開始されない(申立における情報は、クレーム1-59 がどちらかと言えば無効である(more likely than not:CBM(PGR)の審判開始条件)ことを立証していない)と判断しました。同じ日に、CBM2013-00002において、異なる先行技術を用いた同じ当事者による同じ特許に対する申立が許可され、審判手続が開始されました。
なお、CBM は、ビジネス方法特許に限定した付与後レビュー(PGR)であり、PGRが当面利用できないことに伴う8 年間の暫定措置です。
・「技術的な発明」の意味の考察
a)審判合議体は、方法クレーム53 が、法定上の例外を排し、特許が対象ビジネス方法の特許のレビューに適合するという規則42.301(b)の下での「技術的な発明」ではないとの決定に際し、下記のように詳細な議論を展開しました。
b)審判合議体は、18 条(d)(1)に“用語が技術的な発明に対する特許を含まない場合を除き、金融商品または役務の慣習、管理または経営に用いられるデータ処理または他の動作を行なうための方法または対応する装置がクレームに記載された特許”として定義される「対象ビジネス方法」の特許に対してのみ手続を開始できることに言及しています。
c)審判合議体は、立法経過によれば、対象ビジネス方法の特許の定義は、「金融または金融活動を補完する活動がクレームに記載された」特許を包含するように草稿されたと述べています。さらに、立法の歴史は、「新規性が先行技術に対する技術的な革新をもたらし、技術的な解決法で解決される技術的な問題に関係するとともに、発明者が守りたい技術的特徴をクレームに記載する必要がある特許」のみを対象ビジネス方法の特許としているように思われます。
d)審判合議体は、特許のクレームが1 つでも対象ビジネス方法に向けられていればレビューの対象になると述べました。
e)今回の事件で、審判合議体は、「クレーム53 に記載された健康保険、物損人身保険および損害賠償保険のいずれもが金融商品であり、クレーム53 に記載された保険契約に関する活動は、金融サービスを構成するとともに保険サービスを与える」と述べ、’269 特許のクレーム53 がどのように「金融サービス」に関係しているかを決定しました。
f)クレーム53 はまた、3 つのソフトウェアモジュールを記載し、そのうちの1 つが下記に示されます。
「保険証券の所有者を特定し、公にアクセス可能なネットワークおよびインターフェイスを通じて保険証券の所有者から受け取るデータに応答して、当該保険証券の所有者の現存する保険証券の保険証券番号を確認するための」情報モジュール
g)クレーム53 はソフトウェアに関係しているにもかかわらず、審判合議体は、クレーム53 が対象ビジネス方法の特許のレビューに関する「技術的な発明」の要件を満たさないと決定しました。審判合議体は、「対象ビジネス方法の特許のレビューに関する「技術的な発明」の規定に適合するには、発明が技術的なシステム、特徴または構成要素を利用しているだけでは十分ではない」と述べました。むしろ、対象ビジネス方法の特許クレームは、
ⅰ) 先行技術に対して新規性および進歩性を有する技術的な特徴を備え、
ⅱ) 技術的な解決法を用いて技術的な問題を解決する必要があります。
h)審判合議体は、クレーム53 は全体として技術的な特徴に向けられているというProgressive Casualty Insurance の議論を退けました。審判合議体は、「クレームに記載された発明は全体として、クレームに記載された特定の方法で、保険情報を集めて、転送して、受けて、処理しているだけであり、「より高速なコンピュータおよびインターフェイス」のような技術的革新がないと指摘しました。審判合議体は、明細書もまた、「より高速なコンピュータ」または「より効率的なインターフェイス」について記載しておらず、それどころか「各々の技術的な構成要素をいかに組み合せて形成するかに関する詳細な教示を省略して」おり、これは「クレームに記載された発明が単に従来からのものであって、当業者にはよく知られていることを示していると指摘しています。
i)審判合議体は、革新とは「例えばコンピュータ、ソフトウェア、データベース、電話等の技術に依存し利用して」いるが、「クレームにおいてこれらの技術要素を単に含んでいるだけでは、保険商品および役務を提供する際の上記革新を技術的な発明に変換しない」と述べました。
j)このように、審判合議体は、「本記録では、クレーム53 の主題は全体として、新規性および進歩性を有する技術的特徴を備えていない。クレームに記載された構成要素のすべては、処理されるデータの保険の性質を除いて既知であり、通常の予測可能な方法で実施される」と結論付けています。また、審判合議体は、「クレーム53の主題は全体として、技術的問題を解決するのに技術的な解決法を使用していない」と結論づけています。
k)Progressive Casualty Insurance は、クレームに記載されたソフトウェアモジュールは、技術的な問題に対して技術的な解決法(たとえば、保険代理人の助けなしに保険証券の番号を契約者によって実時間で直接確認することができる)を提供していると議論しました。しかしながら、審判合議体は、クレームに記載された特徴事項を実行するのに利用可能な技術は、一般的に利用可能であり、技術的な革新を必要としないとの理由から、上記の議論を退けました。
l)Progressive Casualty Insurance はまた、「伝統的には、保険業者、代理人または販売人の支援なしに保険業務を提供することはできない」と議論しました。しかしながら、審判合議体は、「上記の議論は、「技術的な問題」に何ら関係しておらず、変更に時間がかかる伝統的な事項を議論しているだけだ」と指摘しました。
(3)PTAB がIPR2012-00022(Ariosa Diagnostics v. Isis Innovation)における地位問題を決定2013 年2 月2 日、3 人の審判合議体(Tierney, Green, Robertson)は、申立人Ariosaの申立を提出する地位に対する特許所有者Isis の異議を却下しました。審判合議体は、この問題を、以下の2つの問題として特徴付けました。
・地方裁判所で非侵害の確認訴訟を提起することが、後にAriosa が315 条(a)の下での当事者系レビューの申立を提出できなくするか否か
・315 条(a)(3)の特許無効の反訴への明確な言及が、侵害の強制的な反訴に対して特許無効の積極的抗弁を主張することによりAriosa から当事者系レビューの申立を提出する地位を奪うとの法的解釈を義務付けるか否か審判合議体は、判例(Cardinal Chem. v. Morton 事件:1993 年)に依拠して「特許無効の積極的抗弁は侵害のクレームに拘束される一方、特許無効の反訴は侵害のクレームからは独立しており、これは非侵害の発見にも対抗できる。」と述べて、上記の両問題に否定的に(すなわち、Ariosa は、いずれの場合も当事者系レビューの申立を提出できると)回答しました。
[情報元]Greenblum & Bernstein, P.L.C. NEWSLETTER, March 1, 2013
[担当]深見特許事務所 紫藤則和